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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第6章
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第2部第6章『大戦勃発』

 6.大戦勃発


 サール=バラ=タンが吉報を持ち帰った5日後、ヌスフェラートの暦で言うとカーン王紀849年、金座1日、人間世界におけるアルド紀612年(今はもう滅んで無くなったアルドという王国が建国された年から続いている)、風月1日に事は起こった。

 まず、中央大陸ガラマンジャの東北端、ヴィア・セラーゴ付近からどっと魔物が溢れ出し、近隣の町々を襲い、若い木々を薙ぎ倒して大陸中に広がっていった。

 大波のように押し寄せてくる魔物の軍団に、多くの人間は成す術なく呑み込まれ、或いは逃走して僻地に避難し、或いは国や隣国に助けを求めた。

 その規模と速度があまりに異常だったので、自然における一時的な大発生ではないとすぐに人々は判り、真っ先に被害を受けたゴーリィ王国から諸国に流星が飛び立って、異常事態の知らせが早々と世界中に拡散した。

 ターネラス大陸にもウィナホル大陸にもナマクア大陸にも知らせは届き、それとほぼ同時に、それら異大陸でも何処からともなく湧き上がるように魔物等が出現するようになり、数を増やして、一層の狂暴化を見せて人々を襲い始めるようになった。

 森に住む者は街道に出ることを恐れ、森の中に入って行かなくなり、漁師も海に出ることを恐れて、漁に出掛けられなくなった。

 まだ宣戦の布告を何処の国も受け取っていなかったが、先の大戦から20年も経っていない世界は、かつてこの現象が何を引き起こしたかの記憶もまだ新しく、早急に厳戒態勢に入って、何処の国でも全軍が総動員されて、各王国内の事態収拾と調査に乗り出し、次の動きに備えた。


 ヌスフェラート軍の先駆けは、ターネラス大陸西海岸沿岸の王国、サルトーリに現れた。

 何故この国を最初の目標にしたのか、人間達の誰も知らなかったのだが、ヌスフェラート達がここを選んだ理由は至って簡単だった。ここが、イクレシア島に最も近い国だったからである。大戦のときの声を上げる景気づけとなった聖地(・・)である島を起点として、そこから広がって行こうと考えたのだ。この辺りがまだ、ヌスフェラート達が形式美に拘る性質のあるところを見せていた。

 サルトーリ王国は、日暮れと共に来襲した大型中型様々な獣達によって瞬く間に城都市を占拠されて、多くの住民が獣の牙や爪に引き裂かれ、角で突かれ、体当たりで骨を砕かれ、内蔵を潰されたりして命を奪われた。

 獣の軍勢の頭を務める者や上位の者達は、人々がこれまでに見たことのない半人半獣の2足歩行の者達ばかりだった。獣人達である。

 首領の作戦で、通常の侵略なら街に火をつけるところを徹底して火を消す方向に動き、松明は蹴り落とされ、家の灯火も消され、蝋燭から油灯に至るまで全てが揉み消されたり断ち切られたり砂や水に埋められたりして、街が闇に呑まれていった。

 人間は恐怖心で見境なく動くかジッとしているかで、とにかく物が見えなかったが、特に夜行性の者ばかり集められた獣の軍勢には全てがよく見通せた。

 闇の中で住民も兵士も次々と襲われて、辺りは血の海と化していき、急襲を告げる流星だけが城から飛び立って、残れる兵士たちは城門を閉ざして守りを固め、決して中に入れまいとした。

 しかし、高い壁も猫科獣達はヒラリと駆け登ってしまうし、サイや猪の類は体当たりで門も壁も打ち破り、鳥の類は上空から急降下して兵士を突いたり鉤爪の足で攫って空に連れ去り、そこでポイと捨てて地に落としたりと、大変に手強く、人間達にその軍勢の勢いを止めることは出来なかった。

 どうにか一夜持ち堪えて、暁の前に獣達が退散して行くのを兵士達は見ていたが、それが勝利でないことは明白だった。彼等はまた夜に襲って来るのだ。

 累々たる死体が城下街に転がり、道も壁も血で染められ、多くの爪跡がそこら中に残った。夜明けによってそれらが見えるようになったことで、尚一層人々の恐怖心は煽られ、戦意を喪失していく。

 知人や家族や恋人を殺された者も、そうでない者も、青ざめた顔で呆然と街に立ち、多くの者の心が、これを現実と受け止めることを危うく拒否しかけていた。

 求めに応じて隣国サルファや友好国が救援部隊を派遣し、惨状を目にした彼等も震え上がらされて、通信役の者はひっきりなしに世界中に恐怖を謳った。

 兵士、魔術師が居揃って夜を迎え、太陽の姿が大地に消えると同時に、身の毛もよだつ恐ろしい雄叫びが上がり、森から獣達が姿を現した。

 今宵は、彼等がこの夜で決着をつけようとしているのが窺える構成だった。獣は獣でも、体当たりな技や爪と牙で戦う獣らしい獣だけでなく、魔力を持つ獣までが昨夜以上に沢山混じって雪崩込んで来たのである。

