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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第23章
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第4部23章『悪魔の子』25

※※注意※※

この章は大変ネガティブな内容になっております。

文章作品でも映像作品でも、その時のコンディションで受け取り方が変わるものですので、特にメンタルに不調を感じられている時はお読みにならないでください。

詳しくは活動報告の『次章23章について』をご覧ください。

(※このエピソードまでは安全です)

 後日、準備を整えて改めて宮殿入りしたヴォルトは、今度はルークスを従えており、ルークスはなるべく姿を見られぬようマントで姿を覆い隠してすぐ脇に控えた。

 そして皇帝の前で正式に参加を告げると、皇帝は大いに歓迎し、その場で祝杯が上げられた。

 皇帝は以前と同じく大いなる余裕と覇力に満ちており、視線を向けられると、さすがのルークスでもドキリとした。そんな相手はこの世界になかなかいない。

「噂通りの成長を遂げているようじゃな。ワシは強い者が本当に大好きじゃ。ヴォルト殿が加わることで、このお弟子殿も我が軍の一員となってくれるのであれば、実に心強いことじゃ。約束通り、宝物殿からどんな物でも好きに選んで持っていくが良い。我が宝物殿のコレクションは、どれも名品ばかりじゃ。良い品は、秀でた者が身に着けてこそ真価を発揮する。強き者と相応しき品が出会い磨かれていく様は、より完璧なる芸術作品に到達していくことに等しい。美しく、素晴らしいことだ。その助けができるのならば、ワシもコレクター冥利に尽きると言うもの。是非、吟味していきなさい」

ルークスは礼儀正しく目を伏せて頭を下げた。

 この弟子がヴォルトと同じく放浪の人生を希望していることはヴォルトから聞いて知っている皇帝は、もはや騎士団入りの話はしなかった。

 儀礼的な会見を済ませた師弟はすぐに宝物殿に向かい、頑丈な錠と衛兵と魔法とで幾重にも防備を張り巡らせた重要空間の中に入った。

 普段人の立ち入ることのないそこは、解除されたばかりの侵入者防護魔法の残滓が影響して緊張感ある静寂の中にあった。広いフロアーには満遍なく宝物が配置陳列され、ある物は透明なケースの中に納められ、ある物は宙に浮いてぶる下がっていた。

 宝飾品、金と宝石の(ちりば)められたゴブレット、かつて絶滅した魔物の剥製など、珍品貴品が所狭しと並べられている。エリア毎に同じような物が集められており、武器防具類は奥の方に配置されていた。

 その領域に足を踏み入れただけで空気の変化を感じ、ルークスはゾクゾクとした。鎧甲冑や武器が幾つも飾られているのだが、ここにある物はどれもが、そこらの品とは違うのだ。魔法で強化されていたり、魔石や魔力のある魔物の体が使われていたりなどして、既にそれ自体が何らかのパワーを持っているのである。

「……さすがだな」

ヴォルトも感心して眺めていた。

「おそろしい呪いの込められている物もあるようだ。身に着けた者はおそらく死ぬまで戦わされるのだろう。そんな品を他の宝と一緒に並べているとは……実にあの皇帝らしい」

そう言って示したものは、酷く錆びている鎧だった。胴回りの部分が鱗状のプレートを繋いで作られている。錆に見える部分も、実は大半が血なのかもしれない。それは、ルークスも近づいただけで触れない方が良さそうな悪寒を感じた。

 そうして1つ1つをじっくりと見て回っていくうちに、ルークスは1つの武器に目を留めた。槍のようで、先に鋭い刃を持っている。その刃の付け根部分に流線型の隆起があり、そこに青い宝玉が埋め込まれていた。

 手を触れてはならないような呪いの類は感じられなかったので、ルークスはそれに手を伸ばして持ち手を握った。

 まるで手に吸い付くようだった。こんな感覚は初めてだ。この陶酔感自体が何らかの魔力で、軽い呪いでもかけられているのではないかとさえ思ってしまう。

 武器防具エリアは呪いの品が他より多いのか、特に陳列のスペースを広く設けているので、その場でルークスは槍を振り回した。ヒャア……ンと、普通の槍とは違う響きが空間に広がる。

