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Sonja〜ソニア〜  作者: 中島Vivie
第21章
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第3部21章『孤島の聖堂~帰還』1

 守護天使を失って以来、ますます魔物の出没頻度が高くなってしまったトライアの城都市。夜の警戒は日に日に強められていき、夜勤兵は増員され、都市の各要所に詰めている。

 マーギュリスの占いに続き、異国の姫の知らせによって国軍隊長の生存は伝えられているのだが、こうも長期間に渡り不在が続き治安が悪化してくると、どうしても信じ続けることが難しくなってきて、人々の不安は膨らんでいった。

 あの人なしで、この国は、都市は、これから生き残ることができるのだろうか?

 その不安を鎮める為、とは名言されてはいないが、もうじき会期が迫っているトライア最大の祭を、国王は中止にしなかった。ディライラ王が船を出すのに出資を惜しまなかったのと同じように、いつもと同じ行事を、むしろいつもより活気のあるものにして催すことで、この戦に気持ちで勝とうという意図があるのだが、敢えてそうは言わず、何でもない風に当然のごとく開催する、という戦法を取っていた。

 そのお陰で自然と明るい話題が増え、相談や打ち合せの為に夜出歩く者もおり、そうすると特に男連中は好んで酒場をその場に設けることが多いので、夜の街に明かりは絶えなかった。

 工房や細工師達は祭向けの作品を製作するのに夜も大忙しだし、軽食屋も菓子屋なども同じように、祭向けの商品の仕込みに追われていた。その他の祭に出店する店舗や、臨時で宿屋を営む民家なども皆、準備に奔走することを楽しんでいる。

 祭ともなれば各地方都市からも城都に人が押し寄せて増えるので、とにかく城下街は物凄い活気に溢れるのだ。芸人も来るし、演奏家も来るし、占い師も来る。物売りも来る。今年は大戦のせいで外部からの観光客は少ないかもしれない。だが、この国でこの街が一番賑わうのは確かである。この時期にしか見られない物、見られない人物が多いから、何ヶ月も前から楽しみにしていた民もいる。

 しかし、そんな行事の準備には必ず大なり小なりの(いさか)いが起きるもので、城下街を警備する兵は毎度この時期に揉め事のパトロールもして、必要があれば仲裁に入ったりし、街の平安を担った。それ故、問題の起き易い地域には日頃から人当たりが良く賢い者が配置されていたし、この時期だけ推薦されて宛がわれる者もいた。

 そんな夜の街の様子を見回るべく、近衛兵隊長アーサーは単騎で城下街を巡回している。例年であれば主にソニアが担っていた役割なのだが、彼女がいないので代わりにアーサーが請け負っていた。近衛としては城詰めの方が重要なので短時間ではあるのだが、彼が来るとやはり容易に街が平定していく。ソニアもそうだったのだが、何か揉め事を見つけて、そこでソニアや彼が発言すれば、2人はとても信頼され尊敬されているから、それは鶴の一声になって物事が鎮まるのである。勿論、発言の内容そのものも常に的確であった。

 そういう場に遭遇しないことの方が望ましく、平和な時にはただ各詰め所を巡り、問題がないか報告を聞くだけで済む。今宵は幸い何事もなくて、アーサーは最後の詰め所を後にした。

 日頃、不在のソニアの分まで背負って働いている彼が、偽りなく疲れた様子を表に出せるのは、こうした人気(ひとけ)のない暗い夜道だけだった。街外れの詰め所は森に近い所にあり、行きも帰りも民家の少ない林道を通っていけるのだ。

 少し木立が開けて小さな沼のある所に出ると、アーサーは栗毛の馬ジタンの足を止めて暫く佇んだ。その角度から見ると、ちょうど水面に月が映って美しく輝いている。水辺の花も、その月明かりを受けて仄かに白く浮かび上がっていた。実に穏やかで美しい夜の光景だ。