 火を吹く怪鳥、肉体と魂の繋がりを断ち切る呪いの怪音波を投げ掛ける蝙蝠、幻覚毒の霧を吐く魔性の蔓植物、爪に神経毒を持つ豹、おぞましい響きの雄叫びで頭と身体の働きを麻痺させる蜥蜴など、これまでにこの国で見られることのなかった強力な魔物が怯える者を食い裂き、燃やし、魂を奪って、残れる者達までも次々と殺していった。

 サルトーリ王は気丈に指示を出し続け、先に避難することもなく戦況を見ていたが、滅びは必至だった。

 2人の息子は父と共に最後まで戦うつもりの全身装甲で両脇に控えているが、ずっと避難を拒み、父と兄の側に残りたがっていた王女だけは、そろそろ逃がさなければならなかった。才児の家系であるサルトーリ王室らしく、王女も魔術師としての才があって、共に戦うつもりで導士着と杖を身に着けていたのだが、父王も兄2人も彼女まで死なせる気は毛頭なかった。

 逃げろ、嫌だの繰り返しのうちに、首領たる獣人がテラスから王室に侵入してきた。その威容を、王女はしかと目に焼き付けた。

 真紅の燃えるような鬣を持つ獅子が、人の如く2本脚で立ち、鎧を身に着け白いマントまで翻らせて高貴を気取っている。耳には複数のピアスが輝き、鬣の一部は三つ編みにされリボンで結ばれていた。

 サルトーリ王の怒号で王女は魔術師によって無理矢理連れ出され、流星となって脱出した。王女は流星呪文を使えなかったので、連れ出されれば戻ることは出来ない。王女は魔術師に罵声を浴びせて暴れたが、魔術師は本人も泣きながらガッシリと王女を掴んだまま決して離さず、彼方まで飛んで行った。2人が国王と王子達を見たのは、これが最後だった。


 サルトーリ王国の滅亡が世に知れ渡り、各国を震え上がらせた僅か2日後に、今度は隣国のサルファが襲われた。

 サルファは獣の軍勢に備えていたのだが、そこに現れたのは闇の軍勢だった。ヌスフェラートの吸血鬼貴族率いる吸血蝙蝠軍団、影、暗鬼、首刈り騎士、暗黒生命体が人々を容赦なく血に染めて啜り、精気を抜き、魂を抜き、救いなき闇の幻覚に引きずり込んで地獄を見せていった。

 サルトーリもサルファも辺境小国である。被害の最中にあるサルファ人達は、どうして自分達が選ばれたのか解らず、やはり小国だからなのかと嘆き、それでもよく耐え忍んで戦った。


 そしてサルファがまだ戦っているうちに、離れた他地域にも新たな戦火が上がり始めた。世界最北端の国、ビヨルクもその一つだった。

 ビヨルクには、ヌスフェラートの強戦士や、力技の魔物ばかりで構成された軍勢が押し寄せた。

 寒さと雪の中では、さすがのヌスフェラート達でも戦い難いのではないかと思われたが、応援部隊として炎の幽鬼も加わっており、雪は溶かされ建物は壊され、隠れていた人々は潰され首をへし折られ、或いはバッサリと斬り落とされて残雪に紅い花を咲かせた。

 雪と闘う為に築かれた城塞都市は堅固で、戦いは長期化しそうであったが、分はヌスフェラートの方にあるようだった。


 悲鳴と救援の流星と逃亡の流星とが飛び交う中、一部の者はあることを思うようになった。《過去の英雄、アイアスはどうしたのだ?》と。

 あの伝説的な戦いの後に彼がどうしているかを大多数の人間は知らず、ほんの一握りの友人達と祖国アルファブラの者だけが、彼が未だ世界の何処かにいるはずであると知っていたのだが、彼等の期待も虚しく、アイアスが姿を現して戦ったという報告は聞かれなかったし、彼等の前にやって来ることもなかった。

 友人やその子供達、アイアスを崇拝する者等は、彼が現れ号令を掛けてくれる時を待ちながら、それぞれ戦いの準備をして己が国の防衛に尽力した。いつでも旅立つつもりの強者が幾人もいながら、期待される主役は相変わらず現れず、サルファ王国が陥落し、ビヨルクとも連絡が途絶えた。

 居ても立ってもいられなくなった者達はいつしか集まりだし、信仰のように不在のアイアスをリーダーとして心に掲げ、出現の時を待ちつつ、危機に瀕している街や国に掛けつけて行った。

