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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第23章
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第4部23章『悪魔の子』21

※※注意※※

この章は大変ネガティブな内容になっております。

文章作品でも映像作品でも、その時のコンディションで受け取り方が変わるものですので、特にメンタルに不調を感じられている時はお読みにならないでください。

詳しくは活動報告の『次章23章について』をご覧ください。

(※このエピソードは安全です)

 肉体の癒しと強化を終えて、ようやくそれからルークスの訓練が始まった。

 竜時間は既に使えるので、まずはそれを誤った方法で使わないようにする練習を始めた。これまで、危機的状況に遭遇することが多かったせいもあり、一度に起こす竜時間の継続時間がかなり長かったのだが、実はそれが心臓に負担をかけるやり方なのである。

 ヴォルトも、ルークスと初めて対面した時には長めの竜時間を発生させたが、あれはルークスを追う為であって、普段使う場合には細切れにするのだそうだ。小さく発生させ、必要に応じてそれを連続させる。一息にまとめて行わないということだ。

「一度に長くやるのは、潜水に似ている。深い所まで潜って、浮き上がるまで息継ぎをしない。それでは体が苦しいのだ。だが、同じ仕事を、息継ぎをしながらでもできる。慣れれば、この方が体はずっと楽になる」

そういう訳で、意識的に小さく発生させ、それを連続させる練習から始まった。

 始めはなかなか難しかったのだが、ヴォルトは根気良く指導してくれたし、ルークス自身の上達したいという意思の力もあって、泳ぎやその時の息継ぎ方法を学んでいくように着実に身につけていき、やがて考えなくても自然に行えるようになった。

 使い方を修得すると、世界はコマ送りで見えるようになっていった。停止と動作の間隔が大きいと、標的が次にどのように動くのか予想し難いという弱点があったのだが、これなら極自然に次の動作を読み取ることができ、先手を打つことができるようになった。

 また、どんなに素早い相手が攻撃してきても――――訓練には地下世界の魔物を使っているのだが――――わずかな停止の間に避けてカウンターをかけることができるので、まず傷を負ったり、やられたりすることもなくなった。

 竜時間の操作についてはこれで十分だとヴォルトが判断した所で、今度はそれを使わぬ戦闘術の訓練が行われるようになった。竜時間は大きな武器となるが、それに頼ることに慣れると戦士としての成長が妨げられるというのだ。

「例えば私のように、竜時間が使える相手と遭遇し戦うこともあるかもしれん。或いは加速魔法など、時を操る魔術で対抗してくる相手もいるだろう。そうなると、最後に差をつけ頼みとなるのは、己の体と、その体捌きなのだ。使わぬと鈍るから竜時間はこれからも日常的に使うといいが、なるべく、それを使わずに相手に勝つクセをつけておくことだ。どうしても使わぬと勝てない。そういう時にだけ使うようにしておけ。そうすれば、戦士としての腕も上達が早いだろう」

「はい、わかりました。師匠」

 このようにして、ヴォルトの言葉は全てありがたく聞いて己の頭の中にある聖書に刻み込んでいき、ルークスは素直に忠実に与えられた課題をこなしていった。

 新たな課題を与え、新たな魔物などを教える為にヴォルトは少しずつ別の土地に移動し、新しい知識をルークスに授けていく。そうして地下世界の辺境ばかりを巡ると、半年ばかりで小さな戦士は申し分のない仕上りに達していた。

 ルークスもまた、旅の中でヴォルトが素晴らしい精神性と強さを持っていることを思い知っているので、彼への崇拝の度合いは確固たるものになっていた。

 元々、この辺りは母親の性質を色濃く受けていたのかもしれない。母は神を徹底的に信じ、何処までも忠実に生きた。ルークスの場合、その対象がヴォルトになったのである。

 彼は完全にヴォルトに惚れ込み、慕い、敬っていた。この人の与える課題はどんなことでも達成したいと思ったし、この人の命じることならば何であれやり遂げたいと考えた。


 そうして、高等な各種族の前に連れて行っても恥ずかしくないくらいにルークスを仕込んでから、ようやくヴォルトは彼をヴァイゲンツォルトの主都、エベルゲン・ポイツに連れて行った。彼が長い間、目標にしてきた土地である。

