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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第23章
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第4部23章『悪魔の子』16

※※注意※※

この章は大変ネガティブな内容になっております。

文章作品でも映像作品でも、その時のコンディションで受け取り方が変わるものですので、特にメンタルに不調を感じられている時はお読みにならないでください。

詳しくは活動報告の『次章23章について』をご覧ください。

 これで、脱出までのルートは把握できた。ルークスはたまに訪れる監視に万一聞こえてはならないから、ヒソヒソ声で見てきたことをデレクに語り、2人してどこが難関でどうクリアすべきかを相談し合った。デレクの方が4つ年上だから、知識や経験においてルークスに多少長ずるところもあり、盲目でもかなり有効な意見を述べることがあった。

「そんなに森が遠いんじゃ、昼間抜け出すのは無理だね」

「うん。夜、暗い時に犬を何とかして出ていくしかないと思う。犬のことはボクに任せて」

番犬でも、特大サイズではなかったから、竜時間を使って何処かに縛ってしまえば何とかなるだろうとルークスは思っていた。母を動かすのに比べれば、きっと楽に違いない。

 だが、ルートは判っていても、デレクが一緒にあの扉まで辿り着くにはきちんと練った作戦が必要だ。竜時間を起こす度にルークスが運んでいくわけにもいかない。きっと途中でバテて失敗してしまうだろう。

「こっちの方で何か騒ぎを起こして、男の人達が皆降りてきて集まるようにしないと」

「そうだね。誰もいなけりゃ、上の扉まで行くのは簡単だと思う」

そうして相談するうちに、2人はいい方法を思いついて、後はその作戦で進める段取りを何度も話し合った。

 何日も繰り返し坑内や男達の様子を見て、それをデレクに話しているので、2人とも起こり得る危険についてはかなりを列挙でき、想定し、対処方法について考えることもできた。

 そして、もはやこれ以上計画を練っても仕方あるまい、時間の方が大切だと2人が判断できるくらいにまで話を詰めた後、3日後に彼らはそれを決行した。

「――――――大変だ! 大変だ!」

ルークスはデレクと2人して、とても慌てた様子で咳込みながら少し上の現場へと上がっていった。普段は持ち場を離れると怒られるので、こんな風にしてやって来ることはない。

 ルークスはデレクを支え、デレクは渾身の演技で苦しそうにしている。大声を上げて2人がやって来たものだから、子供達はビックリして作業の手を止め、男たちも寄って来た。

「どうした? 何やってる! こんな所で!」

「掘っていたら穴が空いて、岩がたくさん崩れたんだ!そこからガスが出てるみたいで、すぐに逃げたけど、デレクがかなり吸っちゃったみたいなんだ! 大きな穴だったよ! きっとガスがいっぱい溜まってたんだ! ここにも上がって来るよ! 火を消さないと爆発しちゃうよ! 早く消して!」

爆発と聞いて子供達は悲鳴を上げ騒ぎ出した。男達の顔つきも変わる。何せ、演出の為に2人は岩石の粉をそこらじゅうに付けて粉塵まみれになっていた。

 かつてガスを吸って死んでしまった子供の様子を見ていたルークスがその様をデレクに教え、デレクがかなりそれに近い演技をすることができたので、不意をつけばこれだけであっという間に坑道内部は騒然となった。

 火がついてここが火の海と化せば逃げ場のない竈となってしまうから、男達も真剣だ。事の真偽を確かめる前に、まずはそこら中の松明を消させた。そうすると辺りは真っ暗だ。

 恐怖した子供達は、この暗闇の中でも上階に昇って行こうとする。いかに子供と言えど、多数がパニックを起こしている状態でこの暗闇の中では、幾ら男が怒鳴っても止められるものではなかった。結局男達の方もおそろしくて一緒に上がって行くことになり、集団がごっそり上に移動した。

 そして上階の作業場はそのパニックをそのまま受け止め、一気に煽られ、ますますパニックの規模が増し、ここでも松明とランプの火が消された。それが上階へ上階へと伝播していく。規模が大きくなるほど、それを止めるのは困難になっていった。

