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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
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第4部31章『堕天使』12

 できるだけ早く現場を離れて人間の姿になり、人間社会に隠れなければと思ったゲオルグは、バワーム王国に直行してエランドリースに戻った。その頃は真昼間であったから、人目につかずに入城するのはかなり難しかったのだが、何とか巧く城内の居室に辿り着いて着替えをし、暫く部屋で休みを取ったのだった。

 これまで竜の研究を進めたことはなかったが、マキシマという完璧な存在を作り上げようと考えてから、竜が敵であった場合の有効な戦略について調べる機会はあり、彼は竜が特に興奮状態になったり錯乱したりする成分や植物、魔法などを調べていた。その際に竜避けとして調合していた薬品を保管していたので、今回はそれを持参して使ってみたのだが、効果は驚くほどだったので彼自身とても驚いていた。

 竜はとても精神的に敏感で、近くに狂った者がいれば同調し易いという。例えば家族であったり、普段行動を共にする集団の仲間などであれば尚更だ。そこで薬品と魔法によって錯乱を引き起こしてみたところ、連鎖反応によって大規模暴動に発展させることに成功したのだ。

 そこまでは良かった。だが問題は、その後だ。遠巻きに状況を眺めていたら、ヴォルト唯一の弟子と噂に聞いたことのある者がやって来て、事を収める為に手を尽くしたものだから、やがて騒ぎは静まっていったのだ。

 現在の世界において、竜時間(ディナソル)が使えることが世間的に明らかになっているのは、この弟子とヴォルトの2人だけである。ヴォルトは竜人だから使えて当たり前のようでもあるが。だから、その弟子に見つかって、流星術で逃げようとした時に追い縋ってきたのが彼だと判った所で、是非その力を自分も得たいと思い、僻地に移動して決闘したのである。

 本当は、殺さなくてもよかった。力を得られさえすれば事足りたのだ。だが、相手がかなりの強者であった為に手加減などというものができず、必死で身を守ろうとした結果、ああなったのだ。

 正直、これはとてもまずいことになったと思う。竜王大隊に喧嘩を売ったどころの話ではなくなってしまった。何しろ、各大隊で言うなら副長クラスの、それもヴォルトの大切な弟子を葬ってしまったのだから。きっと、ヴォルトは報復を試みてくるだろう。

 あれだけ事が大きくなれば、トライアが攻撃されソニアが危険に晒される危険は遠退いただろう。だが、いずれは誰かが攻めに行くだろうし、今度は自分がもっと皇帝軍に狙われることになった。ヴィヒレアの時は殺さなかったが、今回は殺してしまったのだ。

 この国でやろうとしていた実験を早々に済ませて、もっと見つかり難い所に隠れなければ。竜人がどれ程の神秘を備えているか知らないから、できるだけの防御策を講じておかなければならないだろう。

 一息ついたゲオルグは、隠密行動に長けた部下に皇帝軍の動向を探らせ、特にヴォルトがどうしているかを調べて逐一報告するよう命じた。こちらからも、度々現況について直接情報を得るようにしようと決める。

 そしてバワーム王国の農業研究者として居室から出て行き、颯爽と研究農園に向かった。城内で行き交う人々がやけに自分のことを見るのに気がついたが、彼は不思議に思いつつも悉く無視して通り過ぎて行った。部屋を出る前に姿見で人化術に綻びが出ていないか、服装に乱れがないかはきちんと確かめているので、見た目がおかしいということはないはずだ。

 実は、彼は知らなかったのだが、先日のマリーツァとのやり取り以来、噂が大いに広まって、今や彼は人々の好奇の目に晒されている時の人なのである。まさか、あれがマリーツァの想い人なのではないかと人々は確かめるように彼の姿をジロジロと眺めて目で追った。

 この通り実務一点張りの厳しい雰囲気しか放っていないし、下らない質問でもしようものなら食ってかかってきそうな見た目の仕事人間だから、誰も近づいて直接真相を訪ねてきたりしないので、彼は理由を知らないまま研究農園に到着した。

 これまであまり人通りのなかった城内農園なのだが、今日はやけに人が多くウロウロしている。その誰もが、いつマリーツァと出会って彼がどんな反応を示すのか、その現場をこの目で見てやろうと、暇さえあれば農園を訪れていたのである。彼がその真相を知ったら、ますます人間という生き物に呆れたことだろう。

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