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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第23章
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第4部23章『悪魔の子』2

※※注意※※

この章は大変ネガティブな内容になっております。

文章作品でも映像作品でも、その時のコンディションで受け取り方が変わるものですので、特にメンタルに不調を感じられている時はお読みにならないでください。

詳しくは活動報告の『次章23章について』をご覧ください。

 何日も町に来ないことが続き、心配したある若者が彼女の小屋を探して森を歩き回った。どの方角に帰って行くのかは見ていたし、何度かこっそり後を尾けて途中まで帰り道を見守っていたので、大体の地域の見当もついていたのだ。

 もしかしたら病気にでもなり、たった1人で動けず難儀しているのではないだろうか。そう若者は考えて、家にあった薬と食料を背に負い、大義名文ができたことで胸を膨らませて森の道を歩んで行った。

 小屋は予想したよりもずっと遠い所にあった。以前に途中まで来ていなかったら道を見失いそうなほどである。草の生い茂り方から見ても、行き来するのが住人だけという様子だ。敢えて人里を離れて隠れ住んでいる、という印象を若者は受けた。

 彼女は木陰で椅子に座り、膝に毛布をかけて寛いでいた。病人が外の空気を吸う時のスタイルだ。若者は躊躇わず顔を出して挨拶した。

 幸い夫は狩りに出かけていたので彼女1人だった。驚いた彼女も内心そのことを感謝した。

 しかし、すぐに彼は想像したものと小屋の様子が大分違っていることに気づいた。若い女1人の生活にしては随分と小屋が潤っているのだ。乾燥途中の獣の皮がぶる下がっているし、干し肉にする肉片も天日に晒されている。一般的な女性が、ましてや彼女がやるとは思えない男仕事である。明らかに誰か男がここに来て、獣を捌いているのだ。彼女の為に。

 自分より先に何処かの村の男が来て世話を焼いているのだろうと思い、軽い苛立ちと嫉妬から彼は誰が行った技かと彼女に質問した。彼女は言葉を濁し、「付近の人が」とだけ答えた。

 彼女はここまでの足労を感謝し、日々の生活の時を削ってまで来ることはない、と彼自身の生活を大切にするように伝えた。感謝だけで終わると、またここに来かねないからだ。

 恋する男の歪んだ思考から、彼はこう考えた。他にもっと気に入った男がいて、この通り手際もいいから、自分のような男は不要だと言いたいのだろう、と。

 だから彼は愛想良く帰りはしたものの、その後もこっそりとこの小屋を覗きに来るようになった。何処の村のどいつが自分の妻になるべき女性にちょっかいを出しているのか見てやろうというのだ。

 彼女は、自分の体調を心配して尋ねてきた者がいることを夫に警告しておいた。他の村からもそういった者が来るかもしれない。承知した夫は、小屋を出入りする際はマントのフードを深く被ってマスクまでして、正体を隠すようにした。

 それでも、陰ながら小屋を観察している男の執拗さは防げなかった。長身で体格のいい男が小屋に出入するのを目撃した村の男は、どうしてもその正体を突き止めたくなってしまったのだ。まず体つきを見ただけで敵わないとは思ったのだが、それでも相手が誰なのかは知りたいのである。

 そして何度も小屋を訪れ――――彼女の悪阻が治まり、村にも出てくるようになってからも、彼は彼女の後を尾けて観察した。

 そしてある日、遂に彼は夫の正体を見てしまったのだった。それだけはしてはならないと越えなかった一線があったのだが、ある夜、小屋の窓の1つが換気の為に少し開けられたので、そこから中の様子を覗き込んだのである。マントの男は全てを取り払い、顔も腕も露にしていた。

 その姿に驚愕した彼は、転がるようにして小屋を離れて村へと逃げ帰った。


 当然ながら、これは大変な大騒ぎとなった。

 まずは大半の者が村の男の話を信じず、何かの見間違いだろうとしか思わなかった。だが、彼女が村に来れば直接問い質される羽目になる。彼女は直接的にではなく、「誰か男と暮らしているんだって?」と訊かれた。

 性格的にも信条的にも嘘がつけない彼女は、男がヌスフェラートだということ以外殆どの真実を明かすことになった。最終的に人間ではないことを突き止めようとの質問が出てくると、彼女はもはや観念して全てのことを語った。

