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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第26章
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第4部26章『時空回廊』1

 この世界に、知識人は多い。長い寿命のうちに膨大な量の知識を蓄積した結果そうなるところもあるのだが、その中でも大きく分けて2種類のタイプがいるようである。体質的に知識を溜め込むのが好きで掻き集める、所謂知識欲のかたまりと、必要に駆られて知識を習得した結果そうなったというものだ。

 そして、これら2種類の中でも滅多に知る者のいない、極限られた者のみ把握することができる知識というものもある。何故ならば、隠されているからだ。人々に知られることを。

 それを掻き分けて辿り着き知ることができる者というのは、余程の病的な探求者か、余程の必要がある者かのいずれかだった。

 知った者本人は、自分だけの秘密にすることが常であるから、ますます広がり難いので、辿り着いた者はそれだけで奇跡とも言える。

 しかし不思議なもので、本当に必要とする運命である者、思念がある者は、自然とその手がかりを掴むことができたりするのだった。それも、いずれそうなることを見越していたかのように、ずっと前からきっかけを与えられていることがある。

 彼の場合もそうだった。そして彼が知り得た知識というのは、地下世界の奥地にある、どんな種族も住んでおらぬ秘境中の秘境にあるという、特殊な遺跡のことであった。

 伝わる名称としては、その遺跡は『時の迷路』と呼ばれている。

 そこは竜王国よりも更に奥地にあり、かつてその遺跡に住んでいたのも竜人達だと言われている。何故かと言えば、今尚そこで番人をしている者がいて、それが竜人だそうなのだ。番人は、この特殊な遺跡が悪用されぬよう見張りをしているという噂である。

 この番人が施す業なのか、それとも遺跡が持つ神秘の故なのかは定かではないが、この場所についての知識を頭に入れても何故か忘れてしまったり、よく思い出せなかったりするそうで、話題にしただけでも何か別のアクシデントが起きて、そちらに気を取られたりするらしい。だから、知識に遭遇し、しかもそれを覚えていられるという限られた幸運な者だけが、そこに辿り着けるのである。

 彼がこの場所のことを初めて知ったのは、ずっと昔のことであったが、これまで一度も訪れたことはなかった。数々の神秘によって守護され、数々の罠によって行く手を阻まれると聞いており、そこまでして行く理由がなかったのである。

 だが、彼は初めてその土地を訪れようとしていた。


 何故、このような土地に、かつて何者かが住んだのか。その土地を見て、彼は最初にそう思った。あまりに不毛な土地で、生命の欠片も見当たらなかったのである。

 竜が住んでいたのであれば、竜王国のように溶岩流の噴出や大地の震動がありそうなものであるが、ここはそうではなかった。鋭い形状の奇岩が立ち並び、辛うじて見られる平地には大きな亀裂が所々に走っている。亀裂とは別に川も幾筋か流れてはいるものの、それは酸性の強い毒の川で、生き物は棲めないものだった。

 かつてはもう少しマシな土地だったものが、長い年月の経過と共に荒廃していったのだろうか。そんな想像をしてみながら、彼はその遺跡を探した。

 虫の巣や隠れ穴のような旧都市があり、その中心部に目的の遺跡があるという。竜族たるものが、どのような外敵から身を守ろうとしたのか知らないが、目立たせる気は更々なかったらしい。そのお陰で、探す者は苦労をすることになり、彼もまた難儀を強いられるのだった。

 物探しの呪文も効かず、ひたすら飛んで目視で探すしかない。だが、そこまでしても探し求める価値のある場所だった。

 他に方法があるのなら、それも試してみただろう。しかし、そんな方法は知らないので、ここが唯一の場所なのである。縋り所は、ここしかないのだ。

 彼は体質を変化させて虫族の目を借りた。これがあれば、ただのヌスフェラートやエルフであるよりはずっと物を探し易い。鳥もまた視力に優れているのだが、熱感知などの特殊な視野を持てるのは虫族や竜族に限る。

 その優れた目を持って探すと、やがて彼はある地点に、自然にできた穴とは少し違うパターンを見せる風穴群があることに気づいた。そこに近づいてみると、何者かが住居としていたことを感じさせる形状であることが確かめられた。穴の先が空間となり、入り組んで繋がっている。噂通り、まるで虫や蜥蜴の巣のようだ。どうやらこれが、その旧都市らしい。

 彼は空間内を進んだり、外から眺めたりしながら周囲を飛び、神獣が出現したり罠が作動したりしないかに警戒した。

 風は然程激しくないのだが、住居の形状の関係で、ヒュウヒュウと沢山の笛を鳴らしているような物悲しい和音が都市を覆っていた。かつての栄華を語り続ける、姿の見えない吟遊詩人でもいるかのようだ。

 術者としても優れている彼は、ここに来て何らかの魔法の気配を確かに感じていた。性質にもよるが、魔法にはそれなりの存在感というものがある。重要施設や宝物庫などによく侵入者防護や目くらましの魔法がかけられたりするが、ここのものはもっと古くて、しかも強力そうだった。気配だけで魔法の正体を見抜くことも難しいくらいだ。この場所のことを語ったり思ったりすることを妨げる性質があるとしてもおかしくない。

