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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
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第4部31章『堕天使』11

 ヴィア=セラーゴでは竜が再び暴れ始めたものだから、鎮圧に人々が右往左往していた。先程より規模は小さいのだが、ルークスを欠いているので事態の収拾に手間取っている。

 騒ぎを聞きつけたヴォルトは皇帝との会談途中で席を外して再度竜鎮めに当たった。今回で2度目であるから、もうさすがにダメなのだろうかと出陣を諦めかけながら、竜を一頭一頭丁寧に失神させているうちに、ふとルークスの姿が見えないことに彼は気づいた。

 ずっとこの場にいるヌスフェラートの兵や獣族の兵に彼の行方を訊いてみるのだが、誰も解らないと言う。

 そのうち一人だけ、何処かに向かって彼が走り去った直後に流星が飛び立ったと証言した。犯人を見つけたのだ。ヴォルトは確信した。パースメルバ抜きで相手の流星術に乗ったのであれば、自力で戻って来ることはルークスにはできない。だが、一体何処にまで行ってしまったのだろう。場合によってはこちらで見つけて連れ戻してやらねばならないのではないだろうか。

 そう思った時だった。胸騒ぎが急に込み上げてきて、彼の中で何かが弾けた。こんな事はかつて数回しかなかったが、ヴォルトには解った。ルークスに何かあったのだと。全身の鱗がザワリと立ち上がる。こうなって改めて、彼はどれ程あの弟子を自分が愛しているのかを悟った。

 優先順位が変わり、最悪の場合は殺して鎮めても構わないとヴォルトは対処員に告げ、手を貸しに来てくれたラジャマハリオンや他の猛者達に、済まないが少しだけ外させてくれと断ると、流星術で彼方に飛び立っていったのだった。

 まるで渡り鳥が行くべき土地を過たず覚えているように、地球上の何処でルークスが弾けたのかをヴォルトは感じ取っていた。竜には特別な感覚が備わっており、長年時を共に過ごした者であれば尚のこと、その者が今、何処にいるのかを感じ取ることができるのだ。それが、どんなに離れた所でも。

 ヴォルトは、中央大陸ガラマンジャ北部の山林地帯に降り立った。人里離れており、皇帝軍の者もまず立ち寄ることがないような場所だ。山々の間を縫うように流れる川が細り、川岸ばかりとなっている。木々は針葉樹林で、山の傾斜も険しい。

 その、水量が減って川岸になっている砂利敷きの岸辺にルークスは倒れていた。

 ヴォルトは、そこにそっと近づいて行った。

 胸を何かで刺されたらしいルークスが、口からも血を流しながら何処か遠くを見ている。スーツが真っ黒だから出血の具合が傍目には解りにくいのだが、実に夥しい量の血液が流れ、下の砂利に吸い込まれていた。石の下には、さぞかし深紅の絨毯が広がっていることだろう。

 何があったのだ?

 ヴォルトは衝撃に打ち震えながら、その様を見下ろし、心の中でルークスに問いかけた。

 何も、感じない。完全に逝ってしまっているのだ。

 竜人に涙腺はないので、ヴォルトは涙を流さなかった。だが、心の中ではさめざめと泣いていた。現場を見ても、手掛かりとなりそうな物は何も落ちていなかった。

 体を屈め、死体にそっと触れてみる。まだ温かい。すぐに来たから、生前のぬくもりを身体がまだ抱いているのだ。

 今ならまだ間に合う。ヴォルトは膝を折り、胸の傷口とルークスの目にそれぞれ手を置いた。血や肉体が完全に生命の炎を失う前に。

 血と、ルークスの目が直前に記憶したものがヴォルトの脳裏に映し出されていく。

 虫人のような人物。その腕が伸びて、ルークスの胸に突き刺さる。

“マキシマ” “戦士じゃない” “あらゆる種の複合体”

 武器を使わずにルークスを直接自分の手で刺したものだから、ルークスの血――肉体がマキシマの標識とでも言うべき個体の臭いを記憶していた。それをヴォルトは確かに読み取った。そして決して忘れぬよう、頭の中に刻み込んだ。

 ルークスよ、お主の仇は必ず取るぞ。

 そう誓い、ヴォルトは弟子の身体を抱き上げ、肩に担ぎ、武器も手に取って再び流星となった。

 今から急げば、まだ呼び戻しに間に合うかもしれない。それに、この弟子は普通の鍛え方はしていないのだ。何しろ死からも再生し蘇る幻の竜、グラスマの心臓を食べている。その辺の戦士とは訳が違うのだ。普通よりもずっと復活を遂げておかしくないものを備えているのだから。ヴォルトは、それに望みを託すことにした。

 仇を取るまで、竜王大隊の進軍どころではない。それは皇帝も解ってくれるだろう。全て決着がつくまでは、他に目を向けてなどいられるものか。

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