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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第30章
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第4部30章『トライア祭』55

 その後、出て行った時と同じ格好でソニアが城に戻ると、それを見越していたディスカスが裏門で待っており、従者らしく駆け寄ってきた。

「大丈夫でございますか?」

ソニアはただ頷き、厩舎で兵士に馬を預けると、足早に自室へと戻って行った。夜なので日中より城内は人影が少なかったが、それでも祭の為に平時よりは多く、何人かと廊下ですれ違い挨拶されたが、ソニアは会釈するだけで、まっしぐらに進んでいった。

 彼女の私服姿が珍しいので何か言おうと思ったり、祭はどうであったかなど訊きたくて何人もの番兵が声を掛けようとしたが、ソニアは祭を見てきて楽しんだ後とは思えぬ厳しい表情をしていたので皆が思い留まり、敬礼だけをして通り過ぎ行くのを見守った。

 自室に戻ったソニアが、そのまま休まず、すぐに出てくることを知っているようにディスカスは扉の前で待ち続け、大して時間もかけずに彼の予想通りソニアは現れ、すっかり完全武装した戦士の姿でディスカスをチラリと見た。

「――――来い、ディスカス」

言われるまでもなく、ついて行くつもりだったが、こうして命じられると少し意気高くなった様子で彼は小走りに彼女の後を追った。

 朝まで彼女が非番であることを知っている者達は、鎧姿で現れた彼女を見て、相変わらず仕事熱心で早くも切り上げてきたのだなと思い、感心するのと同時に半分呆れもした。もっと楽しんで来ればいいのに、実に真面目であると改めて思う。頼もしいと言えば頼もしい。

 ディスカスを伴ったソニアは近衛兵に隊長の居場所を訊くと、彼がいるという執務室のバルコニーへ直行した。

 ソニアの姿を認めたアーサーは立ち上がり、彼女に歩み寄ったが、彼女がこの通りの様子であるし、彼の方も本来なら笑顔で迎えて祭の感想でも尋ねるはずのところが、軍人らしく厳しい面持ちになっていた。

 ソニアは衛兵を一時下がらせると、アーサーとディスカスの3人きりになった。

「……彼は……行った」

アーサーは真剣に頷く。

「ご主人からの招集があって……」

「……さっき、オレの所にも来たから、そんな気がしてた。遂に始まるのか……」

先程、ルークスにアーサーの居場所を訊かれていたディスカスは、彼が何か別れの言葉を言いに行ったらしいことは知っていたが、ソニアには初耳だ。人間であるアーサーの所にわざわざそれを言いに行ったということが信じられず、また感動し、ソニアはもっと瞳を震わせた。

「間違いなく、この国への攻撃なのか?」

「……判らない。でも、それしか考えられないと彼は言っていたわ。彼は襲撃には参加しないはずだったのに、何故か呼び出し信号が来たの。軍団の統率の手が足りてないんじゃないかって言ってた。……とにかく、こちらは早急に態勢を整えなければならない」

深く、しっかりとアーサーは相槌を打った。

 ソニアはディスカスに向かい、やや屈め気味のポーズでジッと2人の話を聞いて暗い目をギョロギョロとさせている彼に言った。

「ディスカス、私を護るつもりなら、この事はとても重要なはずだね。この招集がこの国への進軍を目的にしたものなのか、確かめることはできるかい?」

「お任せを。既に手配済みです」

もし本当に進軍となるのであれば、ディスカスは一刻も早く彼の主人にそれを伝えなければならないから、ずっと竜王大隊には密偵を差し向けていた。今、そこで何やら動きがあるのは確かなようだった。だが、すぐに進軍なのかというと、どうも様子がおかしい。だからディスカスは、まだ様子見を続けていた。事がハッキリするまでは報告を差し控えたい。

 アーサーは、ソニアの肩にがっしりと手を掛けた。

「できる限りのことをしよう」

「ええ、何としても……!」

ソニアは灯と熱気に揺らめく城下街を見下ろした。堕天使も煉獄も荒野も実現させてなるものか、と思いながら。しかし、あの陰鬱なカードの面々が頭を過って胸を苦しめた。

 そして、月明かりの中、静かに立ち去って行ったばかりの者の姿を思い、涙が一筋零れ落ちた。彼女の涙を見たアーサーは、もう一度肩を強く叩き、彼も光さざめく街と彼方の闇に目をやりながら、心の中で、マーギュリスの予言通りにはさせないと誓った。

 あらゆる意味で、長い、長い、戦いの時の始まりであった。

これで、この30章は終章です。


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