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執筆中

 魔物の襲撃の際に囮と迎え撃つ場所として設置された都市門外の駅を兼ねたギルド今日も時間を問わずは賑わっていた。


 討伐した魔物を外部から納品や出品がしやすく、各地へすぐへ出現しやすいようギルドや魔物素材を取り扱う店は門外に建てられる事が多い。


 素材臭につられて魔物が出たとしても狩人たちが飛んで火に入る夏の虫と言わんばかりに我先にと狩り込みに行くし、町としても魔物がそちらへつられて集中しては勝手に討伐されるのは有難い。


 何より狩人は魔物に気付かれず奇襲するために防具を洗わない者も多いので、町中にあまり入ってきて欲しくないのも本音だ。


 そんな中で町行きの汽車へと乗る冒険者がいた。

 昨夜は羽振りもギルド上階のちょっと良い値段の宿泊施設で装備の洗浄も頼んみ、風呂もシャワーではなく久々にちゃんと消臭の薬湯へ浸かったので臭いは薄れてると思いたい。


 体は毎日ちゃんとシャワーを浴びて洗ってるので、貧民街のホームレスのように気まぐれな事前活動で一度洗われた位で異臭が取れない、なんて状態ではないのだが…冒険者以外の人にはやはり好ましい臭いはしないだろう。


 煙草を吸うことの多い空間は換気してても臭いは染みつき、吸わない人には不快に思われたりするようなものだ。多分。


 しかもこれから会う相手はなんだか良い匂いを漂わせた植物使いのお嬢様なのだから、鍵慣れない獣臭をさせているであろうことが気になってしまった。


 もう持つことも無いと思っていた魔物除けを手に、あのこはもう少し華やかな香りがしていたな等と思いながら、冒険者は昨日活動していた町へと舞い戻ったのだった。

 咲き始めたカミツレに明後日には収穫と納品をしなければとスケジュールを追加して。

 そろそろ今年の翡翠葛の花の写真を持って写真家が、春の王草の家の花々を写真に収めようとくるころかしら?なんて思いながら、洗濯物を干している時だった。


 草原に人影が見えてた。このあたりで人影と言えばほぼ確定的にメリッサへの来客である。このあたりの薬草は採取するにもうちに許可を取る必要があるし、他の建物もない。


 洗濯物を少し急いで干してから、お茶とお茶菓子の用意を始めた。


 道具を出してポットに火をかけた所でドアノッカーの音が室内へ響く。


「はい、いらっしゃいませ」


 ドアを開ければそこにいたのは昨日の冒険者だ。何故か全身湿気を帯びている。


「やぁ、さっそく遊びに来たよ」


 別に滴るほどでもないが、お腹を壊したりしないだろうか。


「あの、川にでも落ちました?」


「あはは、持ってた魔除け(ポマード)が古かったのか、魔除け(ポマンダー)が効果無いくらい獣臭すぎたのか襲われちゃって。倒せたけど…やっぱりなんか臭う?」


 獣で作られた装備は濡れると臭いやすい。近くの川も綺麗だが、それでも川は川で独特の香りがするものだ。


 旅人の訪ねるような家に住んでる身としてメリッサは慣れているが、年頃の青年的には同年代位の女性相手に自分から漂う悪臭は嗅がれたくない物だろう。


「臭いは気になるなら消臭剤があるけれど、それより濡れてたらお腹壊さないかしら?」


「ああ大丈夫。道中で結構乾いたから。」


 流石男の子というか、冒険者というか。彼の無頓着さと頑丈さの見分けのつくほど付き合いが深いわけではないので、ひんやりとした室内より日差しの暖かいテラスへ案内することに決めた。


 道中様々な植物が乾燥や保存のため吊されたり広げられている室内を興味深そうにきょろきょろとみている冒険者を大窓の外の庭に置かれたテーブルへと案内する。


「ごめん、湿気厳禁だったかな」


「濡れたまま触らなければ平気。今何か暖かいものを用意してくるわ」


 体を温めるなら丁度足の速い乳製品を手に入れたところなのもあり、発汗作用のあるラベンダーのミルクティーを用意することに決めてメリッサは室内へと戻る。


 ラベンダーには消臭(デオドラント)効果もあるので湯気の当たる頭部くらいはいい匂いへ変わるかも知れないが、体の方は消臭されなそうなので消臭剤も渡すことにする。ルームフレグランス用に作った物が化粧品用冷蔵箱にあったはずだ。


