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嵌った沼に花束を  作者: 睦月 葵
7/19

沼には沼の副作用・リベンジ

 バラの栽培が二年目、会社に持ち込む寄せ植えが一年目の冬───チューリップの球根を植えた鉢の結果は、日々の水浸しの件から期待出来ないことしかまだ判らなかったが、他の二つの鉢は全滅した。故に、次節のリベンジを誓ったのだが───よく考えると、季節はまだ冬の前半じゃね? 花材はホームセンターに(あふ)れているし、空いた鉢を使って再チャレンジが可能なんじゃね?

 そんなわけで、初年度の冬の間にもう一度チャレンジをすることにしたのだ。


 この時点の私は、憧れで購入した素焼きの鉢のメリット&デメリットを理解してはいなかったが、複数の花を植え合わせるにあたって、鉢そのものが小さい気がしたので、一鉢だけ黒いプラスチック製の丸くて大きくて広い鉢を追加購入した。

 素焼きの鉢には、好きな花でもあり・種類的に丈夫そうなキク科の都忘れの三色を植えた。そして、大きめの鉢には、各種ご家庭や公共の花壇で多用されているビオラ系をメインに高さストックで出し、バコパで低い所を充実させてみた。勿論、今度は最初から、『決して水を与えないでください』という立て看板付きである。

 結果からいえば、春まで無事に生き残ったのは、プラスチックの大きな鉢の一族だけだった。

 都忘れが何故上手く行かなかったのか、未だはっきりと判明してはいないが、やはり素焼きの鉢がネックだったのだと推測している。水捌(みずは)けが良すぎて乾燥しがちで、根に寒さが直撃したのだろう。

 素焼きの鉢故の同じ理由と水浸しの件で、チューリップもまた上手く行かなかった。芽を出し・葉を広げ・蕾までは付けたものの、背丈が一〇センチ以上に伸びることはなく、蕾も開き切らないままで終了。

 その二つの鉢のショボさからは想像出来ないほどに、黒いプラスチックの鉢は大成功だったのである。三色入れたビオラは株を太らせてわんさかわんさかと咲き誇った。試しに一株だけ入れたストックも、枝分かれしながら花を付け続け、何より香りが良かった。深く考えることなく、色合いのバランスと下生えを充実させる為だけに導入した筈のバコパは、鉢から垂れ下がる勢いで伸び、入れ替わり立ち代わり花を咲かせてくれたのである。


 リベンジで学んだのは、鉢の選択の重要さ、そして一つの鉢に異種の植物を同居させた時、肥料を含む諸々の追加手入れが同じでいい植物かどうかの選別───そして、それでも、寄せ合わせた植物それぞれの手入れの方法を、無精をせずにきちんと把握することだった。

 実際、最初のチャレンジの時に、他の草花がOUTでアリッサムだけが無事だったことがあった。なので、アリッサムを調べた結果、『植え替えに非常に弱い』と書かれていたにも拘らず、根を含む土ごとそろうっと植え替えれば大丈夫なのではないかとチャレンジしたのだが───二日で枯れてしまったのである。

 先人の知恵は素直に聞こう───という教訓を得た瞬間だった。

 ビオラの手入れに関しては、メジャーな花だけに簡単に情報が手に入り、ビオラ用の肥料を手に入れた後は簡単だったといえる。

 バラでも同じなのだが、植物にとって花を咲かせるというのは、大変なエネルギーを必要とすることだ。花を付けると、当然実が生る。花を咲かせる為のエネルギーは、そのまま実もしくは種を生成する為のエネルギーに変換される。だから、次々と花を咲かせたい場合は、盛りを過ぎた花殻(はながら)を早急に撤去しなければならなかった。

 冬場のことでもあり、当たり前だが寒い間は成長も鈍い。けれども、たまの小春日和や陽射したっぷりの日があると、待ち兼ねたように茎を伸ばし、少ないチャンスを逃さず開花する。そしてその数日後、低い鉢に屈みこんだ私が、指先でぷちぷちと花殻を撤去する姿を披露することになるのだ(主に、同僚おいちゃん達のなんだかんだに疲れた日にすることが多い)。

 大きくバラと違うのは、ほとんどいつも花が咲いたままなので、いつ肥料をあげればいいのか判らない───ということだろうか。

 けれども、所により大雑把な私は、「まあ、月に一度ぐらいでいいかぁ」と大雑把にルールを決めた。いつもと違う変化があれば、その時に対処すればいいことである。案外、それが良かったのかもしれない。

 後日知ったことではあるが、バラのお世話でも、寄せ植えのお世話でも、過保護に扱うのは決していいことではない───ということだった。

 極端な話、警戒しなければならないのは水切れと陽当たりだけ。その水も二十四時間水浸しにしたり、肥料過多にしたりすれば、根腐れを起こして全滅するのがオチである。

 気を付けなければならないのは、お日さまが好きな品種を取り揃えてはいるものの、季節外れに暖かい日があれば煮えてしまうので、日陰に避難。逆に寒い日が続くようであれば、水は控えめで陽当たりが良い所に鎮座させるという具合だ。


 そうやって試行錯誤を繰り返しながら、なんとか一鉢だけは、四月ごろまで爛漫(らんまん)なまま乗り切る事が出来たし、何となくコツも掴めた。

 次の冬こそ、本当のリベンジ───鉢植えによるお花畑を実現させてみせましょうと誓った春だった。


 追記:調子に乗った私は、夏場に鉢植えで丈の低いヒマワリやコスモスを育ててみようとしたのだが、コンクリートとアスファルトに囲まれた場所は灼熱過ぎて、植物の干物を作っただけで終わったのだトサ。



【初年度に使った花材】

 竜胆:リンドウ科 日本・中国原産 多年草

 吾亦紅:バラ科 日本・朝鮮半島・中国・シベリア原産 多年草

 鶏頭:ヒユ科 アジア・アフリカの熱帯地方原産 一年草

 ビオラ:スミレ科 北ヨーロッパ原産 一年草

 アリッサム:アブラナ科 地中海沿岸原産 多年草

 ネメシア:ゴマノハグサ科 南アフリカ原産 多年草

 都忘れ:キク科 東アジア原産 多年草

 バコパ:ゴマノハグサ科 アフリカ・カナリア諸島原産 多年草

 ストック:アブラナ科 ヨーロッパ南部原産 一年草


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 鉢の種類に理由があったなんて! イメージ的には素焼きの方が保水するのかと思ってました。 [一言] 大変だなぁ。 好きじゃないとできないですね。
[一言] プラスチックの鉢、優秀だったのですね。 なかなか、奥深いです。
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