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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第30章
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第4部30章『トライア祭』17

 装甲による行進で汗だくになった兵士達は、城に戻るなり装備を脱ぎ捨てて演習時と同じように水場へと駆け込み、我先にと汗を洗い流した。しかし、今や祭が始まっているので皆はもっと上機嫌で朗らかに笑い、これから三日間の無事開催を祈り合った。

「ご苦労さん」

「ご苦労さん。昼からだっけ?」

「ああ、もう少ししたら出て行くよ」

ソニアとアーサーは水場前広場で笑い合って肩を叩いた。女性専用の水場は別の場所にあるので、彼女はこれからそこに向かうところだ。女性兵士の数は少ないから小ぢんまりとしたものなのだが、彼女が昇進する度に周囲の強い希望で増改築や改装が成され、今では国軍入隊当初よりは美しくなっている。税金の無駄遣いだと反対をしていたのはソニア唯一人で、他の全員がそれでは示しがつかないからと改築を押し切ったのだ。彼女の清貧主義を象徴するような一件である。

 アーサーはこれから自由時間となり、妹ミンナが参加する花娘のパレードを見に行くところだ。アルエス湖でハプニングがあったものの、その後で無事にパレッタの村から頼んでいたレカンが届けられ、花屋でも注文通りレカンに合う花を用意してもらい、ソニアからの贈り物としてミンナに届けられていた。それを冠に仕上げるのは、本人と母親とアイリス三人がかりでするそうである。

「ミンナによろしくね。見に行けなくてゴメンなさいって伝えておいて」

「ああ、わかった。向こうもよく解ってるから大丈夫だよ。花をありがとうな」

妹の晴れ姿を見に行く彼は実に嬉しそうだ。これが結婚式などだったりしたら、そうしてもいられないのだろうが。

 彼との付き合いの長さからすると、妹のミンナや母親にソニアが会った時間は驚くほどに少ない。仕事柄、仕方のないことではあるのだが、そのせいで未だに親しい付き合いをしている感覚が薄かった。だが親友の妹だ。ソニアは家族同然と思い、彼女の無事なる成長を心から祝福した。

 言伝をして手を振り別れると、二人は各々の水場へと消えていった。


 祭の期間中に行われる特別態勢の一つとして、『城内解禁』ツアーがある。平時は一般市民や旅行客などが決して立ち入ることのできないトライア城内部を部分的に解放し、見学できるようにするのだ。勿論、防衛上の理由で機密区域には入れないので、居並ぶ警備兵に監視されながら極限られた通路と区域を進んでいくというものであるが、これがまた大変な人気で、遠方から来た旅行者もトライア国民も挙って外来者専用の通用門に設けられた受付に行列を作り、順番待ちをしている。

 制限されたコースではあっても、この国の高官達が生活をして日々通っている同じ聖域に足を踏み入れることができるだけでも皆は満足なのだ。それに、どの国の城もそうであるように、建築技術と芸術の粋が集められているから、芸術的建築鑑賞としても見応えがある。

 また、将来ここで働くことに憧れを抱いている者等にとっては、現場に足を踏み入れることによって見えない縁の糸が生じないか、願いを込めて寺院に参拝するような神聖な行事でさえあった。

 そうして一般市民の出入りがあるので、期間中の近衛はいつも以上に神経を使わなければならない。国軍もそれをサポートするので、全国から届く情報にも耳を傾けつつ、城内にも目を向ける為、ソニアは執務室にカンヅメ状態となった。

 初日の半分を近衛兵隊長のアーサー抜きで過ごす為、今は特に城内へ注意を払わねばならない。そしてアーサーが戻れば次は参謀長官、という具合に、必ず誰かしら高官の欠員があるので、その都度カバーすべき分野が移り変わっていくのだ。

 ソニアは執務室にいても椅子に座ることはなくて、相変わらずバルコニーから城下街と城内の様子を見渡していた。そして書記官もそれに合わせて立ち仕事をする。

 ディスカスだけはそうせず、部屋の片隅で邪魔にならぬよう椅子に座り、目だけで彼女を見守っていた。こういった祭が初めての経験である彼は、人類文化学の一環として好奇心を刺激され、方々に部下を飛ばして祭を観察していたが、表面上はおとなしく無口であり、誰も見た目からは彼が頭の中でどれ程の情報解析を行っているか想像もつかなかったであろう。

 ディスカスはそうして目だけをギラギラとさせながらソニアを見守り、祭を観察し、そして皇帝軍の動向にも注意を払った。彼の方でも、トライアを含めナマクア大陸を担当するのが竜王大隊になるのが濃厚であるとの情報が入っている。だから特にそちらに関して最新の情報がすぐに入るよう気を払っていた。

 仮に今日決まったとして、今日襲撃があるということはないだろう。だが、明日のことは解らない。

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