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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第31章
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第4部31章『堕天使』2

 呼石(コール)による緊急呼び出しに応ずるのが少々遅れたルークスは、パースメルバでヴィア=セラーゴに急行した。そこに竜王大隊の本拠地もあるからだ。

 飛びながらヴォルトに連絡をし、反応が遅れたことを詫びて何用か訊いてみても、ヴォルトはとにかく来てくれとしか言わなかった。何やら大変な騒ぎになっている様子である。

 そこでルークスは、単に竜達を纏めるのに苦労している、といった状況ではないらしいことに気づき、少しでも早く到着すべくパースメルバに最速飛行を保たせたのだった。

 夜間は鳥の数も少ないし、パースメルバも夜目が効くので、まず鳥と衝突することはない。翼竜の飛行は厳密にいえば飛竜の速度に劣りはするのだが、それでも世界最速の部類に入る優れたものだ。ルークスは数刻後にはヴィア=セラーゴに到着した。すっかり真夜中だ。

 虫王大隊然り、天空大隊然りであるが、全軍団員がこの地にいる訳ではなくて、通常のヴィア=セラーゴには司令官だけが集っている。真の本拠地は別にあって、いざ出陣という時にはそこで集合してからこの地を通り、皇帝に軍団の姿を見せて目的の地へと移動するのが約束事のようになっているのだ。

 竜王大隊の場合もそうで、ヴォルトの招集に応じて馳せ参じる契約は世界中の竜達としているのだが、時が来るまでは各々の生活圏でこれまで通りの生態を続けることになっている。そして今回はヴォルトの檄によって遂に地上・地下問わず各地から優れた竜達が、集合地であるこのヴィア=セラーゴに集ったのであるが、そこで問題が発生したのだった。

 すぐに竜王大隊用の庁舎に向かったルークスは、そこでようやくヴォルトと久々の対面をした。ここに来る途中も、沢山の竜が暴れて喧嘩し合っているのが見受けられ、それを制しようとヌスフェラートや他の竜人達が飛び回っていた。図体の大きい魔物同士の戦いであるから、ヴィア=セラーゴ内の建物が幾つも破壊されてしまっている。多くの流星が飛び立っては入ってくるのも見えた。全世界で最も強力でおそろしい種族が暴れているのだから無理もあるまい。全ての者が戦々恐々として避難するか、対処に参加していた。

「おお、よく来た、ルークス」

ヴォルトは愛弟子としっかりと抱き合い、久しぶりの対面を喜んだ。崇敬する師匠との再会に、ルークスも胸が熱くなる。2人は庁舎内を歩きながら話した。多くの魔物が右往左往している。

「何が起きているのですか?」

「うむ、それなのだが、要請に応じて各地から竜が集まったところ、急に争いを始めたのだ。気位の高い者達だから普段でもこういうことはあるが、今回のはどうも様子が違う。魔法をかけられたり、何か毒のようなものを飲まされているようなのだ」

「魔法? 毒? このヴィア=セラーゴで、しかも竜王大隊に妨害行為を働くような輩がいるということですか?」

「……そうらしい。例のホルプ・センダーとかいう人間達の仕業かもしれないが……ここまでのことができるかどうか。そうなると、何の目的で我が軍をこのように攪乱するのか、全く見当もつかんのだが」

竜とヴォルトをこよなく愛するルークスにとって、このような行為を働く相手は何者であろうと許せなかった。突き止めて成敗しないわけにはいかない。

「竜を制するのに、お主ほど適した者はいない。だから緊急に呼び出した。済まぬが、暴れる者達を鎮めつつ、原因や首謀者について探って欲しい。私もそうする。受けてくれるか?」

「勿論です。お任せください」

ルークスは「では」と言って、すぐに庁舎を飛び出して行った。

 庁舎の前で行儀よく待っていたパースメルバは、再びルークスを乗せると舞い上がり、ヴィア=セラーゴ上空を旋回し始めた。

 実に数多くの竜が我を失うほどに怒りに駆られて都を飛び交い、仲間同士で衝突している。早く鎮めないと、竜王大隊がどうかと言う前に皇帝軍本部であるこの都に甚大な被害が及ぶだろう。だが、貴重で大切な兵士だから殺してしまうわけにもいかないので、簡単に静止を聞き入れそうになかったら失神させるなどして動きを止めなければならない。

 ルークスはひとしきり旋回をして状況を見極めると、気が狂っている様子の者から先に対処すべく急降下した。パースメルバと心通わせている彼は実に巧みに死角から滑り込むようにして対象に近づき、大きな翼竜の後頭部に槍の柄を強かに打ち付ける。ここには中枢神経が多く走っているので、強打すれば昏倒するようにできているのだ。魔法による一時的な錯乱ならこれで治り、目覚めた時には正常に戻っているだろう。

 ルークスは落下時に致命的なダメージを受けないよう、低空にいる者から順に狙っていき、タイミングを見計らって打撃を与えていった。天下の竜であるから容易な業ではない。竜というものを知り尽くしていて、尚且つ強戦士でなければ、こう易々とはいかないものである。

 ルークスは一旦下降して、魔法で応戦しているヌスフェラートに、失神して落ちた竜の処置を願った。昏睡状態にある内に毒抜きと錯乱魔法の解除を念の為に両方やってもらうのだ。ルークスのような働きはそう簡単にはできなくても、魔法であればヌスフェラートの得意中の得意である。すぐにヌスフェラート達は了解して、呪文に長けた者が積極的に対処に当たった。

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