 沸いたお湯を火から下ろして加熱器(ウォーマー)へ置くと、今度はミルクを火にかけ、ティーセットをお湯で温める。


 その間にドライのラベンダーの量を量って、プレートには季節の花々を貼り付けて焼いたスコーンといくつかのジャムを添えて。


 茶器を温めていたお湯を棄て、ポットへラベンダーと熱湯を投入したら、あとは蒸らしておくたけだ。


 暖まったミルクピッチャーへミルクを注ぐと用意した物をワゴンに乗せて持って行く。


 ちなみにテラスまでバリアフリーだ。元々先祖の隠居のため建てられた家なので階段以外は段差がない。


「気になるようなら森林の香りの消臭剤よ。よければ使って」


 一応魔物除け効果のないものにした。防具に香りが染み付いてしまったら彼の商売はあがったりだろうし、香りも華やかさは無いので男性も使いやすいたろう。


「ありがとう」


 冒険者は消臭剤を受け取ると腕に一吹きする。


「わぁ!良い匂いだねー!」


「よかった、香りは好みがわかれやすいもの。ミルクティーは平気かしら?」


 濃いめに入れたラベンダーティーは普通の三倍濃縮だ。ミルクがだめならお湯で割ってあげるつもりで一応訊く。


「うん、大丈夫!」


「花蜜もあるけど…お茶菓子が甘いから好みで入れてちょうだい」


「はーい」


 お湯と同量のミルクを入れたミルクティーとスコーンのプレートを置く。


「わあおしゃれー。貴族の午後のお茶(あふたーぬーんてぃー)ってこんなイメージー」


「それなら菓子と軽食の塔(ハイティースタンド)があった方がそれっぽいわね。」


 時間的には十時のおやつなので、二時間後だったら軽食と共に用意したかも知れない戸棚で眠るスタンドを思い出す。


 メリッサは洗い物が増えると言う庶民的な理由で一人暮らしになってからは一度も使ってないが、祖母の健在のころはテーブルマナー教育を兼ねて使ったものだ。


 王家に納品物が出来た際の万が一のための教育だが、先祖の時代ならいざ知らず、香水も薬品も今や優遇されるのは最先端技師である錬金術師の時代であると王草の家に寄る植物使い達も全員嘆くくらいには仕事はない。


「あー、あれねー。前依頼で冒険譚を聞くのが好きな貴族にだされてさ。一番上のお菓子を先につまんだら、使用人さんに怪訝そうな顔されちゃった」


「普通、下から軽食を済ませて一番上はデザートだからじゃないかしら? 貴族はサンドイッチすらナイフとフォーク使うのだし」


 メリッサは普通に手づかみでかぶりつくし、貴族は知識上でしか知らない相手である。


「あ、そうなの? そんなおなか空いてないしおやつだけ貰いたかったんだよねー。」


「依頼主にはとがめられなかったの?」


 ギルドも貴族相手にマナーの理解できる冒険者意外を受注受付するのは意外な気もした。不敬罪とかで訴えられるのが恐くないんだろうか。


「隣のマカロンはおきにいりだから食べないでってお嬢様に即座に予約されたくらいかな。この国は第三王子のおかげで不敬罪もゆるいしね。」


「それはなんとも食い意地が張ってるわね…不敬罪がゆるいのは知らなかったわ。 」


 メリッサの行動範囲は家と隣町で終了である。お高い人たちの事など情報は全く興味も無ければ入らない。 


「まぁ、相手は六歳だったしここは中央から遠いもんね。 弟の方なんかスライム倒した話ですら目を輝かせててさー。可愛かったなー」


 それならお菓子への危機感も納得だ。自分が軽食から(マナーどおりに)食べてて手を出せない好物(デザート)が、いきなり目の前で平らげられそうできっと怖かったことだろう。メリッサの目の前の冒険者は自由すぎる。


「それなら実質冒険者に子守依頼? 無用心ではないかしら…」


 冒険者はなるのに試験さえパスすれば今までの経歴はほとんど問わないと聞く。貴族が駆け出し冒険者をホイホイ子守につけていいものだろうか。


「まあ屈強なボディガードはいたけどね。駆け出し冒険者だったら大抵ボディガードがのせるって理由で低ランク依頼なんだよね。一応暗殺とかされないように冒険者の身元保障は所属ギルド長の首がかかってるから、これぐらいの子守依頼は意外とあるよ。」


