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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第22章
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第4部22章『暗黒騎士』5

 ――――トライアの朝。

 昨夜行われた宴会の内容は新聞となって配布され、城下街にあっという間に広まった。城から正式に配布される場合は無料だが、部数は一家に一部程度であり、何人かで回して読むことになる。

 人伝に先に聞いている者も中にはいるが、やはり伝聞の回数を重ねるごとに脚色されたり間違ったりするものだから、改めて内容を確かめる為にも皆がじっくりと拝読した。

 皆が感じるのは国王と同じことで、恐ろしい刺客の攻撃に遭いながらも、それに負けるどころか更に大きくなって帰ってきたのだから、さすがは我等が国軍隊長、天晴れと得意に思っていた。

 初めて見る竜はとても恐ろしいのだが、何せ国軍隊長が手懐けているそうだし、子供であるそうだから、ゆくゆくはこの国の守護獣となってくれるかもしれない。そんなのは前代未聞であるが、実現するならば、これは頼もしいことである。

 ああ、このトライアはどの国よりも安泰だ。ありがたい。ありがたい。


 その新聞が最初に配布される前に、ソニアはこれまでの日課通り人気(ひとけ)のない野原へと繰り出して、朝靄の中で早朝運動をしていた。

 一晩眠って旅の疲労は大いに解消し、衰えていた体も少しずつ戻りつつある。後はこうして以前のような運動と訓練で、できるだけ早く元に戻しておきたい。

 肉体は弱っているが、旅の間に連日経験した戦闘のお陰で、腕そのものはやはり上達していた。精霊の剣もあるし、アルファブラで極限まで風を操ったせいか、以前にも増して大気が己の意のままに動く。これで体が完全に回復したら、どんなにいいであろうと楽しみに感じるほどだ。それに、あの鎧もある。戦士として、どんどん完成されていくのは何とも言えぬ悦びだ。

 だが、一方で彼女はこう感じてもいた。こうして準備が整っていくのは、これから訪れる過酷な戦に向けての天の計らいなのではないか、と。トライアが襲われなければ、それに越したことはないのだが、そうもいかぬ未来が待ち受けているとでもいうのだろうか。

 そう考えると、一刻も早く己の状態を完璧に仕上げておきたいと思う。今日は皆から与えられた休暇とは言え、ソニアは朝から稽古に熱を入れた。

 そして一通り流れを終えると、ポン、ポンと拍手が響いた。アーサーだ。

「おはよう! ソニア!」

昨日はやつれた顔をしていた彼も、一夜明けて見違えるように生気を取り戻していた。彼女が本当に帰って来たのだと信じてようやくとれた深い睡眠は、余程安らかなものだったのだろう。そんな彼の姿を見られたことが嬉しくて、ソニアも笑顔で応えた。

 彼の手には早速長剣が握られている。

「やるか?」

「いいよ。今日は真剣か」

2人は同時に突進し、剣を噛み合わせた。

「その新しい剣の程を……見たかったのさ!」

「よし!」

アーサーは剣を捻って持ち手を換え、ソニアの剣を落とそうする。しかし彼女も同じく身を翻して剣舞になった。

「凄いな……! 何か音が違う! それにお前も腕を上げたみたいだ!」

「嫌ってほど戦ってきたからね!」

2人はまたぶつかり合い、そして飛び退き、また衝突した。噛み合う精霊の剣からは、不思議な和音が奏でられる。その剣と、ソニアの顔を見比べる彼の目は輝いていた。

「オレも旅に行くべきかな?」

「今度は近衛兵隊長が長期不在に?」

「オレは1月くらい行ってこなきゃな!」

「ハハッ!」

 彼女の日課を知る兵士や女官等がこの様子を見物していた。早速今朝から彼女はここに来るのではないか、そして度々訪れる近衛兵隊長も参加するのではないか。そう予想していた者達は、願った通りの光景が見られて大喜びしていた。2人揃って一緒にいること、そして仲むつまじくしているということは、何よりも微笑ましい。これが、この都の平和の象徴だと思う者もいた。