「とてもいい人なんです。私達は愛し合っています。信じて下さい」

これまでの積み重ねがあればこそ、いきなり責められたり冷たくされたり、というようなことはなかったが、逆に皆は彼女を心配した。人が良過ぎるから、悪魔のような男に魅入られているのではないかと疑ったのだ。

 彼女ほどの娘だから、異種族たるヌスフェラートの男も大いに惹きつけられたのだろう。だが、このまま一緒にいて幸せになれるはずがない。

「私自身、よく考えて決めたことなんです。どうか解ってください。皆さんにご迷惑はおかけしません。彼は本当に私を愛し、心配し、大切にしてくれています。これまで隠してきたのは、きっと皆さんがそのように反応されると思ったからなんです。どうか、過去にヌスフェラートから受けた苦しみを彼にぶつけないで下さい。偏見の目で見ないで下さい。どんな種族に生まれついたのかは、神の計らいです。その中身を、魂を見てあげて下さい。彼自身、自らの種族を良く思ってはいません。だからこそ、この地にいるのです」

この時はまだ、皆もその言葉を聞く余裕があった。

 そして暫く前から気づいていた老婆が尋ねた。

「ねぇ、あんた、もしかしたらその男との間に子供ができちまったんじゃないのかい?」

村人はあっと言い、鋭い婆の視線を手繰るようにして彼女を見た。彼女の腹は既に膨らみ始めていた。見た目だけでは判らないが、先日の体調不良の件と合わせれば、玄人の目には明らかな徴候である。

 彼女はそれを認めた。

 村人は息を呑み、これはますます大変なことになったと考えた。縁もゆかりもない赤の他人だったなら、たとえ身重だろうと早々に追い出すところだろう。だが、その衝動が少なからずありつつも、彼女を追い出すなんて冷酷なことは、まだ村人たちにはできなかった。

 彼女の方も、異種族との掛け橋になり、人々に理解をもたらすことが自分の使命だと思っていたので、村人達から出ていくよう要請されるまでは留まるつもりでいた。

 村人達は、まず今回のところは彼女を帰して、それから議論を始めた。ヌスフェラートは手強くおそろしい種族だ。彼女に対して酷いことをすれば、恨みを買って滅ぼされてしまうかもしれない。だから時間をかけて様子を見、彼女の言う通り良識を持つ者ならば、彼女の幸せの為にこの世界から立ち去ることをやんわりと願って穏便に解決することができないか模索することになった。

 そしてその通りになれば、生まれてくる子供はどんな手を使ってでも処分するのだ。おそろしい計画なのだが、それが精一杯の選択だった。恨みを買わずに彼女諸共永久に去ってくれるのなら、それが一番確実で安心できるのだが、そうもいかないだろう。

 そして何より、治療者としての彼女の腕をまだ村が欲していたし、彼女の存在そのものを失い難い人間は多かったのだ。不要な者だけが去り、今まで通り彼女だけが自分達の側にいてくれれば、言うことはない。


 小屋に戻った彼女は、夫にそのことを話した。いつまでも隠し果せられるものではないから覚悟していたことではあった。が、彼は地下世界(アールヴ・ガード)で暮らす可能性も考えて欲しいと改めて彼女に進言した。彼女や、生まれてくる子供にとって安全な場所であることが重要なのだ。

 でも、勇気ある彼女は尚もこう言った。

「あなたと私が出会い、こうして結ばれたのは天の思し召しです。逃げ隠れする為ではなく、異なる者との交流や理解を深めることが私の役目だと信じています。生まれてくる子供は、きっと大切な使命を負っていることでしょう。私は神のお導きに従います」

信仰のことになると彼女はどこまでも頑なになるから、夫は心配しつつも様子を見ることにした。夜間や自分の留守中に人間達がこの小屋を襲って彼女を酷い目にあわせたりしないか、人間の国の軍隊をここに呼び寄せて自分達を捕らえたり殺したりしようとしないかをだ。


 時間をかけて村側も彼女側も相手の説得を試みようとした。が、どちらも屈することはなく、じきにそうも言っていられない程に彼女のお腹も大きくなってしまった。ここまで来て臨月の女性を他所に追いやるのは、人道的に(もと)る行為だ。

 雪の降る季節となり、彼女も易々とは村に行き来できなくなる。この身体で滑りでもして転んだら大変だ。そこで臨月に入ってからは、彼女は小屋で過ごすようになった。十分に冬の備えをしてあるので、夫の方もなるべく小屋にいて時が来るのを待った。

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