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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第29章
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第4部29章『対面』4

「……サール=バラ=タンは何と言っているのですか? 私を殺した時のことを」

ヴォルトはそれを言う前に自分でもう一度サールの証言を考え、どこかに、意図せずしてこのような怪異を起こす秘術を発生してしまった可能性はないか吟味した。ゴースト犇めく環境。二重にも三重にもかけられた魔法。何も起きないとは言えないのではないだろうか。

 だが、やはり解らなかった。

「……サールは、お主を殺した後、灰になるまで燃やしたと言っている。この場所でな。灰は、そのまま放置したそうだ」

「では……サール=バラ=タンやあなたや、皇帝軍の企みでこのようなことが起きているわけではないと、そう思っていいのですね?」

「……ああ、私はサールの言葉を信じている」

 両者が知りたかったことは、これで概ね互いに知り得ることができた。この謎については。だが、まだまだ小さな疑問が湧いてくる。

「……その間、何があったのか、真に全く覚えていないのか?」

「ええ、もう少しでも覚えていれば、私自身が助かるのですが。訳が解らないというのは、本人が一番気持ちが悪いのでね」

「……おそろしい……」

 両親の方は、驚きが過ぎてとてもこのやり取りに割って入ることはできなかった。ひたすらに二人の言うことを耳に入れて理解しようとしながら、涙目で成り行きを見守っていた。

「お主……ナマクアのテクトで戦ったか?」

「いや。あそこは数少ない戦勝国の一つでしたね。それが何か?」

「……いや、違うのなら、いい」

テクト城塞都市はバル・クリアーの発生によって守られているのだが、アイアスはまだ細かなことまでは知らない。バル・クリアーを施した者は天使なのではないかと皇帝軍は考えており、復活したアイアスこそ有力な候補だったのだが、これでその仮説は否定されたことになった。

「……皇帝軍は、また私を殺す気ですか?」

「……そうなるだろう。だが……そうすると……またお主は子供になって復活するのだろうか?」

「そうかもしれません。生き返るのであれば、私は何度でも皇帝軍と戦いますよ」

「……」

ヴォルトは本当に押し黙ってしまった。未だに彼からは、自分ではアイアスを手にかけたくないらしい躊躇いが感じ取れる。姑息な手を使ったからこそサールは勝てたのであり、この次はそうはいかない。他の強者を送り込んで何度もこの天使を消させるのか、或いは自分がそれを担い、今度こそ確かに間違いなくこの手で灰にするのか。前ならそうしたのかもしれないが、再び甦るのかと思うと、なかなかそんな気にはならなかった。かと言って、何もせずに放っておくわけにもいかない。今必要なのは、決断にかける時間のようだ。

 今度は彼がヴォルトに尋ねた。

「……ヴォルト、あなたは何故、皇帝軍に与しているのですか? 利害が一致しているとか、天への挑戦だと、あの時あなたは言っていましたが……一体あなたに何があったのです? どんな種類の戦であれ、侵略する側の軍に天使が付いた例は過去にありません。何があなたをそうさせたのですか?」

ヴォルトは首をただ横に振った。言いたくないということか。世の中には尋問や拷問で情報を吐き出させたり、魔法によって自白させる方法があるが、この相手にそんなものは使えないし、そもそも彼自身そんな手段は好まなかった。相手に言う気がなければ、永久に謎のままだ。

 ヴォルトは答える代わりに、こんなことを言った。

「……例えばだ、お主は今、このような奇妙な目に遭っている。お主にはまだ戦う気があるから、それでいいだろう。だが……そうでなかったら? お主に与えられた使命に納得できず、嫌だと思うのに、それでも繰り返し繰り返し生き返らせられて、戦場に送り込まれるとしたら? やがてはそんな天を憎みはしまいか?」

彼はハッとした。そして、少しだけ見えてきた。ヴォルトの使命とされていたのは、暗黒竜ディベラゴンの反乱を止めたというものだった。その時、何かがあったのだろうか? 本当はやりたくなかったのに、仕方なく遂行したというのだろうか?

