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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
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第4部31章『堕天使』19

 長官は、床に広げられた衣装を挟んで、ソニアとアーサー2人に対して平行に何度も行ったり来たりしながら、後ろ手に組んで話し続けた。目はずっとソニアだけに向けられているから、まるでネコ科の生き物のようである。声は次第に高くなっていった。

「この数週間というもの、貴女の行く所、いる所、狙いすましたかのように事件が起きていた! 近隣の村で起きた事件などが正にそれです! これまでは偶然だろうということにしてきましたが、どうもおかしい。そしてここへ来て、この噂です。唯の見間違いだと一笑に付すことはできませんでした。何故なら……有り得ることだったからです! 手懐けているとは言え、おそろしい魔物である飛竜を連れてきたり……いつ何時暴れ出すかもしれないのに、こんなに民の側に置いて……今はビヨルクにいるから、いいようなものですが……。これまでもそうでした! 国王陛下が寛大にお許しになっておられるので敢えて執拗に反対はしませんでしたが、貴女はいつも国民を危険に陥れかねない真似をしてきた。人間の安全を第一と考えているようには思えず、領土内の魔物を無闇に殺さぬよう布令を出すなどして……! その貴女が、ヌスフェラートと密通していないとは否定しきれない。むしろ、有り得ることだと思いました! もしそうだとしたら、どうです? 人間の街を襲撃するようなおそろしいヌスフェラートの男と密通していることが事実だとしたら、それがどんなに危険なことか……! 仮にもこの国の防御の長たる者が、もしそのような事をしているのだとしたら……!

 我々には何としても真相を確かめる義務があったのです! それをご理解なさったから、国王陛下も捜査を許可されたのです!」

アーサーは怒りと興奮とで顔を赤らめて肩を震わせた。これまでも意見の合わないことが多い者同士であったが、ここに来てそれは一層顕著となった。総務長官として、他の者もその役職を担う者として、今この時代において考え、取った行動なので、当然と言えば当然であった。

 だが、ソニアに対してそのような不信や批判を向けることは、アーサーにとって耐え難い侮辱だった。今まで何年もこの娘を見てきて、その尊さ、聖さに何も感化されなかったのか、そちらの方が理解できない。一体、今まで何を見てきたのだと叫び出したくなる。

 しかし、そんな事をするのは事態を悪くするだけのように思われたので、可能な限り彼は怒りを抑え込んだ。

「……あんた達がそんな風に彼女を見ているとは驚いた。こいつは、これまで何にも優先してこの国を護ろうと務めてきたんだぞ……? それをこんな風に……」

アーサーはハルキニアだけでなく、その場にいる者達全員に顔を向けて言った。気まずそうに顔を伏せている者もいるが、そのうち参謀長官が代わって口を開いた。

「この国の防衛に対する誠意と熱意を疑ってはおりません。ですが……敢えて言うならば、やり方は必ずしも皆を安心させるものではありませんでした。結果が、それら全てを補っておりましたが……それでも、不適切ではないかと思う事も多々ございます」

参謀長官が加わったことで意気を得たかのように、財務長官も加わった。

「アーサー殿はソニア殿を慕っておられるから、そのように申されるのも解りますが……こうして疑いを抱く者が多いことは事実なのです。どのように否定されましょうとも、疑いを抱かれること、それ自体が、そもそも問題なのです。噂や情報を侮ってはいけません。財政に関わると人々の敏感な反応をよく目にしますので、私は仕事柄それをよく感じております」

「メキタ……ジカン……」

アーサーは手を広げて、どうしたんだと言うような仕草をして双方を見た。これまで一度も彼女のことを否定的に言う者がいなかったのに、急にここへ来て言い始めたものだから、腹の底ではそんな事を思いながらこれまでニコニコと笑っていたのかと、裏切られたような気分になる。

 総務長官ハルキニアは再びソニアとアーサーを正面に見据え、言った。

「もしこのまま疑いを晴らさずにおきますと……どのようなことになると思いますかな? おそろしい飛竜を連れ込んで、ヌスフェラートと結託し……軍隊長殿はこの国を乗っ取る計画を立てていると言い始められますぞ!」

これにはさすがにアーサーも怒鳴った。

「――――何だって?」

言い合いを続ける者達を、ソニアは呆然としながら、あまり焦点を合わせず、見るともなしに見ていた。話を耳に入れていながらも、頭の中では大気の夢が蘇り、新しい傷の痛みが彼女を麻痺させていた。

「今まで軍隊長殿のお陰で、この国が防衛上、結果的に安泰であったことは認めます。死者も怪我人も、現在までの所は数字の上で最小に留められてきました。――――だが、それとこれとは別なのです! 是非、明らかにして頂かなければならない! 簡単なことではないですか。ヌスフェラートと会っていたのか、いなかったのか、それをただ答えればいいのです! もし違うのであれば、見間違えられた真の人物をここへ連れて来れば良いだけなのですから!」

衣装を挟んで断固たる意思を示す立ち姿で、ハルキニアはソニアに言い放った。

「――――さぁ! お答え下さい! 貴女はヌスフェラートの男と会っていたのか! いなかったのか!」

ハルキニアの叫びの後、玉座の間は静まり返った。彼の誘導が見事であった為、同意者、中立者、反対者、その誰も言葉を挟むことができなかったのだ。もはや次なる言葉は、ソニアから発されるものしか許されないような張り詰めた空気が漂った。

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