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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第30章
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第4部30章『トライア祭』30

「そんな父親の血を受け継いで、あの男も竜時間(ディナソル)が使える上に……ほら、見ろ、あそこの鎧と武器を」

セルツァは樹下に残されたルークスの荷物を見るよう促した。

「あれは、それこそリヒテンバルド以上に世に名の知れた名工の傑作だ。まだ生きていれば、現在でもドワーフ1であるサルヴァン=ドロホフのものだ。皇帝に依頼されて、300年ほど前の天使エレメンタインの為に作らせた名器中の名器。ずっとヴァイゲンツォルトの王宮宝物殿に保管されていたのに、遂に日の目を見たんだ。奴自身の能力と、この作品とが相まって、戦士としてかなり完成されている。一騎打ちで勝てる相手は、なかなかいないだろう」

ナージャはますます感心し、木陰に横たわる物々しい槍と鎧とを眺めながら溜め息を連発した。

 ただ、それを着ていた例の男のことを思い出そうとして頭に浮かんできたのは、先程の情事の場面であり、ナージャはついまた赤面してしまった。相手が自分のよく見知っている、かつての主人に瓜二つであるから余計にこそばゆくなってくる。

「だがな……、残念だが、奴には既にヴォルトという絶対の主人がいる。それを裏切ることはないだろう。しかも、皇帝軍絡みの任を帯びて偵察でここに来ていたんだ。それが、色々あって結局……」

セルツァも、先程の思わず胸が熱くなるような仲睦まじき二人の姿を心に描いた。

「ああして、彼女の魅力の虜になってしまったというワケさ」

ナージャは混乱した。皇帝軍の主人を裏切れず、それでいながら、この人間世界で戦う彼女に恋い焦がれ、大切に思っているのだとしたら、そんな板挟みの状態で、この先彼はどうするというのだろう?

「事情が混み入ってきたから、悪いとは思いつつも最近は会話を時々聞かせてもらっている。それによると……そのヴォルトが率いる大隊が、この国を攻めることになったらしい。奴がここにいるうちは、まだその軍団に動きがない証拠なんだが……いずれ時が来た時、二人はどうするのか……」

セルツァの声にも、切なさと労しさが滲み出ていた。

「二人で……逃げたりはしないのですか?」

「……それはないだろう。彼女はこの国を捨てないし、奴も主人を裏切らない」

「では……では……」

ナージャの声は震えた。

「もうすぐ別れることが解っていて、先程のように……? 全部知っているのに……あんなに幸せそうに……?」

「……」

妖精もハイ・エルフも繊細で涙もろい。セルツァはかなりの変わり者に属するので簡単には泣かない性質だったが、このナージャは例外ではなかった。まるで自分のことのように二人を哀れみ、そこでシクシクと啜り泣きをした。

 そんな者達ばかりに囲まれ、自分一人がどうも違って浮いているものだから、セルツァはそれが息苦しく感じられるようになり、今の放浪生活をするようになったのだ。その他の事情も勿論あるのだが。

 しかしセルツァは、この心優しき小さな妖精にふと心和んだ。村を離れているとはいえ、あの村や人々が嫌いなわけではない。ただ、自分一人が合わなかっただけなのだ。住める、住めないの適応差と好き嫌いは、似ているようで違うものだ。

「辛いが……あの二人の現実だ。二人も、それを承知の上で付き合っている。だから今日は……そっとしておいてやろうと思うんだ。二人だけにさせてやろう。警告鈴(アラベル)も、まだ鳴ってないしな。ナージャ、応援の話は特に強調して伝えておいてくれ。急ぎな。頼んだぞ」

涙声で承諾すると、ナージャは姿のないまま障壁を越えて宙を飛び、森を去って行った。

 後に残され遂に一人となったセルツァは、そこで障壁を解き、ようやく姿を現した。幹も枝も太い大木の枝に腰かけたまま、彼は暫しそこで物思いに耽った。

 守護天使として彼女を護るのに、術者は取り敢えず後一人でもいれば十分だろう。この自分がいるのだから。もしそれがリュシルであったなら言うことはない。だが、圧倒的戦力となる戦士は必ず欲しい。ハイ・エルフはそれに向いていないから、あのルークスが、その役目を担ってくれれば大いに助かるのだが……。しかし、無理だろう。ああいう男は経験上、早死にする。残念だが。

 ルークスには期待できないと結論付けているセルツァは、他に適当な者が思い当たらなかった。彼女が死から甦っても眠りから醒めず途方に暮れていたあの時、自分の変化術を見破って部屋に押し入ってきた、あの人間の目は大したものだった。だが到底、彼女の守護天使となり得るレベルではない。あの男も、相当彼女を大切にして愛しているようではあるが……。

 セルツァは目を閉じて吐息し、未来を考えると当分の間は自分の双肩に全責任がかかっていることを再認識し、早急な村の対処とエアの加護があることを祈った。

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