「ホウ……いいな」

ヴォルトも音だけで感ずるものがあったようだ。

 この形状からすると、先の方にもう1つ隠し武器か何かがありそうなのだが、どう作動させればいいのか解らず、ルークスは暫くいろいろ試した。そして、片手で柄の部分にあるリングに触れながら、もう片方の手で一番端の握りを捻ると、流線型の隆起部分が開いて鎌になった。刃は何段階かに分けて折れるようになっており、収納されていた時には、これ程長い刃が隠れているとは判らないほど邪魔にならない。完全に開いた刃は平均的な鎌より細くて優美だった。槍としての機能を損なわない為に、鎌の方は極力軽量化しているのだ。それでも強度や刃の切れ味に妥協はないようである。

 青い宝玉がどんな力を秘めているのかは知らないが、ただの武器以上の能力を持っているのは確かなようである。

 この宝物殿を預かる管理主任がやって来て、求めに応じ、その武器について解説した。

「そちらは、ドワーフ1の名工、サルヴァン=ドロホフによる作です」

「何と……あのサルヴァンか」

ドワーフの名工は歴代何人もいるのだが、現在生きている中で最高と謳われているのが、このサルヴァン=ドロホフなのである。しかし生きているかどうかは本当のところは怪しく、より優れた作品づくりの為にと言って世界の何処かに消えてしまってから、もう10年近く消息不明の状態であった。もし死んでいるなら、この作品は更に価値を高めるだろう。

「かつてカーン様の希望で、時の天使エレメンタインの為に作らせたのですが、完成した時には姿を消しておりまして、以来、相応しい持ち主が見つからぬまま、今日まで眠っておりました」

天使と聞いて、ヴォルトの目がキラリと輝いた。ルークスはその天使を知らない。

「300年ほど前にヴァイゲンツォルトに開いてしまった時空の裂け目を塞ぐ活躍を見せたヌスフェラートの天使だ。彼がいなければ暗黒界が浸出し、この国は飲み込まれていただろう」

天使の為に作られた名工の作ならば、最高のものであるのは間違いない。説明を聞いてますますルークスは気に入った。ヌスフェラート仕様の道具なら、馴染んで当然である。

「しかも、こちらは武器と防具一揃いでございます。防具の方はあちらに」

管理主任の示すところに、同じ青い宝玉を胸のパーツにあしらっている鎧があった。鎧にもいろいろタイプがあって、とにかく露出を避ける徹底した全装甲型のものもあれば、機動性を重視した軽量型もあるのだが、この鎧は後者の方だった。パースメルバに乗る騎手としても、その方が適している。

「この鎧を装着してこの武器を使うと、互いが呼応して持ち主を確実に判別し、防御バリアが発動するようになっております。物理的ダメージも魔法攻撃によるダメージも軽減し、仮に槍を奪われることがあっても、その槍で持ち主を傷つけることはできません」

ルークスもそれを聞いて感心の溜め息を漏らした。試しに鎧の、宝玉の施された胸部パーツだけ手に取って当ててみると、すぐに反応して他のパーツまでが瞬時に引き寄せられ、ルークスの体型に合わせて各々の位置を自動で定めると、その後は互いに連結してしまった。

 調節や引き絞りという手間を一切かける必要のない見事な機能である。これなら、急の戦闘にもすぐに装備できるし、衝撃でパーツが脱落したとしても、瞬時に元に戻って防護を助けてくれるだろう。

 そして何より、武器の方と同じように、この鎧も彼の感覚にマッチした。申し分なかった。こんなに自分に合う最高の品がこの世にあったということが信じられず、感激のあまり、ルークスは目を輝かせて言った。

「……これです。これしかない。こんなのは初めてだ」

ヴォルトも満足そうに頷き、管理主任に、このサルヴァン=ドロホフ作の一式を貰い受けていくことを告げると、ルークスにそのまま装備をさせた状態で宝物殿を後にした。

 これで、ルークスの戦士としての物理的環境はある意味完成した。後はひたすら、若さを補う経験と修行の積み重ねのみである。

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