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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第30章
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第4部30章『トライア祭』41

――第四幕・最終章――


 森の中を、ソロンが一人彷徨っている。彼はずっと、アドリーを探して旅をしているのだ。どの村にもルシアンという適齢期の男はおらず、いてもただの老人で、アドリーと暮らしているような形跡はなかったりと、収穫が全くない。だから彼は、何処か人里離れた所で二人きり暮らしているのではないかと思い、そういう場所で暮らす夫婦がいないかと人々に訊いて回ったが、手に入る情報はアドリーの特徴と異なる女性の夫婦ばかりで、彼女らしき者は見つからないのだった。

 しかしソロンの執念は凄まじいもので、あらゆる森という森を歩き、遂にある時二人の住まいを発見するのだった。それは、とある森のとても奥深くにある小屋だった。そしてそこに探し求めたアドリーがいるのを見つけた。

 ソロンは慎重に物陰から観察して、すぐに飛び出すことはしなかった。するとそこに現れたのは、何と魔物ではないか。ソロンは仰天し、やがて、それが以前に自分を襲った魔物であることに気が付いた。それで彼は雷に打たれたかのように、これまでの経緯を理解したのだった。

 今、飛び出して行けばまた襲われ、今度は殺されるかもしれない。それに2人が更に別の場所へと逃げてしまうだろう。だからソロンはグッと堪えてその場を去り、村で大勢を整えてから出直してくることを決めたのだった。

 村に戻った彼は皆にこのことを大っぴらに広めた。アドリーは魔物に攫われて虜にされていると。ペロー家はさすがに気まずくて、娘が望んでその魔物と出て行ったのだとは言い辛く、ソロンの勢いに呑まれてしまい、村人衆を止めることができない。村人達は国の軍にも申請して一団でアドリー達の住む森へと雪崩れ込んでいく。その先頭を切るのは勿論ソロンだ。

 一団はきちんと作戦を組んでおり、騒々しく進むと気づかれて逃げられてしまうかもしれないから、静かにそっと小屋に近づき、まずはアドリーをソロンが捕らえた。

 暴れるアドリーの耳にソロンが言う。俺と一緒に村に帰って自分のものになるのなら、魔物に攫われてここにいるのだということにしてやるが、もし応じなかったら魔物に魅入られた危険な娘としてお前もここで死ぬことになるぞ、と。

 アドリーは心底から嫌悪した表情で「あなたこそが魔物だ!」とソロンを平手で打ち、その場から逃げ出して、ルシアン逃げて、と叫びに叫んだ。

 しかしアドリーは再び兵士に掴まり、そのうち魔物を捕らえたぞとの声も上がる。やがて舞台には兵士数人がかりで押さえ込まれるルシアンが網にかけられて引っ立てられた。

 アドリーは悲鳴を上げ、何もするなと叫んだ。ソロンは、この娘はその魔物に洗脳されているから言うことを聞くなと言い、相手にさせようとしない。

 アドリーが止める間もなく、ルシアンは兵士達に滅多打ちにされてしまう。アドリーは渾身の力でソロンや兵士の腕を振り解いてルシアンを庇うように覆い被さった。

「私はこの人の妻です! この人を殺すなら私も一緒に殺して!」

さすがにそうすることはできず、アドリーがあまりにしっかりとしがみ付いているので引き剝がすこともできず、兵士達は少し離れた。既にルシアンは動かない。

 今度の騒動に驚いて彼を追ってきたペロー家の人々も到着する。家族達はアドリーが無事か心配した。

 アドリーが幾ら呼んでもルシアンは動かず、返事もしない。アドリーはビクリとして揺するのを止めた。そしてルシアンの胸に耳を当てる。アドリーはブルブルと震えた。

「死んで……しまった……!」

アドリーは世にも哀しい声で咽び泣いた。観客達も多くが涙を誘われる。

 ソロンは、これで魔物を退治できたと満足気だ。家族もアドリーを慰めようと近寄り、一緒に帰ろうと言う。

 美しくも悲しい音楽が流れ、アドリーの心を表現した。その時間を存分に使い、ますます観客達の同情を募らせる。

 やがて、アドリーは何かに気づいた。観客の目から見ても、ルシアンの体が小さくなっているのが判る。いつの間にか詰め物が取り除かれていたらしい。

 アドリーは網を取り、そして――――マントも引き剝がした。その下に、何と人間の男がいる!

「ルシアン……!」

彼は死んだことによって、何故か人間の姿に変わったのだ。

「ああ……! 彼は元は人間だったと言っていた……! 本当だったのよ……! 本当だったのよ……!」

アドリーはルシアンの死体に改めて取り縋った。兵士達も困惑する。殺した相手が実は人間だったのだと知って、罪の意識を感じ始めたのだ。

「でも……人間であっても、なくても……私はどちらでも良かった……! 例え元から獣だったとしても……私は彼をずっと愛した……!」

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