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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第23章
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第4部23章『悪魔の子』12

※※注意※※

この章は大変ネガティブな内容になっております。

文章作品でも映像作品でも、その時のコンディションで受け取り方が変わるものですので、特にメンタルに不調を感じられている時はお読みにならないでください。

詳しくは活動報告の『次章23章について』をご覧ください。

 その計画は早い段階で妨害されてしまった。ある時、川辺を歩いていると数人の怪しい男達に取り囲まれ、竜時間を発動させる間もなく後方から来た死角の男に棒で強かに殴られ、気を失ってしまったのである。

 目覚めた時、ルークスは何処か薄暗い部屋の中で横になっていた。頭がズキズキと痛むので、まずは自分で頭の治療をした。

 よく見ると、部屋の中には他にも何人かの子供達がいた。ルークスより小さいのもいれば、大きいのもいる。一番年長そうなのは13才くらいの背格好だ。

 この光量では、他の子供達には互いの姿があまりよく見えていないだろう。

 皆俯き、シクシクと泣いていた。

「ここは……何なの? ここはどこ?」

ルークスがそう呼びかけても、暫く誰も返事をくれなかった。何人もいるから、他に誰かが答えるのではないかと皆が様子を見る。そして答える者がいないと判ってから、ようやく年長の少年が口を利いた。

「……真っ暗だから、わからねぇよ。でも、いい所じゃないのは確かだ」

ルークスが目覚める前に他の子供と話をして事態を把握している者が、それに続いた。

「オレ達、みんな悪いおっさんにつかまったんだよ。オレ達は皆、今度の大戦で母ちゃんや父ちゃんが死んじまって、町でかっぱらいや盗みとかして生活してたんだ。そんなガキばっかり狙って集めてるらしい」

「怖いよぉ……」

ルークスは驚いた。ここにいるのは、自分と同じような境遇の子供達ばかりだ。しかもマントとマスクがある上にこの暗さだから、誰も彼を怪しんでいない、普通に話ができる。ルークスの方は存分に皆の姿が見えているが、それは言わない方がいいだろう。

「……ここがそうなのかは、まだ解らないけど、身なし子ばかり誘拐して、売り飛ばしたり働かせたりする悪い奴等がいるって噂を聞いたことがあるんだ。だから……ここは、もしかしたらそういう所なのかもしれない」

シクシクと泣く子供の声が少し大きくなった。誰も守ってくれる者がいないことに慣れた子供独特の大人びた諦めが、この空間には漂っている。まだ慣れきっていない子供は、こうして泣く。

「……ありがとう。よくわかったよ。ボクはルークス」

「ふぅん……聖人の名前か。にしちゃあ、こんな所にいるのはツイてないな。オレはタイタス」

他の者も、余裕のある者は名を名乗った。

「なぁ、さっき少し光って見えたけど、お前、呪文ができるのか? ルークス」

「うん。男の人達に頭を殴られたから、痛くて治療したんだ。治療呪文ならできるよ。誰か怪我していたら治すよ。いる?」

へぇーと感心の声がした。そして同じように殴られて体を痛めている何人かが名乗りを上げた。ルークスは声を頼りにしているフリをして1人1人に近づき、示す箇所を治療してやった。皆喜び、感謝した。

「まだそんなに得意じゃないから、これがせいぜいだよ。今日はもうこれ以上できないな」

 そうして友好を深めているうちに、扉が開いて光が射し込み、体の大きな男が入り込んできた。手にはランプを持っている。

 長いこと暗い場所にいたので、皆、その光に一瞬顔を顰めた。

「――――さぁ、皆ここから出ろや。新入りども」

毛むくじゃらで脂ぎっていて粗野なその男がいかにも強そうなので、子供達は大人しく指示通りにした。そしてその部屋を出ると中は細い通路になっており、一列になって進んで行くと、少し広めの空間に出た。洞窟のような、壁も天井も丸く削られている石の空間である。そこにランプが幾つか吊るされていた。

