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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第23章
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第4部23章『悪魔の子』14

※※注意※※

この章は大変ネガティブな内容になっております。

文章作品でも映像作品でも、その時のコンディションで受け取り方が変わるものですので、特にメンタルに不調を感じられている時はお読みにならないでください。

詳しくは活動報告の『次章23章について』をご覧ください。

 この坑道で働く子供達が眠る場所は地上にあった。だが、完全に外に出られるわけではなくて、地下から直接繋がる道の先に建物があり、それは半地下の構造で、天井に近い高さにある明かり取りの穴からようやく太陽の光が射し込んでくる、というものだった。

 天井は高く、その窓から脱出できないように設計されており、窓も開閉式にはなっておらず、厚めのガラスのはめ殺しだ。換気用の穴は別に設けられていた。

 かつては地下で寝起きさせていたのだが、それではかなり早く子供達が病気になったり衰弱したりして死んでしまうので、太陽の光を浴びることが大切らしいと気づいた坑道主の考えで造られた場所だった。

 地下の仕事は昼夜関係なく行えるので、子供達の就寝時間の一部が太陽の光が射し込む時間と重なるようスケジュールが組まれている。そして目覚めると、同じように明かり取りのある別の部屋で食事を取るのだった。この間は太陽の光を浴び、後はずっと地下に潜っての仕事となる。

 そして坑道主達が経験則から導き出した、最も子供達を長持ちさせ、かつ最大限働かせるギリギリのバランスまで労働させた後、地上に戻して所定の時間睡眠を取らせるのだった。

 そもそも何故ここには子供しかいないのかというと、子供の方が柔軟性に富んでおり、狭い坑道でも作業ができるということと、大人と違って反逆する力がないという利点があってのことだった。大人が行き来できるサイズの穴を開けると崩壊のおそれが高まるという点でも、子供サイズの穴で新しい鉱脈を探した方が安全面にも優れている。

 この違法な奴隷作業にはそもそも良心が働いていないので、食事などは味や見た目に全く気を払われていない。あくまで作業をする体を動かす燃料として与えられるだけで、いつもスープボウルにドロドロのものが盛られて食べさせられている。いろんな食材をごた混ぜにしてただ練っているようで、とにかく酷い味だった。

 だが、満足な食べ物を得られぬことが多く常に餓えていたルークスとしては、この方が栄養的にマシなようで、以前より空腹感が軽くなった。

 働かされる子供達は喧嘩をする元気こそないが、仕事中の怪我は多く、ルークスは度々呼び出されて治療に向かった。いちいち最も深い所に呼びに行くのが面倒な看守達は、呼び鈴を鳴らしてルークスの出番を告げるようになった。壁に張り巡らされたワイヤーが要所に繋がっており、適当なものを引けば繋がる鈴が揺れて鳴らせるようになっているのだ。

 ルークスはこのように治療呪文で大いに役立つし、この粗悪な環境でも他の子供達より耐久性が高く、デレクと2人しての仕事の進みも良かったから重宝がられた。

 デレク以外の子供達は相変わらずルークスの姿をおそれて口を利いたり付き合ったりしようとはしなかったが、治療の時だけは素直に施術を任せていた。


 こうした生活を繰り返している中では、いつどのようにして脱出すれば良いかの方法が見出せなかった。一度地下に潜ってしまえば周りが全く見えなくなるということもあったし、基本的に子供達はそれぞれ持ち場が決まっていて何処にでも行けるわけではないので、この地下坑道の全体像が見えず、計画が立て難いのである。これも男達の策略だった。

 男達が地上から出入リするルートはあるはずなのだが、子供達が立ち入ることを許されていない幾つかの扉の先にあるようなので、目で見て確かめることができた者はかつて1人もいないのである。

 以前に侵入できた子はいたかもしれない。だがきっと、すぐに見つかって叩きのめされるか、殺されるかしただろう。男達の面々があまりに凶悪で図体のでかい者ばかりだったからおそろしくて、試そうなどと考える子供は今の所いない。

 ただ1人、ルークスだけは治療の為に坑道内のいろんな場所に行く機会があったので、他の子供に比べればかなり坑道の位置関係を把握していた。

 そして、どれが特に怪しい扉かは目星がついていたので、中に入って確かめたいものだと思っていた。竜時間さえ発動すればそれが叶うのだが、今の所自分の意志だけで発動させることができないので、起きるきっかけでもないものかと毎日願っていた。