「今もそうだ。何の説明もなしに子供の姿で生き返らせられて、何処とも知れぬ場所に放り出された。それを……何とも思わないのか? まるで道具のようではないか」

「……そう言われれば、そうなのかもしれません。でも、私は父と母を守りたい。アルファブラを守りたい。人間の世界も守りたい。だから、文句は天に帰ってから言うつもりです」

ヴォルトは笑った。

「……そうこうしているうちに、また新手の天使が遣わされるのだ。そしてこの忌まわしい歴史が繰り返される」

そうか、ヴォルトはこの世の有り様を変え、下界の問題を天使に任せるという天界のあり方をも変えたいのだなと彼は理解した。そして、そう思うに至った過去が何かあるのだと。

 やはり、説得するのは非常に難しいようだ。何しろ、彼自身が自分の置かれた状況を理解できていないのだから。だが、いずれ説得できるとすれば、それは同じ天使である自分にしかできないことだろうとも思われた。

「できることならば……かつてあなたに何があって、この道を選ばれたのか……いずれ聞かせてもらいたいものです」

ヴォルトはまるで独り言を呟くようなささやかさで首を横に振った。言えるものか、言えるものか、と自身に言っているようである。今は無理そうであった。

「……私は今暫く、人々の混乱を避ける為に身を隠すつもりです。私に会いたい場合は、人間の姿でパンザグロス家へ来てください。でも、その際は何にも危害は加えないでください」

いいでしょうか、と彼は一応両親の了解を得た。彼はまだ知らないのだが、ヴォルトは既に一度夫妻に会いに来ている。

「……わかった。もう、好きに帰っていい。私はもう暫くこの島で調べたいことがある」

自分を灰にした場所と、その灰がまだあるか確かめようとしているのだと彼は思った。

 ヴォルトの言葉に嘘はなく信用できると判断しているが、何が起こるかは判らないので早く両親を家に帰してやりたいと思い、彼は勧められるままにその場を去ることにした。

 まだ座ったまま立てないでいる両親に手を差し伸べ、しっかりと握ると、三人はその場で星に変わって彼方へと飛んでいった。

 ヴォルトはそれを見届けもせず、流星が生まれ遠ざかっていく音を耳にしながら、城跡周辺を散策し始めたのだった。


 彼はパンザグロス家に着く前に、一度別の場所で流星術を解いて、そこで両親達と改めてゆっくり再会の悦びを味わった。ヘレナムは唯一人の息子にようやく会えた喜びで、彼を抱きしめて離さなかった。その姿が別れた時と殆ど変わらないものだから、尚更かつての別れを思い出させて涙を溢れさせた。

 彼はそこで、二人にも解るよう、もう一度自分の身に起きていることを説明した。二人がヴォルトによって天使という者の知識を既に持っていたから話は早かったが、この怪異そのものを受け止めることはやはり難しいようだった。

「今はまだいいですが、もっと幼い姿だった時は、さすがにまずいと思っていました。本人だと解ってもらえないかもしれないと思ったのです。お二人とは今こうして会いましたが、本当はまだ早いと思っていました。現に、お二人も驚かれているでしょう? ですから、どうか、もう暫くは私が帰ってきたことを人々には隠しておいてもらえないでしょうか。近日中には名乗りを上げるつもりではおりますので」

「お前が望むのであれば、勿論そうしよう」

「ああ……! あなたが早く、あの屋敷で昔のように暮らしてくれるのが待ち遠しいわ!」

両親の了解を得た彼は、流星術で二人をパンザグロス邸がある丘の木立に降ろし、自分はそのまま身を隠した。そして二人は歩いて屋敷に向かい、心配していた衛兵達に大喜びで迎えられ、謎の戦士が救ってくれたとだけ今は説明して、邸内に戻ったのだった。


 こうして彼はようやく一部の人間に生存を知られることになり、アイアスとして登場して問題のないくらいに肉体が成長するまで、日を待つことにした。

 ホルプ・センダーは、謎の人物が再びやって来ることを待ちながら貴重なノートについて検分を続けている。ヌスフェラートとの戦いにおいて参考にできそうな情報が沢山書かれている重要なものだ。その内容が真実であるかを検証する機会がまだないが、彼等と戦う時には是非試したいものだとキルシュテン達は考えていた。

 そしてアルファブラをほんの少し掠めた竜の部隊についても噂は飛び、本攻撃ではなかったにせよ、そのような部隊もあるらしという恐怖が各国に伝わっていった。いずれその部隊が、どのかの国を攻めに来るのは間違いないのだ。これまでに聞いてるどの部隊よりおそろしいものだと人々は思っていたので、自分の国にだけは来て欲しくないものだと心から願っていた。

 彼は、その恐怖の噂が広まる中で引き続き情報収集と調査の為、世界中を飛び回った。

29章はこれで終章です。

活動報告でも述べておりますが、次の30章途中からは長年デジタル化していなかった手書き原稿のみの領域に入ります。

更新ペースがゆっくりとなることが予想されますので、ご容赦くださいませ。

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