沼には沼の副作用有
『バラと紅茶とアップルパイ』と表現すればいいのか、微妙にネジレが入ったバラ栽培に対するロマンには、思い掛けない副作用があった。
一年目にうちの子になったのは、モリニューさん。二年目には、ジャクリーヌ嬢と木香薔薇三姉妹。
一年間、モリニューさんを相手に学んだ事は多い。
◎花殻は早く摘むもの=植物のエネルギーは、花を咲かせたあとは実を付けることに注がれるので、実を望むのでなければ、次の蕾の為に早めに摘む。
◎開花が一段落したら、お礼肥と月一の魔法の粒剤を与え、水を切らさないようにしてしばし待つべし。
◎黒星病などの治療に、多少の薬剤を使うのはやむを得ないが、相手が虫の場合、周囲の犬猫&植物に対する影響を最小限にする為、テデトール処置が平和的である(テデトールとは、文字通り手で排除する行為のこと)。
◎寒くなってきて、木の幹や葉が赤くなれば、冬の剪定の時期が到来。色の変化は、バラの木が冬眠に入った証明なので、残っている葉を毟り取り、有望な枝を残して伸び過ぎた枝を落とすべし。目安の気温は十℃以下。この場合、情けは厳禁。
◎そこまでの作業が終われば、次は鉢植え故の植え替え。次の鉢を大きくするかしないかは状況次第だが、相手(バラの株)が深い眠りに就いている間に、割り箸一本を武器に、根が抱え込んだ土を、主根を傷めないように突き崩して綺麗に取り除き、根を活性剤に漬け込む。その間に次の鉢の準備を整え、優しく円満に植え替えて、改めて根付くまで寒過ぎない所で静養させる。
注:この土の除去作業を丁寧にするに越したことはないが、もしも多少根を痛めてしまっても、相手は深い冬眠状態なので無問題。
それらの作業を頭に叩き込みながら一年を過ごし、訪れた春にモリニューさんは見事に沢山の花を咲かせてくれた。
その成功に気を良くした私は、ジャクリーヌ嬢と木香薔薇三姉妹をうちの子に迎えたのだが、成長出来る環境を整えたあとは、日々の巡回以外にする事がなくなってしまったのである。
なので、余計なことを考えてしまったのだ。
当時、仕事の方でやたらとやらなければならない事が増えた私は、ひたすら職場と自宅との往復生活をしていた。潤いのなさにやさぐれるぐらいに。
一方で、バラの栽培を始めた為にホームセンターに通う事も増え、仕事で行った先々で見る植物にもより一層の興味を持つようになっていた(そもそも、かなりの関心があったというのに、それ以上に)。
それで目に付いたのが、寄せ植えである。
素焼きの丸い鉢に、盛り沢山の小花を咲かせたら、さぞ可愛らしいだろう。荒んだ心の拠り所にもなる。私的に癒しを求めるとすれば、モフ動物が Best なのだが、まさか会社で生き物を飼育するわけにもいかないが(遠い過去にはあったらしい)、植物であれば問題がないのでは……?
思い立ったら吉日で、『経費を要求したりはしませんので、私の癒しの為に鉢植えを置かせてください』と上司にお願いしたところ、快く承諾していただけた。
素焼きの鉢も、一鉢だけでは会社の前に置くには寂しかろうと、三鉢用意した。どんな植物を選んで寄せるか、オーダー選びにワクワクした。
思い立って実行に移したのが初秋───取り敢えず、ホームセンターで花選びをする。最初に目に付いたのが竜胆。花の形も色合いもとても好きな花の一つだ。だから、竜胆を中心にすることを即決。竜胆は背丈が低いので、高さがある秋の植物───と考えた結果、吾亦紅に決定。しかしながら、並べてみるとあまりにも地味な色合いだったので、キモノ・シリーズと呼ばれる小振りの鶏頭を添えた。
もう一鉢は、定番のビオラとアリッサム・高さを出す為にネメシア。
更にもう一鉢には、チューリップだけを敷き詰めた。
そうして寄せ植えの鉢を並べた結果は───八割方の惨敗。
敗因は、初心者故に花の種類を盛り沢山にした為、それぞれの花の開花期間と手入れ方法が違っていたこと。そして、私の憧れの素焼きの鉢が、暑くなり易く・寒くなり易く・水切れが早い特性を持っていたこと。
なによりも誤算だったのが、厳つい・体育会系の同僚おいちゃん達が、思いの外、可愛らしいお花が好きだったことだった。
手入れに係わりたいと申し出てくれたのなら、注意事項を伝えることが出来た。───が、おいちゃん達は、気が向いた時にお水をあげる。植物には、ひたすら水をあげればいいと思っていたようだ。
だけどっ!
それでもっ!
深夜&早朝に凍結情報が出ている時の夕方に、ひたひたに水をやるんじゃないっ! 確実に凍結するだろーがっ!!
冬場に、朝・昼・晩と水を与えるなっ! 根腐れするだろーがっ!!
斯くして、この冬の寄せ植えちゃんは、ほぼ全滅した。チューリップに至っては、開花どころか芽吹いたところで終わった。
私が、次節のリベンジを誓ったことはいうまでもない。
【寄せ植え】
ホームセンターや園芸店に行けば、数限りない花材が陳列されているが、自分の好みだけではなく、それぞれの花の開花時期&期間、手入れの方法の違いを考慮しないと、かなり悲惨なことになる。
経験者談。