 子供が全部揃うと13人ほどおり、それを囲むようにして3人の男が立った。

「今日はまた随分と集めたな」

「大戦が終わっちまったから国も余裕が出てきて、そろそろ軍の取締りが厳しくなる。だから今のうちに掻き集めておかなけりゃあな」

「だが……おい、幾ら数集めるったって……そいつは病気なんじゃないのか?」

ある男がルークスを指した。他の男も一様に見る。

「ちょうど1人でいたから、取り敢えず連れてきたんだ。使えなきゃ始末すりゃいい」

実におそろしいことを何でもないように平気で口にしているので、子供達は震え上がった。ルークスもブルリと肌を震わせて身構えた。

「おい、お前、何の病気でそんな格好をしている」

ルークスは男に詰め寄られて、母がいつも言っていた皮膚病の名前を言った。感染性はないが、とても酷い姿になってしまうものだ。これで大概は詮索を勘弁してくれる。

 だが、ここではそうもいかなかった。

「見せてみろ。そのマントを取れ。顔のも全部だ」

そんな自殺行為ができるものかと思い、ルークスは抵抗した。

「……嫌だ」

「いいから脱げ! 言うことを聞かねぇと殺すぞ!」

周りで見ている子供達までがビクビクとした。

 こうなっては仕方がないので、覚悟を決めてルークスは身を覆うものを脱ぎ始めた。いざとなったら、また竜時間が働いてくれるだろうかと願いながら。

 男だけでなく、子供達までが悲鳴を上げた。

「な……なんだおメェ……それは……どういうことだ……?!」

ルークスは隠さずにきっぱりと言った。

「父さんがヌスフェラートで、母さんは人間だ。この姿だと人間に殺されそうになるから、病気だということにして母さんが守ってくれた。今はもう、どちらも死んでしまった」

男達は唸った。

「こんな奴……置いておけるかよ」

男の1人が腰から短刀を抜き出した。子供達がヒャッと息を飲む。

「まだガキだし、使い道はあるかもしれねぇぞ」

「だが、少しでも大きくなったら何をするかわからねえじゃねぇか」

金を生み出すものに嗅覚を働かせる男が、簡単に殺すのは惜しいと考え、安全等を優先したい臆病な方の男が殺したがる、という構図になった。意見は殺したがる男の方が強く、それで決まりそうな気配である。

 そこへ、子供が口を開いた。

「――――そいつ、治療呪文ができるよ。さっきやったんだ」

「何?」

それはタイタスだった。その言葉に男が反応し、手を止めた。

「さっきはその格好だったから、人間じゃないなんて知らなかったけど、怪我してる奴を皆、治してくれたんだ。今日はもうできないみたいだけど」

ほぅ、と男達は感心の声を上げた。余程便利なのだろう。

「本当なのか? 他に何ができる?」

計算高い男の方が、身振りで仲間の短刀を下げさせた。

「……呪文はそれだけだ。あとは……暗い所でも、ものがよく見える。さっきの部屋はほとんど見えた」

大いに気に入った様子で男は頷き、ニヤリと笑みを見せた。

「へえ~。こりゃ驚きだな。ヌスフェラートってのは、そういうもんなのかね」

「……父さんがそうだった」

男達は目配せして、頷き合った。反対派だった男も仕方なく納得した様子だ。

「なら、お前はとても役に立ちそうだ。いいだろう。殺さないでおいてやる。言っとくが、他にヌスフェラートの怪しい技なんぞを使いやがったら許さねぇからな。嘘はつくなよ」

ルークスはコクンと頭を下げた。

 そして他の子供達の品定めも終わり、誰を何処に使うか、といった相談を男達は始めた。その間に、ルークスはタイタスに言った。

「……ありがとう」

タイタスは汚いものでも見るようにルークスを見た。

「勘違いするなよ。受けた借りを返しただけだ。ヌスフェラートなんか大嫌いだ。悪魔め」

今更ながら、ルークスは傷ついた。初めてではないから浅いものだが、でも痛かった。他の子供達も皆一様にルークスを避けた。

「――――よし、じゃあ、お前はこっちに来い。名前は何だ?」

「……ルークス」

「けっ! 聖人の名前かよ。ヌスフェラートのクセに。悪魔が聖人の名前とはお笑いだな」

これまでにも、何度こう言われてきたことだろうと思いながら、ルークスは男に連れられ一人だけ違う所へと向かった。ただヌスフェラートの姿をしているというだけでなく、その名が人間の崇める宗教の聖人と同じであるから、多くの人間が同じような反応をする。母がつけてくれた名だから大切にしていたが、厄介なものだとも思っていた。

 男に連れられて行く道すがら、ルークスはここがどんな場所なのかを見て取ることができた。ある通路の片側が刳り抜かれ、その下に沢山の子供が蠢いていた。土まみれになって、布の袋を背に何処かへと運んでいる。誰も楽しそうな様子の者はいない。

 皆痩せ細っていて、早くからここに来ているのであろう者ほど衰弱している様子だった。

 過酷な現実ばかり見てきたルークスだったから、直感的にこう思った。《ここに入った子供は誰も出て行くことができなくて、立派な大人になることもできなくて、きっとその前にここで死んでしまうのだろう》と。そして何とおそろしい場所だろうと震撼した。

 人間の残酷さをこれまでに嫌というほど見てきているが、まだこんな邪悪な事実が世の中にあったのかと改めて驚かされ、吐きそうなほどに嫌悪した。

 母は果たして、こんな場所があることを知っていても、それでも尚、人間の本質は善であると信じることができたのだろうか。いや……あの母ならばきっとそうしたのだろう。

 虚ろになってしまったルークスの人生だったが、ヴァイゲンツォルトに行くという目標は失われていない。何とかここから脱出して辿り着かなければ。そうルークスは決心した。

 皇帝騎士団首席の息子が、こんな所で死ぬなんて不名誉に甘んじてはいけない。

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