 ひとしきり立ち回った後、今度はソニアがアーサーに精霊の剣を貸した。戦士にとって最高の玩具を与えられたようなもので、アーサーは目を爛々とさせながら精霊の剣を振り回し、「スゲェ!」を連発した。

「何だよこの剣! こんなのがあるのか……! こんなの、軍隊長の剣に比べたら重さなんかないようなもんじゃないか!」

当然、彼は出所を知りたがったのだが、ソニアは秘密だと誤魔化した。

「ええっ! 何でだよ!」

「うん……まぁ、今はちょっと」

アーサーは急にシュンとして剣を下げた。

「……何があったのかは知らないが……お前は随分変わったよ。何だか……オレ1人置いてかれるみたいで……寂しいな」

「アーサー……」

ソニアは彼の肩を取って、そろそろ朝食の時間になることでもあり、並んで城に戻り始めた。

「あのね、本当に言えない人には……別の作り話をしていると思う。今ここで言えないのは……あなたには本当のことを話すと決めたからなの」

「――――本当に?!」

これは、朝目覚めた時に彼女が決めたことだった。彼女が打ち明けてくれるかどうかも解らず、可能だとしても何時のことになるのか解らなかったアーサーは目に見えて元気を取り戻した。

「私……本当のことを言うと、話すのがとても怖い。でも……あなたには話さなきゃならないと思う。だから今晩……あのいつもの水辺で……私の話を聞いてもらえるかしら」

彼は剣を鞘に納めて、空いた両手で彼女の肩を取り、朝日に目をキラキラとさせて頷いた。

「勿論だ! それに、何も心配することはないぜ! 前にも言った通り、お前が何であったって、オレの気持ちに変わりはないんだからな! 信じてくれよ!」

そして彼は嬉しさのあまり飛び跳ね、そこで宙返りまでした。

「イヤッホー! 良かった! オレはまだお前の助けになれるんだな!」

すっかり少年のように無邪気に喜ぶ彼の姿を見て、ソニアは少し紅潮した。また胸がほんのり熱くなる。彼は本当にいい人だ。こうして何かを共有できることを、全身で喜んでくれるのだから。

 それでも、いざ旅の真相を語った時、彼がどのような反応を見せるのかは、やはり不安だった。

 遠方から眺めている者達は、何やらあの近衛兵隊長が急に宙返りまでして何かを猛烈に喜んでいるものだから、どんな会話をしているのだろうと早くも憶測を膨らますことに執心した。そして、そのことを仲間達に知らせるべく各々の行き場所に向かって行ったのだった。


 アーサーの誘いで2人はその後も朝食を共に摂った。そうなる確率が高いと睨み、むしろそうなることを強く期待していた女官達の対応は素早く、ソニアが頼むとあっという間にアーサーの部屋に仕度が整い、2人は向かい合ってテーブルに着いた。

 彼の方は仕事であるからそんなにのんびりとはできないが、2人はこれからのことを話し合った。まずはゼフィーの教育係についてである。子供らしく暴れん坊なところがあるから、始終つきっきりで、していい事といけない事の教育をしてくれる根気強くて包容力のある人物が必要なのだ。昨日用意してもらった騎馬訓練場スペースも、とりあえずの措置であるから、今後用の専用スペースを確保してもらいたい。

「日中は飛んでばかりだから、夜だけ休む場所でもいいと思うの。それに、ゼフィーにもいろいろ訊きながら、無理のない場所にしてあげたいんだ」

どちらも今日のうちに手配が済むよう彼が請け負った。

 ソニアはほんの少しのうちに知ったゼフィーの癖や、子供らしい可愛げのあるところなどを楽しそうに語って聞かせた。「でっかい子供(ガキ)ができたみたいだな」と彼も笑う。

