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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
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第4部31章『堕天使』8

 戦士ではないのだ! ルークスはそれを悟った。この人物の主としている本来の生き方は戦士ではなく、このような怪異を起こす魔術や技術の研究なのではないだろうか? だとすれば、ディライラで人間の身に起きたという怪現象の説明もつく。こいつは、自分の開発した技術を試しているのでは? 戦場はその格好の場所であるから、ディライラで出没し、今回は竜にまで手を出したのだ。

 皇帝軍には属さずに生きているのだろうか? このような技術を開発できそうな種族はある程度絞られてくる。獣族、虫族、鳥族、ドワーフ族あたりはまずあるまい。竜族も、こんな事を開発する必要がないので着手することはないと思われる。すると、ヌスフェラートやエルフ族だ。ルークスは交わし身を続けながら瞬時にそれだけのことを直感で感じ取った。

 これ以上見ていても仕方あるまいと区切りをつけると、今度は攻撃に転じていく。素早いなりに、その幾つかを避けることはできるのだが、長年訓練された太刀筋を見切るのは無理というもので、マキシマは次々とルークスの鎌に斬りつけられていった。が、鎌の刃が立たない。弾き返されるか、ツルリと滑ってしまう。

 そこでルークスはもっと力強く、鎌の魔石も発動させて破壊力を高めた上でマキシマを斬りつけていった。そうすると、どうにか傷を負わすことができるようになる。手足や首を一太刀で落とすというのは、この身体の強度からして無理なようである。

 通常ならば、こうなったところで相手に敵わないことが解り、焦りや怯えを見せ始めるものであるが、このマキシマは全く落ち着いたもので、傷を負わされても平気な顔をしていた。痛みがないわけではないようなのだが、命の危険を全く感じていない様子で攻めの体勢を変えてこないのだ。

 やがて、その理由がルークスにも解った。マキシマの体表面に細くついた傷口から、細かな泡が立っているのだ。胆汁のような黄色い泡である。そして数立ち回りのうちに、先程まで傷があった所が何もなくなっていたりするのを目撃したのだった。

 何ということだ! 再生能力付きなのか!

 こうなると、とても厄介だった。再生する前に息の根を止めるような強烈な一撃で倒さない限り、今のやり方では相手は倒れないだろう。短時間で確実な致命傷を与えるのだ。

 ルークスの方はマキシマの動きを見切っていたので、ほんの一掠りもさせていなかったが、長期戦になって疲労が出てくれば、それも危うくなる。何といっても、動きが凡庸であるとは言え、戦闘スピードは世界トップクラスだからルークスもそれに合わせているのだ。

 もっと竜時間を使わなければ。そう決めて、ルークスは度々竜時間を発動させては強打を狙った。

 ヴィヒレアの時は肉体そのものを使って相手が攻撃したから、ヴィヒレアの腕なる刃を直接身体に喰らって、その性質を取り込むことに成功していたマキシマなのだが、今回の相手は優れた武器を使う上に、前評判通りとても優れた身のこなしと業を持っており、少しも触れることができないので、マキシマの方もここで作戦を変えてきた。

 マキシマは呪文を唱え、魔法の霧を発生させた。最大級の迷いの霧だ。怒涛のようにミルク並みに濃い霧が発生して谷間を埋め尽くし覆っていく。そこに大きな霧の川が出来上がった。

 これを直接吸い込むと精神異常をきたすから危険なのであるが、ルークスは武器と鎧を共鳴させて防護バリアを強化し、霧の影響が到達しないようにした。これで、視界が悪いことを除けば問題はない。

 ルークスはマキシマの気配を探った。すると、何かが弾ける音がする。その直後、体表面に痛みが走った。見ると、細い釘のようなものが何本か身体に突き刺さっているのである。敵の身体が見えたらすぐに竜時間を発動させようとしていたが、これは全くの予想外だった。

 毒があるといけないので、ルークスはすかさずその釘を全て抜いてしまい、治療より先に毒抜きの魔法を己にかけた。

 そうしていると、今度は見る見る霧が晴れていく。術者本人が魔法を解除したのだ。濃い霧が薄くなって、あっという間に元の視界に戻ると、再びマキシマが攻撃を仕掛けてきた。ルークスは傷を塞ぐ暇がない。小さいからドッと出血するようなことにはならないが、それでも血が出ていた。矢のように殺傷目的の返し等が刃先についていなかったし、内臓に達するような深さにまで刺さっていないから、深刻な傷ではない。だが逆に、マキシマが何を目的としてこんなことをしたのかが解らなかった。

 再び攻防が繰り広げられ始めると、動きによってその血が飛び散ることがあり、それがマキシマの身体に降りかかった。胸の部分である。

 するとマキシマは一旦下がり、ルークスと距離を置こうとしながら、その血を自分の手で拭い、顔を少し変形させて――――それもまた驚く光景だったが――――柔らかそうな口が出現すると、その血を舌でペロリと舐めたのだった。そしてまた顔全面を完全な外骨格で覆ってしまう。

 これが目的だったのだとルークスは気づいた。自分の血を体内に取り込むことによって、あいつは自分の力を己のものにしようといている!

 マキシマはまだ距離を置きたがって、ルークスが前に出れば後退し逃げ回った。新しく取り込んだ力が適応するまでの時間、間を置こうとしているのである。

 仕方なく、この隙にルークスは自分の傷を魔法で治した。

 果たして、これでマキシマがどのような変化を見せるのか、それに注意を払い、またいつでも竜時間を発動できるよう緊張感を昂らせて動きを見極めんとした。

 簡単に扱えるはずのない竜時間。自分があれほど苦労して使いこなせるようになったこの神秘を、一朝一夕で会得されてなるものかと思う。だが、万一の時に備えて、できるだけ早くこの気味の悪い戦士を倒してしまわなければ。

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