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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第27章
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第4部27章『獅子の紅』3

 フィンデリアを迎えての、元王太后、元王妃、女王揃っての会食は長いものとなった。女同士ということもあって気兼ねないお喋りができたのと、立場を同じくする者として、フィンデリアに色々と心構えを教授してもらいたいところがあったのである。彼女達の心の不安を十分に察して、フィンデリアも時間を割いた。

 彼女自身もそうであったのだが、カリスマ性の強い王がいると、その伴侶は身を引いて王を立てることが普通になる。勝ち気な男兄弟が多かったりすると尚更だ。相手を立て、守られる役割を演じることで丸く治まるから、そうするのである。生来の気質として人に頼って生きる方を望む者もいるが、大抵の場合は皆、演じているものだ。

 ずっとそうして演じ続けてきた役割が、ある日突然不要なものとなる時がある。丸く治める為に立ててきた相手が失われるのは、その典型だろう。

 必要がなくなれば、もう何も気にせず自分本来の気質を前に出してもいいのだが、なかなかそうもいかない。長い年月演じ続けてきたことで、何が本来の自分だったのかを忘れてしまうのだ。

 だから、これまで通り演じ続けていれば済むような相手を求めてしまうこともしばしばだろう。別に、それは責められるようなことではない。自分本来の気質を忘れるほどに演じたということは、それだけ何かの為に尽くしたことの証しでもあるのだから。

 それを続けるか、或いは本来の自分を取り戻す道を選ぶのかは本人の自由であり、どちらを選ぼうとも、賞賛されこそすれ、責められるべきことではないのだ。

 この国に残された3人の女性。特に女王フェリシテが置かれている状況が、正にそれだった。いつか英雄アイアスが自分の夫となって王になる日を信じて、始めから彼女は王に寄り添い、王を立てる王妃としてのイメージを自分の中で育て、そのように振舞ってきたのだ。

 それが土壇場で叶わぬことになったものだから、いきなり自分を変えるなんてこともできなくて、新たな夫のセイルも立てる相手として迎え入れたのである。想像していた相手とは全く違ったが、そうするしかなかった。傷心の彼女の為に、セイルも精一杯彼女を守り、引っ張っていこうとした。それで役割はそれぞれにうまく治まった。

 だが、今はもう国王もアイアスもセイルもいない。年齢的にも一番相応しいから彼女が王位に継ぐことになり、そうできるのであれば先頭に立って国政をグイグイ押し進めていくところであるが、そんなことを急にできるわけもないのだった。

 フィンデリアの方こそ彼女達から同情されていたが、それでもフィンデリアは、このフェリシテを哀れに思っていた。彼女が結婚した年齢を知っているし、その年までアイアスを待っていたのだということも承知している。それが叶わず、やっと迎えた別の夫さえも僅か数年で失ったのだ。何と、伴侶の運がない人だろうと思う。まだまだ、こんなに美しいのに。

 果たしてこの先彼女は、再び夫を持つことがあるのだろうか。

 フィンデリアの場合は家族が全て失われ、国も失った。早い段階で復讐こそ我が人生と誓ったが、それ以前は父に守られ、兄に守られ、皆に可愛がられて温室暮らしをしていたのだ。追い詰められた状況があまりにこれまでと違う世界だったから、割りと早く決断できたのである。悲しみに暮れて、ただメソメソと泣いている弱い少女を演じることなく、本来の自分の精悍さを発揮して。

 このフェリシテの場合は、なかなかそうもいかないかもしれない。失うものがまだあるから。だが、フィンデリアと出会ったことでフェリシテは明らかに刺激を受け、影響され始めていた。

「いつまでも摂政に頼ってはいられないということは、解っているのです。できるだけ早く自分の力で立たねばならない、と。でも、まだ自信がないのです。私が手を出すことで、摂政が取り仕切るより悪くしてしまいはしないだろうかと」

