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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
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第4部31章『堕天使』9

 ルークスは一切の様子見的時間を許さずに竜時間と自身最高の技を持ってマキシマに猛攻撃を加えた。さすがにこれを防ぎ切れないマキシマはかなり深い傷を負っていく。一度開いた傷が塞がる前に同じ所を突けば、刃先が体内に達して大ダメージを与えられるはずだ。そして一度でも倒れれば、そこを狙って連続打撃により槍を貫通させられるだろう。

 ルークスは、あと数十秒で全てを決するつもりで限りなく己を集中させた。両者スピード技の戦士だ。長期戦には向かない。徹底的に攻めて、攻めて、攻めまくる。

 少々焦りを見せ始めたマキシマは魔法の閃光を放った。それを、防護バリアを発動させたままルークスが鎌の一旋で弾き返してしまう。さすがにそんなことができると思っていなかったマキシマは、それをもろに喰らってしまい倒れた。

 そこへすかさずルークスが、かなり長い竜時間をかけて舞い上がり、渾身の力で最終奥義を放つべく鎌を振り翳した。全てが止まってるこの間に、この技をお見舞いすれば、それで勝負が決まる。

 これで――――――

 しかし、誰も動くはずのないこの世界の中で、咄嗟にマキシマが身動きした。そして今まさに鎌を振り下ろそうとしているルークスを見るや、刃のような腕を瞬時に長く長く伸ばし――――空中にいる為に、また完全に技を繰り出す体勢にある為に防御への転換ができないルークスの懐深く刃を到達させ、刺し貫いた。

 それは、ルークスが技を放つのとほぼ同時だった。

 衝撃波が確かにマキシマを襲い、外骨格が激しく傷つく。そして技の勢いのままにルークスの身体はもっと刃に深く沈んでいった。

 まだ、竜時間が続いていた。マキシマはそれを自覚していないのだが、ルークスには解っていた。片や横たわったまま、片や立った状態であったが、2人は互いを見合った。マキシマの傷だらけの外骨格は、至る所から胆汁色の泡を吹き、シュウシュウと音を立てている。

ルークスは鎌を振り下ろした格好のままで、正に胸のど真ん中を刃に刺し貫かれ、呆然としているような、怒っているような、そんな形相であった。

 かつて命の危機にさらされた時にルークスが竜時間を使えたように、このマキシマもまた同じ理由でそれを使うことができたのだった。それを、この今際の際、ルークスは悟った。だが、マキシマの方は全く解っていなかった。ただ、運良く隙だらけの瞬間を見極めることができたとしか思っていなかったのだった。

 マキシマは息を切らせつつ、刃の形にしていた腕をスルスルと縮めて引き抜いた。その途端、ルークスの胸からドッと生暖かい血が溢れ出る。グラリと一度よろめきながらも、まだ彼は立っていた。そして、皮肉めいた笑みで口元を歪ませた。

 これまで自分の命綱であった竜時間によって、今度は自分が滅びるとは。こんなことがあるなんて……。

 ここまでの傷を負った時、治療術を会得している者でも自分で自分に呪文を施すことができない。相当なレベルで回復呪文を極めて無言で念ずるだけで発動できる者ならば、或いは可能なのかもしれないが、今のルークスにはそんなことは無理であった。

 次第に血が喉元までせり上がってくるのが解る。肺を刺されているのだ。瞬間的には凄まじい激痛が全身に走っていたが、出血し始めた今は逆に、どんどんと感覚が鈍くなってきている。

 もう一度グラリとよろけ、今度こそルークスは、そこにどうと倒れた。武器も手を離れ、カランカランと音を立てる。顔が横を向き、口から血が流れ出た。お陰でまた少し気道に空気が通る。

 マキシマは徐々に回復する身体で立ち上がり、ルークスを見下ろした。ルークスも目だけ動かしてその様を見た。表情などが全く判らない顔なのに、何故かルークスはマキシマが勝ち誇っているのではなく、自分に手を下したことに躊躇いのような感情を抱いているのを感じ取った。

 どうしよう、仕方がないが、やってしまった、という事後の震え。

 一体こいつは何なのだろう。改めてルークスはそう思った。

「……あんたは大した戦士だった。噂に聞いてた通りの。だが……運が悪かったと思ってくれ。あんたには何の恨みも持っていないが……こうする必要があったんだ」

自分を正当化しようとしているのか、自分で自分を納得させようとしているのか、そんなことはルークスにはどうでもいい。

 彼は、まだどうにか出せる声で、こう言った。

「……ヴォルトには……手を……出すな。……だが……皇帝軍を……邪魔するつもりなら……徹底的にやれ……滅ぼせ……」

こんな事を言われて、マキシマはますます戸惑っているようだった。

「……何故、そんなことを言う? あんたは竜王大隊の一員なんだろう?」

もう、ルークスに返事はできなかった。新たな血が喉に溢れてきて、ゴボリと吐き出してしまう。どんどん視界もボヤけてきている。後は思考の世界。そして想いばかりとなった。

 走馬灯のように自らの人生が頭の中を過っていく。父、母、デレク、ヴォルト、パースメルバ。そして……光り輝く乙女と、その先に通ずる光輪を戴いた女神。

 こんな所で死ぬことがヴォルトに申し訳なく思う。

 ああ……これで、愛する人を傷つけることはもはやあるまい。だが……守ることもできなくなってしまった。

 彼女は……あの女性(ひと)は……この先どうなるのだろう……

 血塗られ、苦しみだらけだった彼の人生だが、この最期の瞬間は、愛と、愛する者を案ずる想いだけで満たされていた。

 そしてその想いも大気中に解き放たれ、散っていったのだった。

 目を薄く開いたまま、ルークスはそこで絶命した。

 それを見届けたマキシマが、弔うかのように少々首を落とし、それから流星となり去って行った。

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