第4部31章『堕天使』3
ルークスは休む間もなく次々と竜を落としていった。中にはより獰猛で危険な種類もおり、扱いは困難を極めた。引っ掻かれただけで即死する可能性がある猛毒の竜もいるし、火を吹くのやら雷電を発生させるのやら、色々だ。それを知って巧みに行動しなければ、こちらの命も危うくなる。
やがてはヴォルトも加わって、この2人が主となり、竜達を次々と地に落として気絶させていった。ルークスは心の中で密かに期待した。これだけの妨害行為があって竜達のコンディションも散々なことになっているから、竜王大隊の出撃は見送られ、トライアの侵攻はなしになるのではないか、と。いずれ攻撃されることに変わりはないだろうが、どうかこれを機に竜王大隊が退いてくれないものかと願った。無事に鎮圧出来たら、それとなく提案してみようとも考える。
しかし、一軍団を成すはずだった竜の数は相当なものだった。叩けど叩けど減っていく気がしない。自分はともかく、パースメルバの体力が心配だった。相棒が持たなくなったら同じ戦法が使えなくなってしまう。ギリギリまで戦うにしても、パースを潰したくはなかった。限界が近づいたら、そこで引くしかない。
ルークスはヴォルトに寄った。
「――――確かに様子がおかしいです! 一体いつからこんなことに?」
「ここに集合してすぐだ!」
「我々がナマクア大陸を請け負ってすぐにこんなことになるなんて、皇帝は何とお考えで?」
「事がハッキリするまでは何も言わないようだ。とにかく内部調査班が組まれて、既に走り回っている!」
妨害者がいる前提で、それを突き止める動きは方々で始まっているということか。それならば進軍を止める口実にもなっていいだろう。
しかし、一体本当に誰がこんなことをしたのか? 権利を取られた魔導大隊がこんな事をするのか? それは有り得ないように思う。襲撃先でならまだしも、他の大隊まで害を被るこんな要所で騒ぎを起こすなんて、あまりに策に薄い気がする。何しろ真っ先に疑われそうなものだ。魔導大隊であれば、竜を錯乱させる魔法や狂わせる毒など容易に手配できそうではあるが……。
今の時点でルークスが直感的に感じられることとしては、それが何者であれ竜王大隊の妨害をした者は、まだ近くで様子を見ているはずだということだった。己の目的がきちんと達成できるか、その目で見届ける為に。
この竜達を早くどうにかして、そいつを見つけ出したい。だが、鎮圧できた時にはもう去ってしまうかもしれないだろう。だから、かなり際どい戦闘ではあるが、それを行いながらも同時にそいつを探さなければならない。このまま取り逃がすなんてことは、ヴォルト第一の弟子として許せなかった。
ルークスは竜を仕留めては地上や建物にも目を光らせて、ただ傍観をしている者がいないか探った。大抵の者は怖れて引っ込んでいるか、きちんと表に出て事態の収拾に手を貸しているかのどちらかだ。それとは違う雰囲気の者がいないか、彼は目に頼って探した。
なかなか相手も狡猾なのか、目立った相手は見つからない。そうするうちに、どんどん時間が過ぎ、竜は殆ど鎮静化されたのだった。朝になり太陽が昇って、大山脈の頂にその光が当たって見える。
さすがに疲労困憊したルークスは、ここまでよく持ってくれたパースメルバと共に地上に降り立った。暫くゆっくり休ませないと、この相棒は暫くは飛べないだろう。自分も身体のキレを最適に保つ為にも、ここで休息を取りたいと彼は思った。
ヴォルトもやって来た。
「よくやってくれた。多くの竜を殺さずに済んだ。お主が来てくれて助かったぞ」
「飛びながら、怪しい奴がいないか探してみてはいましたが……まだ見つけられていません」
「私もだ。この状況では無理もない。調査隊の方の成果を聞いてみよう」
ヴォルトは内部調査班と連絡を取り、何か判明したことがあるか尋ねた。しかし、誰一人手掛かりを掴めていない状態である。
「エスタ ソレル ベア ルース メジアル ディラ サングーン ディスタ ドーラ」
皇帝も、事態がハッキリするまでは出陣は控えてよいとの仰せだ。軍のトップから直々にお許しが出たので、ますますルークスはホッとした。このままトライア攻めそのものがなしになって欲しい。
しかし犯人捜しはそれとは別の話だ。自軍に対してこんな挑戦的なことをやらかした相手は必ず見つけて処分せねば。ルークスはパースメルバをそこで休ませたまま、地上で伸びている竜達の所へ歩んでいった。