「お気持ちはよく解ります。一家の家長をなくして妻が家を守らねばならぬ場合も大変ですが、貴女の場合に背負うのはこの大国なのですから。むしろ、そう感じて当然なのではないでしょうか。いろいろな国を見てきて思うのですが、特にこの時期の王に求められることは、民の前で不安のない笑顔を見せることに尽きると感じております。実際の政務や軍務は他の専門家に任せてもいいでしょうから、何より最初に達成すべきは、そうした象徴としての立場を築くことなのではないでしょうか。それさえできれば、後はおのずと整っていくかと存じます」

大いに感心して、元王太后も元王妃も深く頷いた。全くその通りだ、と両者が賛同する。

 まずはそうしてフェリシテの今後についてばかりが語られたが、その後はフィンデリアについて質問が飛び、彼女は躊躇わずに多くを語った。ホルプ・センダーのこれからなどについては、女王としてフェリシテも知っておきたいところだ。

 そして特に、先日ヴィア・セラーゴで達成した獅子人への復讐劇については、稲妻に打たれるような衝撃を受けて、フェリシテはますます覚悟が強まっていくのを感じた。自分の半分位の年齢であるこの若き少女は、全ての家族と国を失った上で最前線にて戦い、しかも死を覚悟して悪魔達の巣窟に飛び込み、見事仇敵に傷を負わせたのだ。それに比べたら、自分は何なのだ。まだ国がある。母と祖母がいる。女王として立ち、民を率いることぐらいできなければならない。そうでなければ、死んだ父、夫、そして消息の知れない英雄に顔向けができないだろう。

 国の誰が彼女を励ますよりも、この会談が何より新女王の決意を促し、力を与えた。それが解った元王太后も元王妃も、有意義な時間であったと大いに感謝した。

 フィンデリアは今晩の滞在を強く勧められたのだが、パンザグロス邸に呼ばれており、その後も予定が入りそうであると丁重に断り、後日また立ち寄ることを彼女達に約束した。

 そしてもう一度クレイオンの顔を見に行って激励すると、彼女は城に訪れていたパンザグロスの使者に伝えていた通り、夜の会食に参加するべく城を後にしたのだった。


 パンザグロス邸でのもてなしは城に勝るとも劣らなかった。亡国のとは言え、王族相手だから敬意を表したのである。そして、ここでの滞在も長くなった。ソニアのことについて初めて親しくする者の口から詳しいことが聞け、夫妻は喜び、そして勿論フィンデリア自身のことにも話題が及んだので、夫妻を満足させるまで話をしたら、当然のように長くなったのである。

 フィンデリアは、トライアのソニアがいかにアイアスを慕い、再会を待ち望んでいるかを語った。同じ家族として、夫妻もそれを哀れんだ。

 こうして国を巡り、姫と言うより使者のような生活をするようになってから、フィンデリアは強く実感していた。貧しい者、富める者といろいろいるが、人々が結局一番求めているのは情報なのだ、と。家族の消息、その心、世界の未来。

 その後、改めて夫妻から宿泊を勧められたのだが、フィンデリアは予定があると言ってそれを丁寧に断り、また訪れることを夫妻に約束させられ、それから屋敷を出た。その頃にはもう夜が更けていた。

 会食を始める前に、念の為、ヴォルトが都合伺いに来るかもしれない旨を番兵に伝えておいたので、安心してゆっくりと会食をしていたのだが、特に連絡が入らなかったので出てみると、ヴォルトは庭園で彼女達のことを待っていた。ここで待たせてもらうから連絡はしなくていいと断っていたらしい。

 フィンデリアの姿を認めると、ヴォルトは近づき、会釈した。

「まぁ、お待たせしてしまっていたのですね」

「いえ、いいのです。お話は十分にされるべきだ。ところで……この後はどうですかな? すぐにお連れできます。その御仁が待たれている所に」

「こんな時間ですので、あまり長くはできないかと思いますが、それでよろしければ」

ヴォルトは頷き、手を差し出した。フィンデリアはまず後ろに控えているカルバックスの手を取ってから、ヴォルトに手を預けた。ヴォルトはしっかりとフィンデリアの小さな手を握り、その場で流星になって飛び立った。

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