 ひとしきり見回った後、外からでは中心部の遺跡らしきものが判らなかったので。彼は内部深くに潜り込んでみることにした。閉鎖空間に入ると、罠があった場合の危険度が増すが、それは覚悟の上である。それでも念の為、体の周囲に防護壁を発生させた。皮肉なものだが、残虐極まりない父から万が一にも殺されることがないようにと対策を考えてきた日々があったので、不意打ちや罠に対する心構えにおいて、彼はとても優れていた。

 穴と穴がどこでも繋がり、内部はかなり大きいようだ。そして照明などが全くない為、彼は魔法の照明球を発生させ灯とし、来た道が判るように足元にも光のラインを残していった。

 そうして進んで行くと、彼の魔法が暗黒界の口を検知した。ふと見れば、ほんの一瞬前までただの石の通路だった足元に大きな口が開いている。吸引力こそなかったが、気づかずに足を入れていたら、そのまま取り込まれていただろう。彼はゾクリとして足を宙に浮かせた。

 暫くそうして様子を見ていると、そこにある暗黒界の口は萎んで消えてしまい、今度は違う所に出現した。どうやら侵入者の気配を察知して先回りし、飲み込もうとしているらしい。

 彼は床にも壁にも一切触れることのないように気をつけながら、ゆっくりと飛翔術で進むことにした。向かう先の闇が暗黒界の口に変わってしまうこともあり得るので、慎重に慎重を期し、その他の罠がないかにも全神経を集中させて感じ取ろうとした。

 罠があるということは、この先に目的の場所があるということだ。彼はそう確信した。目を逸らさせる為の罠ではない。あまりに本気過ぎる。

 この場所を知り、探すことのないよう不思議な技で隠され、しかもこのような恐ろしい罠までが待ち受けているのだ。一体かつて何人がこの場所を訪れ、目的を果たすこともなく死んでいったのだろうか。そうして篩にかけられていく様を思い、それ程に、この先にある神秘が触れてはならぬ世界のものであることをひしひしと感じた。

 今、ここに自分がいることは奇跡なのか。それとも、その神秘を目にする資格があるということなのか。

 彼が暗黒界の口に気をつけながらさらに深部へと進んで行くと、今度は空間を高速で飛び過ぎる物体の気配を感じた。生命感は全くないのだが、あまりに動きが激しいので、風圧によって感じ取れるのである。

 彼はジッとして動きを探った。姿は見えない。通り過ぎる瞬間にさえ、目に止まらなかった。この目で見て見えないのなら、実体はないのかもしれない。彼はそう思った。

 そこで目の性質を若干変化させ、動体を特に認識し易いようにして周囲をよく見る。

 すると、それが突進してきて彼の防護壁に衝突した。心臓めがけて一直線であった。弾かれたそれは一旦離れていく。一瞬見えたその姿は、太くて短い寸詰まりの蛇のような魔物であった。神獣と言うにはあまりに不恰好なので、それかは定かではないが、要は侵入者を食い殺すことが役目のようである。

 それはUターンしてくると再び心臓めがけて突進してきた。しかも今度は、何故か防護壁を突き破って彼の肌に達した。素早い身のこなしで攻撃をかわしたので少々傷を負った程度で済み、その傷も放っておけばたちどころに自然治癒していった。一度触れた障壁の性質をすぐに見抜いて適応し、2度目は効かなくなるのかもしれない。

 そこで彼は全身を完全に変化させ、マキシマとなった。これならば簡単には傷は負わない。

 そうして繰り返し攻撃をしてくる魔物をかわし続け、通り過ぎ様に腕で叩き落した。エネルギーの感触ばかりの体だった。砕けて散り散りになるも、また再生されて突進してくる。しかも、それが2体、3体と増えていった。大した番犬ぶりである。

 彼はそこに留まり続けるのは力を消耗するだけだと判断し、暗黒界の口に気をつけつつ飛んで逃げることにした。中には巧く弾いたお陰で暗黒界にお見舞いしてやったものも何体かいる。

 そうして深部へ深部へと進み続け、彼はある広い空間へと出た。驚いたのは、そこに足を踏み入れた途端にファンという音が響き渡り、緑色の光が広がっていったことだった。警戒警報でも作動したかのように、辺りが一斉に目覚めの光を放つ。

 そして不思議なことに、その空間への入口を境に、例の魔物はそれ以上の追跡と攻撃をしなくなった。暗黒界の口も、ここでは開かない。どうやらここは特別な領域のようである。

 新たな別種の罠があるかもしれないので緊張感は解かなかったが、慌てて逃げる必要はなくなり、彼は落ちついて辺りを見回した。

 何処かの宮殿内部といった広さで、洞窟を刳り抜いた岩肌剥き出しの空間となっており、その奥だけが精巧に彫刻された形状を留めていた。柱が立ち並び、幾つかの入口が開き、その内部から別種の光が漏れている。岩窟から祭壇が半分飛び出しているような景観だ。そこに至るまでの道は平坦に舗装されており、祭壇手前には横に長い階段がある。

 これが……そうなのだろうか?

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