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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第30章
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第4部30章『トライア祭』45

 ソニアは早く済ませた方が良かろうと巾着を受け取り、手探りで1つを摘んで取り出し、肩越しに背後のルークスに巾着を渡した。彼が選んだ石と巾着を両方受け取り、石はソニアが台の上に並べていく。そしてまた自分が石を選ぶ。そんな風にして11個目までソニアが石を並べた所で、最後の1つは占い師が巾着を受け取り、その中から出して列の端に並べた。それぞれ材質の異なる色とりどりの歪んだ形状の石が一直線に並べられた。

 そして次に占い師はカードの山をソニアに渡し、それをよくシャッフルさせた。そして、その中から好きな1枚を抜き出せと言った。同じことをルークスにもするように言い、両者がカードを選び出すと、もう一度同じ要領で1枚ずつ選ばせ、残った山を占い師が受け取ると、上から順に石と並列してカードを1枚ずつ展開していった。2人が選んだカードは、それぞれ1枚目と2枚目を重ね、2枚目が下になるようにして置いた。

 ソニアの選んだカード1枚目は、水辺で星を見上げる乙女の姿が描かれており、ルークスの1枚目には死神の如く眼光の鋭い、黒い鎧と黒い馬のおそろし気な騎士が描かれていた。

 12個の石に対応しているカードは陰鬱な色調のものばかりで、あまり真剣に向かい合う気にはなれなかった。まさに死神が描かれていたり廃墟が描かれていたり、煉獄があったりしたからだ。背景色に黒が使われているものは殆どが、そんな負のイメージのカードだった。

 占い師はあまり顔色を変えずに、それらを真っ直ぐに見つめ、沈黙していた。特に12個の石と12枚のカードに目を向けている。

 ソニアはその間、チラリと二度ほど背後のルークスを振り返り見た。彼は彼女の肩に手を添えたまま、目を細めて如何にも悪運そうなカードの面々を見つめており、彼女と視線を交わすと、また自嘲的な様子でフフッと笑った。彼女はその手に自分の手を重ねて、そっと握った。

 占い師はまだ何も言わず、2人が選んだカードの1枚目を除け、僅かに重なるようにして2枚目のカードの上に配置した。

 下にあったカードは、ソニアのものが威風堂々とした鎧姿の戦士で、ルークスのものが、鳥の舞う空を見上げて琴を手にし天を讃えるような仕草をしている、吟遊詩人を思わせる装束の天使だった。

 占い師はまた2人を見比べ、再度2人のカードに目を落とし、ゆっくりと背筋を正して目を細めた。そしてようやく口を開いた。

「お2人は、大変相性がよろしいですね。恋人であることに限らず、友人としても長続きする、いい関係をお持ちのようです」

側ではまだアクセサリーを物色するフリをしている客が聞き耳を立てていたが、2人共に12枚のカードが予想通りダークな色調のものばかりであることの方に気を取られていたし、特にルークスは占い師の『友人として』という言葉に反応していたので、そんな一市民の動きに気を払うはずもなかった。

 占い師は続けた。

「お2人がそれぞれ選ばれた2枚のカードは、あなた方を表しています。1枚目に当たる、この上のカードが、あなた方が表面上に見せ、また本人もそうであると認識しているご自身の姿です。そして、この下にある2枚目のカードが、自覚のあるなしに関わらず、あなた方が潜在的に本来持っている真の姿です」

占い師が指で示すカードを、2人共が目で追った。

「貴女は“星を仰ぐ乙女”……心美しき可憐なる女性。そして、その奥には“軍神ミゲル”……真の戦士の姿を隠し持っておられる」

そのカードの内容には2人共が、そして特に一度惑わされた経験のあるルークスが深く納得した。やり始めの時は冷やかし半分だった彼の様子も、今ではとても真剣である。彼女を示すカードが妙に当たっているところが、目の前に並べられている12枚のカードの信憑性をも高めているようで、ますます2人は正視したくない思いを感じていた。

 だが、彼を示すカードの内容には、ソニアも彼も不思議な驚きを感じた。

「貴公は“暗黒騎士(ダーク・ナイト)”……君主の命に絶対忠実で、確実に敵の首を取る仕事人。しかし、その中には“美天使”……自然美や芸術美を愛する、美の守護天使の姿が隠れておられる」

ソニアは彼以上に、このカードが実に的を射ていると思った。

「カードにも沢山の種類がありますが、その中でもこの“暗黒騎士”は、この場にない“聖女”と“囚われの姫君”というカードの他に、この“星を仰ぐ乙女”に対して恋心を抱くということになっています。また、“乙女”もそれを受け入れる関係にあります。

 “美天使”も美しい乙女を讃え、天使長である“軍神ミゲル”に対しても愛と憧れを抱き、崇拝の関係にあります」

これまた言い得て妙だと思い、ルークスが自嘲的な笑いを漏らした。

「“乙女”は“騎士”の愛を拒まず受け入れますし、“美天使”とは、美を愛する者同士とても良く解り合えます。そして“軍神”は“騎士”の主にもなれる関係ですし、天使の中でも“美天使”をとても大切に擁護し、愛する関係にあります。ただ、天使同士の愛は恋人という形態を取るとは限りません。そこで、友人としても長続きすると申し上げたのです」

いい告知ができる占い師の顔は、和やかな微笑を湛えていた。

「こうして4枚のカードそれぞれが相互に良い繋がりを持つというのは、そうないんですよ。ですから、お2人の相性はとてもいいです。素晴らしい出会いをされましたね」

ルークスの方から人間に話しかけることがあるとは考えてもみなかったが、ソニアの驚いたことには、彼は自ら占い師に質問した。

「……本当にそんないいことばかりなのか? この関係は。無理に良く言う必要はないんだぞ。何か危険はあるだろう?」

ソニアが振り返って心配そうに顔を見上げたものだから、彼は“心配するな”と言うように小さく頷いて見せ、それからまた占い師の方を見た。占い師は真面目な顔でそれを受けたが、しかし微笑した。

「強いて言えば、確かにあります。“騎士”は仕える主によって立場が左右されることもありますから、場合によっては“乙女”も傷つけますし、自分自身である“美天使”さえも傷つけかねません。“軍神”と戦うこともあります。しかし、“軍神”と戦っても“騎士”は勝てません。“軍神”の意志で“騎士”が滅ぼされることも考えられるのですが、同時に“美天使”を持っているので、それはないでしょう。互いを愛し、敬い、大切にすることが、最も安定したバランスを保ちます」

出たカードに咄嗟に付けた物語だとしたら、あまりに良くできていた。

 2人は見つめ合って、どうしてか笑い出した。占いを馬鹿にしているのではなく、あまりにピタリと言い当てている、その偶然の方を笑っていた。そして同時に、正視できない12枚のカードを怖れていた。

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