「まぁ、あの竜にはオレも相当驚いたから、皆が慣れるのにも努力が要るだろう。何かいい手がないか、オレの方でも考えておくよ」

「ありがとう。殆どの人はあんな大型の魔物は初めてだろうから、こちらが幾ら大丈夫だと言っても本当にそう思ってもらうのは難しいだろうからね。目と鼻の先に爆弾があるように思って落ちつかない人もいるかもしれない」

「確かにな」

 次に話題に上ったのは、じきにやって来る祭のことだった。ソニアも、彼の妹ミンナが今年初めてパレードに参加することを覚えているので、彼女の準備が進んでいるかを尋ねた。

 この忙しさだったので、正直ドレスの進み具合は全く知らない、と彼は言い、だがミンナのことであるから心配はしておらず、きっと見事なドレスを作るだろうと期待していると語った。ソニアもそこは賛同した。

 実はこの行事には付帯した他のイベントもあり、このパレードに参加する娘を、同じく17歳以上の未婚の男子がダンスの相手に申し込むことができるようになっている。選ぶ権利があるのは娘達の方だ。その夜、恒例のダンスパーティーがあり、街では夜を徹して音楽が流れ、人々が踊り続ける。それに参加できるのだ。

 17歳になるまでは早く寝なさいと怒られ、参加を許されないので、子供達にとっては大人の世界に仲間入りできる儀式であり、しかもこの時成立したペアはその後で結婚に至る確率が高いものだから、若者達は祭りのずっと前から心膨らませていた。

 誰が誰を誘い、また誰が誰を断ったのか、などは当人たちだけでなく年頃を過ぎた所帯持ちの者達にとっても関心事であった。

 それもあり、どんな男がミンナを誘い、どんな男をミンナが選ぶのか、彼は気が気でない。

 そしてこの祭については、彼にとってもう一つ、ずっと残念に思っていたことがあった。このようなドラマがあるわけだから、もしソニアも彼も普通に参加していたら、彼は絶対に彼女を誘いたかった。だが、ソニア17の時は既に軍幹部におり、祭の準備に当たるのが重要な務めであったので、これまで一度もパレードには参加していないのだ。

 祭は何日間にも渡って行われるので全日程勤めきりではなく、皆、休みをどこかで貰うものなのだが、それを利用して参加されてはどうかといろんな人から勧められても、ソニアはきっぱりと断っていた。

 花で飾り立てた白いドレス姿の彼女を、多くの者が見たいと思っている。その筆頭にいるのがアーサーなので、彼は毎年祭が来ると、その事を彼女にボヤいた。だが、軍のトップとなってしまった今は尚のこと参加できるわけがない。仮に参加することがあったとして、そこで彼がダンスを申し込んでも、軍幹部が2人同時に抜けてどうするのだと叱られて断られるのが目に見えている。彼は溜め息をついた。

「ミンナには、花冠をオレが載せてやる約束をしているんだ。とびきりのを用意させるよ」

「そうか、じゃあ、今日は城下街を一通り回った後に森の方にも行くから、そこでいい株でも見つけたら持って帰ってくるよ」

「……うん。ありがとう」

今、彼は一瞬何かの胸騒ぎを覚えた。ほんの僅かな疼きだったので、彼はそれを一緒に行けない残念さなのだろうと思った。

 後々思い返してみると、この時の勘が外れていなかったことに彼は気づくことになる。なぜなら、この森行きで始まる出来事が、これから彼の心を騒がせていくのだから。

 胸騒ぎはもう何処かへ行ってしまい、解らなくなっていた。ただ、彼女を見送ることが無性に切なく感じられた。

「今日は……気をつけて行ってこいな。あまり遠くに行くなよ」

「うん、わかってる。ありがとう、アーサー」

もうそろそろ時間なので、その後速やかに2人は朝食を終えた。

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