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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第30章
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第4部30章『トライア祭』54

 長いこと広大な森の中を必死で探し回っていたディスカスは、男の方を見つけたという知らせに急行し、普段は隠密行動が中心で表に出ない彼なのだが、今回の事態ゆえに珍しく監視対象の前に姿を現したのだった。捜索中は人化術を解いていたので、そこからまた人化しながら現れたものだから、頭髪は波打ち、額には大きな紅い目が開いていた。

 ルークスは武器を手にしたいつもの格好で何処かへ行こうとしている所だったが、ディスカスの出現に対して警戒する様子もなく、ただ普通に対面した。

「ソニア様は何処だ?」

「……ああ、心配しているのか。何でもない。そのうち帰ってくるだろう」

言葉だけでは何とも信用できない様子で、ディスカスはイライラと蛇髪を揺らせた。

 だが、それを全く気にも留めない涼やかな様子で、逆にルークスの方から彼に話をした。実は、これが初めてのことだった。

「あんたに1つ、訊きたいことがあるんだが」

ディスカスは額の紅い目を見開いた。


 夜通し篝火に照らされているトライア城は、夜闇の中に浮かび上がり、夕暮れの世界にいるかのようだった。通常時と比べて、それほど兵士が増員されているわけではないのだが、度々出入りする現状報告の使者の多さで夜になっても活気があり、やはり祭の最中なのだということを実感させられた。

 軍隊長が城に戻り勤めに就く朝まで、寝ずの番をする予定である近衛兵隊長アーサーは、昨晩のように街が見下ろせるバルコニーでテーブルに着き、星のように無数に瞬く街の明かりに目を落としていた。

 今日は向かいの席にマーギュリスがいるわけでもなく、伝令を待ち、それを受けるだけの静かな夜だ。すぐ側に衛兵が立ってはいるが、特に会話もせず無言で各々の役目を果たしながら、街から届く音と光にだけ目と耳を向けていた。衛兵は扉を開放したままのテラス入り口の城内側に立っているので、アーサーの姿は見えているのだが、テラスの死角は大きかった。

 その、衛兵には見えぬ位置の方角から、ふと呼びかける声がして、アーサーは振り返った。彼以外の誰がいるはずもないバルコニーの、光が当たらぬ暗がりに見知った男がいて、音静かに高みから降りてきた。

 アーサーはチラリと衛兵の様子を見たが、アーサーの仕草には気付いていない様子で、城内の誰かと何かを話しているところだった。

 アーサーは席を立ち、人に会っていることを気取られぬよう衛兵に背を向け、街を見ているような角度に体を向け、暗がりの中のルークスと向かい合った。

 突然、武器帯びで現れたルークスに少なからず警戒をしたアーサーであったが、今まで見た中で一番落ち着いた様子でルークスが槍も構えていなかったものだから、彼も剣の鞘には一切手を掛けず、2人で静かに向かい合った。

「……オレは行かなければならなくなった。言っていることの意味は、解るな? ……オレは彼女を側近くで護ることはできない。オレにできるのは……他のやり方だ。だから彼女のことは……あんたが側で護れ。最後まで、護り抜け。何があっても」

いつかアーサーの中に見出し、ルークスをたじろがせた高潔な光は、今や彼の瞳にも宿っていた。ほんの短い時間だったが、2人は共通の光を崇める者同士、通じ合う何かを感じながら見つめ合った。

 そして、それだけ言ったルークスは、また高みにヒラリと舞い上がると、あっという間に闇の中に消えていった。


 城からも街からも少し離れた丘の陰で、ここならばそれほど目撃されることもあるまいと見定めた場所にルークスが立っていると、その前に長身のエルフが数日ぶりに姿を見せた。

 何も言わず、ただ黙って、セルツァは彼らしいクールな眼差しを向けている。ルークスもそれを涼やかな顔で受け止めていた。

 その時、暗い夜空に何か大きなものが過り、あっという間に翼竜が舞い降りてきた。久々に主人に呼び出されて意気揚々と馳せ参じてきたパースメルバである。

 翼竜の鞍に乗る前に、ルークスはセルツァに向かって言った。

「……あんた方エルフの方の事情がどういうことになってるのかは知らんが……もしもの時は、エルフでも何でも総力上げて彼女を護れよ」

それだけ言い残すと、ルークスはヒラリとパースメルバに乗り上がり、首筋を撫でてやって暫くの無沙汰を詫びると、すぐに翼竜を舞い上がらせ、瞬く間に夜空の中に消えていったのだった。

 青い光が閃いた後、森に消えてしまった彼が、ようやく姿を見せ、城へ行ったりなどした経緯を見ていたセルツァは、その時が来たのだということを察していた。

 そして去り際にルークスが見せた表情の中に、長年あらゆる世界を旅して幾多の戦いを潜り抜けてきた経験と直感から、セルツァは死相を見ていた。

 腕を組んで、翼竜の飛び立っていった彼方を向いたまま、彼は目を細めた。

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