 ヴァイゲンツォルトの国土の様子なども教えながら向かったので、流星術でいきなり到着、というような入国ではないこともあり、ルークスの期待や、辛い過去が甦ったりする複雑な心の抑揚を繰り返した後で、2人は主都に到着した。

 ヴィア・セラーゴに生命活動が灯った、なんていうものじゃなかった。あまりに高度で、見たこともない技術や芸術に囲まれて人々が暮らしており、しかもそれらの人々の姿が父や自分と同じものだから感慨無量だった。

 父が言い残し、母と目指し、デレクも到着を願ってくれたヌスフェラートの国。

 ここがそうなのだと思うと、気づかぬうちにルークスの頬を涙が伝っていった。

 彼の過去を知るヴォルトはこんな時、男なら泣くなとか涙は弱さの表れだというようなことを言って咎めるようなことはせずに、代わりに大きな体で彼の姿が人々から見えぬように隠した。その気遣いが有り難く、だから一層ルークスはヴォルトに心酔した。

「お主の父の縁者がいるのか判らぬから、まずは見物しよう」

 エベルゲン・ポイツの人々は、皆がいい誂えの服を着ており、貧しいという表現がぴったりくる風体の者は全く見当たらない。それもルークスには驚きだった。皺のない服を着て、男も女も髪の毛が少しも乱れておらず、髪飾りや帽子などで華やかに纏めている。

 人間世界でも裕福な者は赤や黄や紫など色鮮やかな服を身につけたりするのだが、こちらの国では明るい色の服を着ている人は少なくて、皆が寒色系ばかりで揃えている。ルークスには暗いという印象を与えたが、個々の配色そのものはエレガントで、よく配分されていた。

 ヴォルトはこの国でも竜人姿のままで歩き、人々の目を引いていた。珍しそうに見られはするが、竜人そのものは知っている様子で、取りたてて騒ぐようなことはなかった。

 竜人の脇に、この国の基準からすればややみすぼらしい格好をしているヌスフェラートの子供がくっついて歩いているものだから、尚のこと皆から注目される。

 そのうち、黒いマントの男が何処かからやって来てヴォルトに声をかけた。

「これはこれは、ヴォルト殿ではないですか」

これまた位の高そうな紋入りのスーツを着ている長髪の中年男性だ。

「暫くお見かけしていなかったので、お探ししていたのです。お時間があるようでしたら、是非とも宮殿にお出で下さい。皇帝陛下も喜ばれましょう」

街の人々は何やらルークスには解らぬ言葉を喋っていたのだが、この男はヴォルトに対してルークスにも解る言葉で話しかけている。

 ヴォルトはチラリとルークスを見て言った。

「フム、いいだろう。お主にもいい経験だ」

それで男もルークスの存在に気づき、しげしげとルークスを見た。

「これは……ヴォルト殿が新しくお小姓をお付けになったのですか?」

「ハハ、小姓ではない。そのようなものは要らぬ。これは弟子だ」

「何と……! ヴォルト殿が弟子を取られるとは驚きですな!」

 そうしてひとしきりルークスのことが話題になり、ヴォルトはルークスの生い立ちやハーフであることは伏せて弟子の有能さだけを語った。

 宮殿に行くのであれば、もう少しいい格好をさせてやった方がいいだろうということにもなり、男のたっての案内でルークスはある仕立屋に連れて行かれ、初めてプロの仕立屋に手際良く全身の採寸をされると、その後はヴォルトと街の見学をして小一時間過ごしただけで新しい服が出来上がり、ルークスはそれを身に纏った。こんないい服を着るのは生まれて初めてだ。

 明るめのグレーと暗いグレーを取り混ぜた子供用のスーツに皮のブーツを履き、襟元にはブルーグレーのショールが巻かれ、その上から黒い膝丈のマントを羽織った。

 ヴォルトの宮殿訪問に対する男の感謝の表れで、どの生地も全てが最上級であり、美しい刺繍が施されている。平均的なヌスフェラートより少々明るい肌色をしているし、濁りのない金髪が美しいから、そうすると何処ぞの御曹司のようであった。

 これまでずっと外見にコンプレックスを抱いて生きてきたルークスは全く気づいていないのだが、こうしていると本当に素晴らしい美童で、男が小姓と見間違えたのも無理なかった。

 そうしてルークスの準備が整うと、ヴォルトはルークスを連れて主都の中央にある巨大な宮殿へと向かった。

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