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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
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第4部31章『堕天使』23

 北塔の中程にある小部屋は、城勤の兵士が喧嘩をしたり、過失や怠慢が見つかった時に使用される反省部屋のようなもので、懲罰房という程のものではない。せいぜい1、2日入れておく為の簡素な造りだった。

 ベッドと小机等でもう一杯のとても狭いものだったが、それでも小窓からは光が射し込むし、地下の牢に比べれば冷えもせず、ジメジメともしない、なかなか清潔で快適な空間である。

 金属製の扉にある小さな覗き窓には鉄格子がされているので、ここが印象の悪い監禁部屋なのだという雰囲気はそこによく出ていた。

 今は夜なのでとても暗く、蝋燭1本の明かりだけが部屋の中を満たしている。幅の狭い頑丈な造りのベッドに腰かけ、鎧を脱いだ軍服だけの姿で、ソニアは蝋燭の炎を見つめていた。もうじき、この部屋に見合った軍服ではない服が届くであろう。

 扉の外では、一応その役目を許されたディスカスが立って熱心に番をしている。勿論、脱走の見張りではなく、ソニアの安否を気遣う従者としてだ。彼はヴィア=セラーゴで起きている物事に意識を集中させているうちに起きてしまった、この度の変事に、彼なりに責任を感じて落ち込んでいた。情報を拾い損ねるというのはプライドが許さないこともあるし、今回あの衣装のことが明るみに出てしまった経緯に自分も絡んでいるものだから、今この部屋にソニアがいることは自分のせいだと思っているのである。

 他の番兵もいる為に、あまり大っぴらな会話はできなかったが、何度か彼は彼女に謝っていたし、皇帝軍側の動きについても「外のことは大丈夫です」とやんわり伝えることができたので、彼女に当面の安心感を与える役には立っていた。

 今、玉座の間では長い長い論議が行われていることだろう。終了したとしても、その後でアーサーと王だけの話もあるはずだ。

 あの2人は自分のことをどう思うだろうか。大切な友人を失い、人々にも冷遇され、自暴自棄になったと捉えるかもしれない。確かに、皆の視線もあの仕打ちも、自分に踏み出すきっかけを与えはした。皆が一斉に自分から離れようと後退り、向けてきたあの眼差しは、とても忘れられるものではない。

 ルークスのことだけで既に体中を痛みが覆っていたのだが、これらは更に自分を傷つけ、深く抉っていた。

 だが、後悔はない。今までしてきたことも、今日したことも。力不足の程にやり切れない思いはあるものの、自らの選択に悔いはない。今はただ、傷の疼きと苦痛が一杯に広がり、とにかく深く眠ってしまいたかった。何の夢も見ずに。

 話が終わり次第、アーサーが現れるに違いないと思って少し待っていたが、もう耐えられなかった。ソニアはディスカスを呼び、アーサーがやって来たら起こしてくれるように頼んだ。そして、もしそのまま彼が引き返そうとしたら、一言謝っておいて欲しいと託けた。

 ディスカスが承諾の印に頷くのを見届けると、ソニアはベッドに横たわり、毛布に包まって芋虫の様に身体を折り、縮こまる様にして横になった。

 蝋燭の火を消した室内は闇になり、一日ぶりに見たその闇が、ほんの一日前、まだ生きていた者の姿をそこに蘇らせた。

 戦士であることも、城での暮らしも地位も、全ては夢幻。

 ほんの一日前、生きてこの手に触れることのできた者も、今はこの世にいない。

 大気の夢。解き放たれていく彼の心。

 たった一日前、自らを掻き毟り苦しみに喘いでいた彼を止めようとして全てを投げ出した時に感じた彼の熱、あの温もりも今はもう失われ、この世の何処にも存在していないのだ。

 失われるということは、そういうことなのだ。

 闇の中に身を置くことで、今まで以上に本当に、ソニアは喪失感を味わった。涙が止めどなく流れ出てきて、彼女はますます身体を縮めた。

 心の中で国王やアーサーに何度も謝り、喪失感の中にあるからこそ尚強く、2人に愛情を感じた。だが、愛があればこそ、この先2人の側にいてはならないと思い、それが更に彼女を喪失感の只中に置いた。

 そして闇の森に入り消えて行く者の後ろ姿を思った時、彼が消えて行ったあの闇の先に、自分も行くことができるだろうか、とふと考えながら、彼女は泥のように深い眠りに落ちていったのだった。

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