「……ソニア」

毎晩、月を見ては星を見ては彼女を思い出している。それこそ、日中は空にも雲にも花にも鳥の囀りにも彼女を見出していた。

 今日こそ帰ってくるのではないか。或いは無事であることの知らせが入ってくるのではないかと毎日待ち焦がれているのだが、その願いも虚しく一向に彼女は帰ってこない。こうして偶に名を呼んでみないと、存在自体が薄れて消えてしまうのではないかと心配で、彼は時々独り言をいっていた。

「……お前、いい加減にしろよ」

彼女を失った当初よりも大分気持ちは落ちついていたが、過労と、待つということの辛さが、彼の顔を幾分か(やつ)れさせていた。気丈にしている時はあまり気にならないが、この夜道での顔を見たら、人々はきっと心配することだろう。

 あのフィンデリア姫が言っていたヌスフェラートの都市から、出られなかったのだろうか? 兵らしく他の人命を優先して己は残り、まさかそこで散ってしまったのか?

 そのことであの姫もずっと心を痛めている。王が用意した貴賓室にずっと滞在し、ソニアが戻るまではこの国の防備に参加すると言って聞かないのだ。王が普通に滞在してくれれば結構だと言っても、決して譲らない勢いである。単身で復讐の為に悪魔共の城に乗り込んだことといい、あの姫もかなりの勇猛果敢な気性である。

 姫と別れてから数日が経過しているのに何の連絡もないとなると、無事に脱出できなかった恐れが高まるのは仕方のないことだった。

 それでも、彼は水面に映る月に向かって微笑んだ。

「帰ってきたら……覚えてろよ!」

こうしてまだ強がりを言えるうちはいい。アーサーは小休止に見切りをつけるとヒュッと一つ息を吐き、再びジタンを進めさせた。


 街のとある家では、少女3人が蝋燭の灯の下、木のテーブルを囲んで裁縫の真っ最中であった。そのうちの一人が、窓の方を見て言った。

「今晩も来てるらしいわよ。顔ぐらい見せに言ったら?」

3人のうちの一人、短い黒髪の娘がそちらを見もせずに「忙しいからいいんだ」と応える。

「そりゃ、忙しいでしょうけどもね。少し会うくらいはいいと思うわよ」

「そうよ。ミンナに会えば、気休めになるんじゃないの?」

「……いいの」

 黒髪の娘の名はミンナ=ヒドゥン。近衛兵隊長アーサーの妹である。他2人は彼女の友人であり、祭の衣装を作る為に、この数日は毎晩彼女の家に集まっていた。

 この家は、母とミンナがこの都にやって来た時そのままであり、彼が異例の昇進を遂げて国のNo.2になっても、もっと広くて豪勢な屋敷に住み換えるということはしなかった。この家族は元々質素な生活の方が板についており、今の家で十分贅沢だと思っているのである。

 好きなように花を植えられる庭があるし、お茶を楽しめるポーチもある。今ではミンナが若い娘らしいセンスとヒドゥン家ならではの慎ましさを合わせた素敵な装飾を全体に施しているので、この家は以前の住人の気配を完全に失って、ヒドゥン家の色に染まっていた。デルフィーも懐かしいが、ミンナはこの街での暮らしも、この家も好きだった。

 年頃の娘らしく、3人の娘はそれぞれに髪飾りやピアスなどをしている。何処の国でもそうだが、主都に住む者は服装が洗練され、自然とお洒落になるものだ。ミンナも滴型の小さな水晶の飾りを耳に下げ、それがキラキラと輝くので、彼女の美しさを際立たせていた。

 アーサーが兵士達に度々からかわれる通り、目元は兄と同じく父に似て、後は母親似のミンナは、物腰しとやかで涼しげな印象のある、なかなかの美少女であった。兵士と言わず商人と言わず、若者が度々この家の前で背伸びをして彼女の姿を盗み見ようとするほどである。