 2人が当初予想していた以上にうまくいき、坑道内は暗くなって上を下への大騒ぎとなり、上で休憩中だった男達までが何かあったのかと確かめに降りてきて、比較的地上に近い所にある大きな作業場で合流した。

「鉱脈探しのガキ共が大きな穴を開けたらしいんだ!ガスを吸って危ないかもしれねぇ! 爆発のおそれがあるから、火を消して上がってきたんだ!」

軽いガスならあっという間に上がってくるし、重いガスでも量が多ければ徐々に最下層を埋めてゆっくり這い上がってくる。小さい穴ならそれほど大騒ぎする必要もないのだが、2人の必死の演技で大きな空洞に通じてしまったらしいことを信じ込ませるのに成功した。

「それじゃあ仕方ねぇ! 一旦ガキ共を避難させよう!」

男達は更に上階へと子供達を連れて、とある空間に連れてくるとそこに全員を押し込めて、ここでジッとしているように言い、松明もランプも全くない真っ暗の状態で扉を閉めて鍵までかけた。

 数が多いから気づいていなかったが、この集団の中にルークスとデレクはいなかった。パニックで男の手が足りないことをいいことに更に上階を目指し、見つかった場合にはデレクを少しでも上に連れて行って治療しようとしたのだと言い訳するつもりで採掘道具の山に隠れていた。

 男達の右往左往が聞こえる。

「――――ガキ共はB6の部屋に入れた! あそこならガスは通らんだろう!」

 そして話を聞いているうちに、どうやらガスの抜け穴を確保する為に幾つかの扉を閉じて特定の扉だけを開けてルートを築こうとしているのが解った。騒ぎが起きて坑道内ができるだけ暗くなってくれれば良かったので、これはラッキーな展開だ。

「おい! 上も開けといた方がいい! その方が確実だ!」

もしかしたら、最上部の出入口のことを言っているのではないだろうかとルークスは思った。それなら有り難い。

 男達がそこら中走り回って対処しているのを聞きながら時を待ち、静かになったところでルークスがまず先に動いた。竜時間で先に道を進み、何処が閉じていて何処が開いているのかを確かめる。そして行く先々の松明やランプを消し、月光石だけを頼りにデレクの所へと戻って、今度は通常の時間流の中で彼を導き、前に進んでいった。

 男達も何処かに避難しているようで、今のところ通路では行き当たらない。

 ルークスがどんどん照明を消すことで、2人が通った後の道は真の暗闇へと変わっていく。これだけ暗黒の世界に変われば、そう易々と明るく戻すことはできないだろう。何せ引火することをおそれているので、照明が欲しくても火を点ける勇気はなかなか出まい。それに、上から火を持って来なければ、何処に松明やランプがあるのかも見えず、点火できないのだ。暗闇になればなるほど、ルークスとデレクにだけ有利な環境になっていく。

 やがて、前方で男の声がするようになった。ルークスが先に行って確かめると、ある扉の向こうで話しているようだった。

「……ぁぁ、痛手だが、引火する方が致命的だ。今日はこのまま換気に専念させよう」

少し聞いていると、誰かがそういった換気の処置を要請する為に何処か外へ出て行ったらしい。魔法なのか人力なのか不明だが、こういった時に下層の空気を入れ換える方法が用意されているようである。それが到着し始まるまでが勝負のようだ。

 ルークスは竜時間で部屋の中を確かめた。気密性の高い扉がある部屋で、ここには直接外へと繋がる換気口がある。そういう部屋は特別で、扉を閉めても火を焚いて調理などができるのだ。ここにいれば、仮にガスに引火しても助かるというワケである。

 完全に外に脱出してしまわないのは、現場の状況の把握と子供達の面倒を見る必要があったからだ。良心だとか保護心だとかではなくて、大切な労働力を失わない為の行動である。子供達を外に出すわけにはいかないので、こうして中で対処することになるのだ。

 ルークスは部屋を出ると扉を閉め、内側から開かないようにつっかえ棒をした。これで脱出の邪魔となり得る男の数を減らした。

 闇の中でルークスに手を引かれながら、ヨタヨタとデレクは進む。衰弱のせいで足元が覚束ない。咳込みそうになると口を手で押さえ、必死で堪えた。

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