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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
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第4部31章『堕天使』15

 乾期の抜けるような青空の下、冷めやらぬ興奮と盛り上がりの中にあるトライア城下街の一角。夜は酒場通りとなるが、今は祭に合わせて昼にも飲み物や軽食を出している店々の1つに、馴染みの客である城の高官が顔を見せに来ていた。

 高官達が御用達にしている有名店や高級店は他にあるのだが、このトライア総務庁副長官は隠れ家的な、少々王道から外れて小ぢんまりとしている雰囲気を好む性格だったので、長年この飲み屋を愛用しているのである。

 そして、その店の看板娘で、今や女主人となっている美女にも長年憧れを抱いていたので、こんな時でも顔を出し、彼女の機嫌を取ることを忘れていなかったのだ。

 未婚ながら花娘として参加しない彼女の為に豪勢な花束を持参して店に入ると、何やらいつもと違った様子で出迎えられ、彼は店の奥へと案内されて、深刻な表情の彼女に話を切り出された。なるべく他の人間に聞かれぬよう、店の一番奥にある小部屋に通され、扉も閉めて密室になっていたので、この男は一瞬あらぬ期待を抱いたいのだが、彼女の用件はそれとは全く異なる、だが極めて危険なものであった。

 この国の最近の出来事について、トライア幹部連の中でも懐疑的な意見を持つ総務長官のすぐ下で働くだけに、この男も同じようなものの考え方をする立場にあり、そのことを常日頃この店に飲みに来ては彼女に話していたものだから、彼女はこの男を見込んで密かに告発することに決めたのである。

 彼女の立場と都合上、幾分話は脚色され省かれ作り替えられていたが、それでも一番重要な部分はそのままこの男に伝えられた。

 それは、場合によってはこの国を揺るがすかもしれない、おそろしい話だった。

 彼女がこんな話を作り上げたり、でっち上げたりする動機は何もないから、彼女が本気で話をしていることは男もよく理解していた。だが、何かの間違いではないかという考えも一方にはあった。証拠となる事実を彼女が幾つか挙げているものの、それらは全て聞き間違いや見間違いなのではないかという風に思ってしまう。それは、こうして足繫く通いつつも、心の何処かで女性を軽く見ていることの表れでもあり、また、懐疑的かつ慎重な人間の特性でそう考えるのだ。

 だが、もう一方では、真実を確かめる価値が十分にある重要なことだとも強く感じていた。これまでに起こった数々の事例や嫌疑は、その出来事が起こり得ることを示している。

 極めて慎重に事を進めなければならないが、動く必要はあるように思われたので、その副長官は他言しないことを彼女に言い聞かせ、この先については全てこちらが請け負うと言った。彼女の方も、告白者の匿名性を厳守するよう彼に誓わせた。

 今日一杯、祭を楽しむ予定だったのだが、それどころではなくなり、彼は店を出ると足早に城への道を急いだ。今夕に予定されている宴会の前に、知らせるべき者達にこの事を知らせなければならず、調査の為にあらゆる手を打たなければならない。

 事態は急を要していた。

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