 だが、これまでの例からいけば、生命に関わるかなり危機的な状況にでも陥らなければあの竜時間は起こってくれないので、そんな事に出くわすことを願うのも危険なことだった。

 そこでルークスは、暇さえあれば竜時間の操作を試みた。夜眠る時、目覚めた時、通路を歩く時、地下での仕事中。心の中で発動を願い、それが起きた時のことを思い出してイメージし、同じ状態になるよう繰り返し繰り返し祈った。祈ると言っても、ルークスにはもはや神がいないので、あくまで自己催眠的な呪文に近い。

 しかし、成果は全く上がらなかった。心臓のように、意識して働きを切り換えることなどできない臓器のように、竜時間のスイッチは頑なに閉じたままだった。

 せめて父が生きて側にいてくれれば、どのようにすればいいのかコツを教えてもらえたのだろう。ヌスフェラートでも竜時間ができる者はごく少数とのことだから、教えを仰ぐ師もそれだけ少ないということになる。それにヴァイゲンツォルトはずっと遠い。ならば、自己開発していくしかなかった。


 ある時、成果の上がらない疲労感と日々の労働による消耗とで頭が半分朦朧としていて、ルークスは食事中にスプーンを落としてしまった。小さな粗相1つでも男達が目くじらを立てるので、ルークスは瞬間的に《しまった》と思い、そこで変化に気づいた。

 スプーンが目の前で止まっているのである。できたということの驚きで暫くスプーンに見とれていると、すぐに竜時間は終わってしまい、結局スプーンは床に落ちて男に怒られ、汚れたスプーンでそのまま食事を続けさせられることになった。頭を叩かれなくて済んだのは、一応ルークスが一番使い道の多い、役に立つ子供だったからだ。下手な暴力でその働きに支障が出るようなことがあると、かえって男達の方が坑道主に叱られてしまうのだ。

 これで少し、ルークスはコツを掴んだ。《あっ》と言ってしまいそうな緊張感。切迫感。それによって時が変化する。スイッチはその感覚に近い所にあるようだ。だから意識して、そん感覚を呼び起こせるようにすればいいのだ。

 それから徐々に、ルークスは短時間だけ竜時間を発動させることが可能になっていった。維持にもコツが要るようなので、ちょっとの間しか起こせないのだが、確実に回数は増えていった。

 そして何回も繰り返していくと、自分のどの辺りにそのスイッチがあるのか段々と判ってきて、無理に切迫した状況を思い浮かべずとも、そのスイッチに直接働きかけて竜時間を起こすことが可能になっていった。

 その感覚は、意識して涙を出してみたり、鳥肌を立ててみたりするのにも似ていた。つまり、本人はそれを行えるのだが、具体的にどうやってそれをしたのかは説明できない、というところがである。スイッチのある箇所を敢えて言うならば、それは頭の真ん中の少し上辺りだった。

 ここまで上達するのに、この坑道に来てから既に半年以上が経過してしまっていた。ルークス自身も悪環境で体が弱ってきているのを感じていたし、デレクは明らかに衰弱していた。同時期にここに来た少年達も、見るからに体を蝕んでいた。タイタスもかなり痩せている。

 この半年で、何人かの子供が倒れて治療を受けつけなくなり、そのまま死んで運び出されていくのをルークスは見ている。治療者として現場に呼ばれるからだ。

 幼い子供や少年が死んでいくのを見るのは、何とも哀れなことだった。死を見ることに慣れてはいても、ルークスの心は相変わらず痛んだ。

 そして、母の時と同じように、死んだ少年達はむしろ解放されて楽になったのだと思った。

 外の世界は大戦が終わり、平和になっているのかもしれない。だが、ここは大戦の悲惨さと少しも違うところのない地獄だ。もし脱出する術がないのなら、死より他に解放の道はないだろう。

 だが、少なくとも自分とデレクはここを出て行くのだとルークスは誓っていた。全員を救おうなどという無茶は考えていない。その方法が見出せるのならそうするかもしれないが、今は2人の脱出を計画するので手一杯だ。

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