 そんな彼女達が今取りかかっているのは、祭の時に彼女達が着るパレード用の衣装であった。代々、それを着る娘達が自分の手で仕立てることになっており、下地が白であればデザインも自由で、思う存分裁縫の腕が振るえるようになっている。花娘のパレードと言って、17歳以上の未婚の娘が参加するものであり、花冠を戴いたトライアの娘が花で一杯の山車の上に乗って街中を回るのだ。

 パレードの性質上、嫁入りの大切な関門ともされていて、ここで己の才能をドレスに注ぎ込み、美だけでなく腕とセンスも見られるのである。だから娘達は腕のいい親族を頼って技を教えてもらったりしながら、できるだけ優れたドレスを作ろうと躍起になる。この家に友人達が集まるのは、母もミンナもかなり腕が良いからで、それを頼って毎晩押しかけてくるのだ。

 早くに夫を亡くして、しかも再婚しなかった母は、生計を支える為にこれまで沢山の針仕事をこなしてきている。娘のミンナもその母の仕事ぶりをみて育っているし、教わることもできるお陰で自然と腕が上がるのだ。アーサーの収入で生活には全く困らないのだが、腕が鈍らぬようにするのと生活のハリの為に、母は今でも仕事をもらってくることがある。腕が確かで、店舗を構えている店で頼むより安く仕上げてくれるので、頼みたがる者は近所に幾らでもいた。

 ミンナのデザインしたドレスは彼女の性格に合って、刺繍に凝る代わりにシルエットをシンプルにしたものであり、他2人の方が大きな花のコサージュを幾つもあしらった、派手で若い娘らしいものだった。

 この友人2人は、巡回で街に来ているアーサーに会いに行ってはどうかと度々口にした。でも、ミンナはなかなかウンとは言わない。しとやかでも優柔不断ではなくて、確固たる信念の下に振る舞う芯の強さがあるのだ。

「……お兄ちゃんはね、会う時はちゃんと来てくれるのよ。来ないってことは……それだけ忙しくて手が離せないってことなの。それを邪魔しちゃ、兵士の家族は務まらないわ」

あんまりしつこく言われるのが煩わしいのと、兵士の嫁になりたいなどと気軽によく夢想を語っている友人の為にミンナはそう言った。

「ふぅん……そっか。会いたくても、グッと堪えて待つのが兵士の妻なのね」

「それも何か素敵ねぇ~」

若い娘というものは、少々の現実的指摘が入っても一向にめげない。それも強さである。「大変よ」とミンナが言っても、その夢想の世界からはなかなか脱せないようであった。

「もう、お気楽なんだから。でも……今なんか、お兄ちゃんが城勤めになったばかりの頃に比べればいいものなのよ」

「そっか、アーサー様がミンナとお母さんのこと呼ばなかったら、まだデルフィーにいたかもしれないんだよね」

「私達とも友達になってなかったわけだ」

「……あの頃は何ヶ月も会えない時もあったのよ。今なら、どんなに忙しくたって月に二度くらいは来てくれるもの。私はそれで十分」

「そっか……」

それで一旦お喋りが止んで、またひとしきり各々の裁縫に専念していると、奥からミンナの母が現れて熱い茶を運んできた。

「どのくらい進んだの?」

母は3人にカップを差し出しながら、それぞれの成果を聞いた。後から追加したアイデアなどもあるので、時間の許す限り手を加えていって、パレードのギリギリに完成させることになりそうだった。

