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嵌った沼に花束を  作者: 睦月 葵
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ムシムシの来訪

 我が母は、「桜も含めて花は嫌い。散る時に散らかるから」というような人だ。私が寄せ植えの試作を作っている時も、「この鉢を見る度に胸糞悪(むなくそわる)くなるから、わたしから見えない所に持って行って」とのたまうので理由を問うたところ、「四って数が嫌いなの。不吉だから」ということらしい。

 そういわれてみれば、正月の玄関飾りの為、母が何種か購入した花材と私が花鋏(はなばさみ)を片手に庭から集めた花材で、生け花もどきを作る時にもそんなことをいわれた事がある。まあ、私は生け花を習ったことはないが、一応グラフィック・デザインを(たしな)んだ身でもあり、日本の伝統文化も好きなので、日本的な諸々では奇数が良いことぐらいは知っていたから、その件で母の地雷を踏んだことはない。ただし、ご飯を作る時に、材料が四種だったり盛った物が四個だった場合は咎められたことがある。

 それでもまあ、本人の機嫌が良い時には気付かない程度なのだから、クレームをつけたい時の手法なのだろうと、通常モードでスルーしまくりだ。

 けれども、私とていつもいつもスルー出来る余裕がある時ばかりではないし、『胸糞悪い』に非常にムカついたので、とても意地悪な返答をした。

「お母さん、それならあなた、烏も嫌いでしょ?」

「嫌いに決まっているでしょ。不吉ったらありゃあしない」

 と、予測を裏切らない返事。

「それは、あなたが昔のハリウッド映画が好きで、日本の伝統より欧米文化にかぶれているからだよ。古来より日本において、烏は神さまの遣いなの。あなたが、旅行に行ってすごく良かったといっている熊野神社の神獣は八咫烏(やたがらす)だし、金烏(きんう)玉兎(ぎょくと)といって、兎が月の象徴なら、烏は太陽の象徴なんですよ」

 立て板に水は、私の百八つの特技の一つだ。ついでに、『金烏・玉兎』というものが、母が好きではない中国伝来の文化であることはちゃっかり伏せている。目論見通り我が母は、反論ともつかないなんだかんだを怒鳴り散らしながら去って行った。

 そんな我が母は虫も嫌いで、「花には虫が来るから嫌だ」と主張し、私がバラを含む花を育てることを非難する───が、現在我々が住んでいる私の実家は、そもそもは母の実家で、最初に土地を購入して家を建てたのは母方の祖父である。雑木林の小山の一部を削って整地した為、それ以前の住人といえば野生の動植物しかいないだろう。その祖父が、貰い物だという樹木と草花を植えまくっていたので、基本的に庭はジャングルだ。そして、植物がある所には、植物の種類だけ虫が集まって来るといっても過言ではない。故に、私がバラを持ち込んでも持ち込まなくても、虫は多種多様に来ているのである。なので、このクレームも基本的にはスルー案件だ。


 それでも、大事なバラ達に虫は寄って来る。

 最初の懸案事項(けんあんじこう)だったアブラ虫は、バラ農家さんに紹介された魔法の粒剤でほとんど来なかったものの、他の虫は寄って来た。なにせこちらは、庭で遊ぶ犬猫とついでに人間にも害がない栽培を目指しているので、虫達にも優しい栽培だったのだから。

 最初にやって来たのは、ハキリバチだった。

 食べている様子もないのに、健康な葉っぱが丸く切り取られている。それが余りに多くなり、やたらと葉を切り取られてしまうと、健全な葉が損なわれてしまうので調査をした(勿論、ネットで)。すると、巣材として葉を持ち帰っていることが判り、犬猫・人間には特に被害がないことが判明。「それならば」と放置することにした。さらに後に判ったことだが、ハキリバチに狙われた鉢の場所を移動すれば、ハチの方で目標を見失うので簡単に被害を軽減することが出来ると知り、その後はほとんど被害を受けてない。

 より厄介だったのは、チュウレンジバチである。

 チュウレンジバチは、幹の部分に縦長の傷を入れ、そこに産卵する。卵から(かえ)った幼虫は無数で、放置すればバラの葉が丸坊主になるのだそうだ。『わんさかわんさか』という表現は好きな方だが、この『わんさか』はありがたくない。対処法としては、新しい卵を産み付けた形跡があれば、爪などで潰せば卵は孵らない。もしくは、親虫を発見した折には、産卵中であれば簡単に捕獲出来るので、テデトール手法で親虫を駆除するのが確実───ということだった。

 だが、無闇な殺生が嫌いな上、内臓が出る系の虫を潰すのはさすがに苦手な私は、しばし躊躇(ちゅうちょ)し続けた。何度か捕獲に成功したこともあったが、そもそも産卵中の親虫に遭遇することが少ないのだ。

 そして、躊躇している間に、魔法の粒剤を月に一度きちんと与えていれば、卵が孵らないことに気付いたのである。これで、当面の問題はほぼ解決───一年目・二年目の鉢数が少ない頃は、それだけでほぼ乗り切れた。

 しかし、「あれ? これは案外上手くいくんじゃない?」と思えたのはこの二年だけ。

 地球規模の全世界において、(いま)だ発見出来ていない種類がとてつもなく多いのは、植物と昆虫類。たった二年の経験で安心するのは、まだまだまだ甘かったのである。

 かけだしロザリアンの私は、この後、各種ムシムシの来訪を受ける羽目になったのだった。



【アブラムシ】

半翅目 アブラムシ上科の総称

アリと共生することは有名 天敵はテントウムシ

単為生殖でも増え、真社会性を持つので、生態や進化のモデル昆虫でもある。


【ハキリバチ】

膜翅目 ハキリバチ科に属する昆虫の総称 ハナバチの一種でもある

日本では五十種類ほど確認されている(残念ながら種類の同定は未確認)


【チュウレンジバチ】

膜翅目 ミフシハバチ科

毒針を持たず、人を刺すことはないが、幼虫がバラにもたらす被害は甚大で、バラ園芸家の最大の敵といわれている


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― 新着の感想 ―
[良い点] テデトール。 前にも出てきたけど、なぜカタコトなんだ。(笑) [気になる点] もともと虫が多い土地なのですね。 これはストーリー的に期待できる!(おっと失礼!) [一言] お母さま、なかな…
[一言] おおぅ! ムシムシさんが、やってきたのですね。 バラは、ムシムシさんに好かれてしまうようです。
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