 その中にはサルトーリ王国の王女もいて、彼女は王と兄達と王国の敵討ちを誓って積極的に前線に立ち、炎の鬣を持つ獅子人を探しながら戦っていた。

 彼女を連れ出した魔術師の男が止めるのも聞かず、避難民として受け入れようとしてくれる友好国の王室の好意にも靡かず、王女は王族らしい断固たる強い意志で男を連れ回し(一人でも行こうとする彼女を、彼が追って護っているのだが)、己の命など、名誉や報復の前には何でもないかのように騎士然として危険地帯に飛び込んで行った。


 中央大陸、中東部南海岸の国ラングレアには、甲殻系の魔物類ばかりからなる軍勢が押し寄せ、率いるリーダーである虫人(ちゅうじん)(虫の外観でありながら2足歩行をする者の総称で、6本足の者は他4本を手として操り、8本以上の者は他6本以上を概ね手とする)の奇怪な姿に人々は恐怖し、逃げ惑った。

 あまりに未知の敵が相手と知るや、国王は被害を最小限に留める為に民を北部へと避難させ、軍は無事逃がす為の足止め役として働き、やがては国王を護りながら護衛部隊が北上し、主力軍だけが残って戦闘を続けた。

 蟻人間の放つ強い蟻酸は兵士たちの鎧を簡単に溶かし、大蜘蛛の放つ粘着網は一度に複数の兵士を絡め取って動きを封じた。

 あまりに戦い慣れぬ敵にラングレア軍は翻弄され、当初から命は無いつもりであった覚悟通り、多くが命を散らせて殿(しんがり)としての務めを果たした。


 結成が遅れたものの、やがて私立軍(と言ってもまだ30人にも満たない規模だが)の活躍も目立ってきて、かつての強戦士の2世や、仲間同士結ばれて生まれたサラブレッドが血筋通りの力を見せて侵略軍を斬り、吹き飛ばし、焼いて、名声を世に響かせていった。

 私立軍の中にはサルトーリの王女もいて、ウィナホル大陸北部のバワーム王国を護り切っていた。

 バワーム王国は有数の農業国で、世界に輸出するほどの生産力を持つ恵まれた国土にあり、それを狙って再び出陣した吸血鬼団に襲われたのだが、かつて大戦でヌスフェラート界での有力吸血鬼であったヴィルフリートが倒され、数年前にそれと同格と見られていたカリストも失踪していた為、首領が各下の者でどうにか戦えたのだ。

 吸血鬼ジャファールはヌスフェラートらしい手強さを見せたものの、後一歩で王城を陥落させるところまで来てエリート部隊に追いつかれ囲まれてしまい、接戦の末、戦士クレイオンの銀製の返しを持つ剣に胸を刺し貫かれて絶命した。

 かつてアイアスがヴィルフリートとどのように戦ったか伝え聞いている2世や崇拝者達ならではの戦法であり、魔術師が太陽炎(プロミネンス)(吸血鬼が嫌うことの多い太陽光に近い炎の攻撃)で八方を塞ぎ、援護した上での快挙だった。

 これを機に、勝てる戦いもあるのだと知った人間達の士気は高まり、恐れるばかりだった中に一つの希望が灯りだして、逆にヌスフェラート軍勢は苦々しい思いをした。

 だが彼等は焦らず、即座に第2軍を投入することもなく、盤上の駒の動きを見守っているようだった。

 私立軍はかくして希望の使者団『ホルプ・センダー』と呼ばれるようになり、彼等を目指して各国の若者達が少しずつ集まり始めた。

 侵略軍から直接彼等を狙った刺客が送り込まれたり、罠に掛けられたり、そんな戦いの中でメンバーを失うこともあったが、彼等は挫けずに戦い続け、希望を与える地位を保ち、世界中で語られるようになった。


 ヌスフェラート軍は侵略に本腰を入れているように見せても、実はまだ様子見の段階であった。隠れた将ヴォルトがそうしているように、『天使』の出現がないか目を光らせているのである。

 かつての大戦におけるアイアス軍と同じ道程にある『ホルプ・センダー』の中に生じているのかもしれないと考えられていたが、刺客や罠によって攻撃を仕掛けた際の調査では、アイアスほど際立った天才児は未だ見出されていなかった。

 しかし、これから覚醒するのかもしれず、或いはまだ何処かで出番を待って眠っているのかもしれず、依然として警戒は緩められなかった。


 ホルプ・センダーと侵略軍の戦いは、どうにかホルプ・センダー側が凌いでいるといったところで、到底全ての国を救うことは出来ず、着々と複数国が攻撃を受け、ある国は真っ向戦い、ある国は総避難し、またある国は陥落していった。

 ナマクア大陸の南端国テクトも標的にされ、2度の防戦に耐えていたが、民も兵士も死者数は上昇の一途で、早くも敗戦色が濃くなり始めていた。

 テクト王は友好国に救援を求める使者を発した。

 そのうちの一つ、最も熱烈な嘆願書を送った先は、長年友好関係にある隣国、トライアだった。

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