「うちは飯屋(めしや)だから母さんドレスなんて縫ったことないし、ホント助かるわぁ。ただの縫い物とドレス作りはえらい差よね」

「本当よね~。晴れ着は仕立ててもらうことの方が多いし」

そう言う娘達の方も、家の仕事柄それぞれに炊事や乾物の目利きが得意だったりする。

 熱い茶で一息つき、針の手を止めて娘達は談笑した。

「ミンナは注目の的よ~」

「ね! なんたって近衛兵隊長の妹がパレード参加だもんね!」

「そんなの、関係ないじゃない」

「何言ってんの大ありよ!」

「あんたは特別よ! お城の兵隊さん達にも人気あるし」

「それは、お兄ちゃんが上司だから気を遣ってるだけで……」

「うんにゃ! あんたはモテるの!」

「そ! モテるの! 悔しいけど。認めちゃいなさい!」

2人はミンナを肘でつつき合いからかった。ケラケラと笑う黄色い声は通りにまで響くほどだ。ミンナは恥ずかしがって顔を赤くした。母も楽しそうに笑っている。

「本当に、お城の人達にはいろいろ良くしてもらって、有り難いことだわ」

 休憩の後、もう少し作業をしてから騒がしい友人達は去り、母と娘だけの静かな時間が戻った。ミンナはもう少し進めてから寝ると言い、母が先に床に就いた。

 一人になり窓辺で座るも、本当に針仕事を進める気にはなれなくて、暫し青白い月を見上げる。テーブルの蝋燭も、火をそっと吹き消して1つだけにした。部屋が暗くなると、月明かりに照らされる庭の花や街明かりがよく見えるようになる。そしてまた、頬杖をして月を見上げた。

 本当のことを言えば、ミンナは兄の顔を見に行きたかった。彼女は、たった一人の大切な兄のことをとても案じている。

 今度のことがある前に一度家に来てくれたが、あれだって、テクトに派遣されるという危険な仕事を無事終えて帰ってこられるのか散々心配した挙句の帰還後のことであった。やっと会えた喜びも束の間、翌日すぐに出発してしまい、そして軍隊長が消えてしまったのだ。

 兄は、軍隊長が不在の穴を埋める必要があって、彼が一番の適任だから全部背負い込んでしまっている。皆も彼に期待し、任せてしまっている。それだって心配なことだが、もっと心配なのは彼の心の方だった。

 妹は、兄の想い人が誰かを知っている。街の噂になっているからだとかではなく、兄をよく知っているから、どれだけ軍隊長に想いを寄せていたかを知っている。この城に勤められるようになったのも、近衛兵隊長などという途方もない役職に昇りつめられたのも、全てはあの人間離れした超人に追いつこう、追い縋ろうと一心に駆け続けたからなのだ。

 美しいあの人。花のような色の髪の。海のような深い瞳の。

 このトライアの守護天使。

 その人がいなくなってしまって、一番打撃を受けているのは、間違いなく兄だ。どんなに、どんなに、心配していることだろう。

 こんな時に自分が会って慰めても、彼の心を芯から晴らすことができないのは解っている。

 もし万一、永遠にあの人が帰ってこなかったりしたら、兄は一生心から笑うことはできなくなってしまうかもしれない。

(可哀想なお兄ちゃん……)

ミンナは顔を伏せ、吐息した。会ってもしようがないということ、そして忙しい今は邪魔になるということが解っていても、自分が何の役にも立てないことが悲しかった。兄の為にならなくても、ただ邪魔になるだけでも、大好きな兄に会いたかった。

 彼が兵士ではなくて、普通の兄や父のようにいつも家にいて、世の中が戦時中などでなく、兄の想い人が消えたりなどしなければ……。

 静かな、一人きりの夜。一人きりの部屋。

(……兵隊さんは……嫌ね)

 すると、庭先でブルルンという鼻息が聞こえた。馬だ。

 ミンナは顔を上げて窓に顔を近づけるようにして庭をよく見た。月明かりに照らされて、騎馬の人がいる。彼女は、たまにしか会えなくても兄のシルエットを見間違えることはなかった。

 ミンナはテーブルを回って勢いよく扉を開け、庭に駆け出していった。戸を閉めもせずに妹が庭を走り抜けて来るものだから、馬上のアーサーは驚いてジタンから降りた。

「――――――お兄ちゃん!」

彼が腕を広げると、ミンナは胸に飛び込んできつく抱きしめた。アーサーは朗らかに笑う。

「もう寝たかと思ってたんだが、通りかかったら明かりが点いてから覗いてみたんだよ。よくオレが判ったなぁ。ミンナ」

 父の記憶がないミンナは、父に本来注ぐ分の愛情を全てこの兄に向けていた。こうして抱きしめると彼が疲れているのを感じるが、変わらぬ兄の匂いもあって、それがミンナをホッと安らがせる。こうしているのが、一番会えたということを実感できるのだ。

「祭の衣装を作ってたから遅くなったの。お兄ちゃんは見回りをしてたの?」

「ああ。これから城に帰るところだ」

「つまんないなぁ……」

いざ会ってみれば、ミンナは妹らしく我侭を言ってみたりした。そうしても良さそうな雰囲気が彼にあったのである。甘えた方がその人の慰めになることがあるものだ。アーサーは妹の頭を撫で、背もポンポンと叩いた。

「悪いな。祭の時は必ず来るから。お前の晴れ姿も見たいし」

ミンナはもっと顔を埋めて頷いた。

「花冠をオレが載せてやるからな。いい子にいて待ってろよ」

『いい子にして待ってろ』というのは、彼が出掛ける時にデルフィー時代からずっと使っている台詞である。そろそろこれでは子供扱いが過ぎるのではないかという年齢になっているのだが、ミンナは嫌ではなかったので、止めてくれと言ったことはない。

「……うん。わかった」

花冠を載せるのは父親と決まっており、父のいない彼女の場合は兄が載せるのが当然なので、その言葉は嘘ではないと思い、ミンナは嬉しくなった。

「……お兄ちゃん、疲れてるね。頑張ってるのね。大変ね」

「……うん。まあ……こんな時だからな」

「早く……楽になるといいね」

あの人が早く帰ってくるといいね、とは言えなかった。あの人のことを話題にするのはどうしても痛々しい。このまま、和やかな対面を続けていたかった。言葉にせずとも、この兄は十分に承知しているのだから。

 待って、待って、やっと会えたけど、ミンナは自分から体を離していった。

「さ、早く帰ってお兄ちゃんも休んでね。休まなきゃダメよ」

アーサーはもう一度ミンナの頭を撫で、頬も撫で、柔らかい笑顔を見せた。こんな表情が自然と出てきたのは、例の事件があってから初めてのことであった。

「ああ、解った。今度来た時はもっとゆっくりするからな」

誰かに守られて休むより、守るべき者に会うことで自分らしい力を取り戻せるのだ。

 アーサーはヒラリとジタンに乗って、手慣れた様子で手綱を操った。

「じゃあ、気をつけて」

「ああ、お前も気をつけてな。あまり夜更かしして風邪なんかひくなよ。祭に出られなかったら大変だ」

初参加の年に何らかの理由があって参加できないと、その娘は嫁行きが遅れるというジンクスのことを言っているのである。ミンナはアハハと笑った。

「うん、気をつける」

「――――じゃあな!」

 アーサーはジタンの横腹を軽く蹴って進ませた。そしてお互いの姿が見えなくなるまで、2人ともが何度か手を振り合った。数軒先の角を曲がり、馬の影は消えていった。

 彼と別れてから、彼と会えたことの喜びが押し寄せてきて涙が滲んでくる。もしかしたら、これまでにも何度か家の前を通り過ぎて、家族の安眠を願いながら去って行ったのかもしれない。ミンナは改めて兄への強い愛情を感じた。そして愛を感じたからこそ、その兄の為に早く軍隊長に帰ってきて欲しいと心の底から願った。

 どうか兄の為に、大好きな兄の為に、守護天使様、トライアに戻ってきて下さい。

 ミンナは手を組み、月に祈り、トライアスに祈った。

 この世は不思議なもので、一番求めている時、一番焦がれている時には望むものは見つからず、戻ってこなかったりする。待つのにも探すのにも疲れて少し落ちつき、ようやく周りが見えるようになってきて、時には忘れることもあるようになってから、ふと、それは現れるのだ。

 今回も例外ではなった。この夜が明けたその日、ようやく国軍隊長ソニア=パンザグロスはこのトライアへと帰還を果たすのであった。

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