「ああ、なるほど…」


 貴族の子供が暗殺や誘拐されたらギルド長の首が飛ぶなら試験の時にきっと危ない人ははじいているのだろう。


「ボディガードさんのが冒険譚できそうなムキムキだねーって言ったら『だって皆人間相手ばかりで魔物の話しないんだもん』だってさ。」


 貴族の住むような所は基本的に出現地区から遠く、他の地への移動中は護送で基本的に魔物は見ないで暮らす。


 なので貴族に雇われるものや貴族にとって、魔物は魔物使いの連れてる物が見れればラッキー程度の労働生物だろう。


「貴族の馬車移動は魔除けが強くて外でも襲ってくるのは盗賊くらいらしいよー。魔物は生態を知ってれば対処出来るし本当に恐いのはやっぱり人間だねー。まぁ、対人戦のが得意なんだけど。魔物って種類多くて動きのパターンや肉体構造おぼえきれないしさー」


「それって言ってること矛盾してないかしら?」


「してないよ? 人間は物理では倒すの楽だけど社会的にはそうもいかない。魔物は倒し方と動きがいろいろあるから立ち回りは大変だけど殺せばいいからあとくされなくてらくだよねー。」


 確かに人間社会はめんどうだ。メリッサも植物を意のままに操る魔法使い(ウィザード)の植物使いだったら冒険に出ただろうか…否、今の生活はほぼ引きこもりで成り立つから更に暮らしか便利だっただけにちがいない。


 食べたいときに食べたい植物を急成長させて畑から蔓をキッチンまで届けさせたり、ぐうたらしかねなかったくらいの使い道しかほぼないだろう。


 草花は収穫期があり、それを逃すと困る…なんて言えるほどお客様が多いわけでもないので植物のストックも十分。


 メリッサが非魔法(アナログ)で困ることは基本的に無かった。


「貴方は人が嫌いで冒険してるの?」


 いろいろな依頼主(ひと)と関われて様々な土地に赴ける冒険者こそ交流は多そうなのに、人の面倒さを語る冒険者は矛盾している気がした。


「んー、まぁ近いかな? ほら、末っ子は家も継げないから働くしかないじゃない?」


「そうなの?」


 兄弟も居ないメリッサには縁の無い話だったので知らなかった。


 もとより自給自足(ひきこもり)非魔法系植物使い(時間のかかる研究者)なのでどうにも流行と一般常識に疎くなりがちなのだ。


 植物使いのお客様は多いのでその界隈の話だけはそこそこ追えている。


「君は一人っ子?」


「ええ。それもあるしここをほっとけないから私は継ぐしか選択肢は無かったわね。」


 それが良いかどうかと言えば、他に何も出来ないメリッサの性にもあった暮らし方ではあるのだが、植えられた木が自由に動けずその地に暮らすしかないような窮屈さは感じていた。


「あら、メリー。見ないお客さんね。お邪魔しても平気かしら?」


 ふと、声がかかる。メリッサより少し年上の女性で大きなリュックサックを背負い、山高帽と木製の杖は彼女の職業をよく表していた。


「あら、アセロラ。久しぶりね!」


「ええ、三年ぶりかしら?王草のドライとあればカミツレが欲しいのだけど…」


「ごめんなさい、カミツレは今日咲いたから今年分の収穫は明後日からなの。去年のでいいかしら?」


「ええ。相席、よろしいかしら?」


「どうぞ」


「貴方は何故この店に?」


「この前助けて貰ったお礼にと思ってー。」


「なら明日都市でバザーがあるから連れてってあげたら?きっと喜ぶわよ」


「ふーん…ねぇ、此処から君は出たことある?あ、隣町は除いて!」


「え?いや、1回もないけれど…必要なものは町で揃ってしまうし」


「此処、一日二日くらいは開けても平気?」


「明後日の朝は納品があるけれど…基本的には?」


「よし、じゃあ今から都市に行く準備して!できたら行こう!」


「え、今から!?」


「今年のバザー、明日なのよ。朝早いからあっちに止まっちゃった方が良いわよ?」


「お世話になった素材分今潤ってるからね。還元って訳じゃないけど申し訳ないからお礼させて!」

 鉄道は通っても馬車が機械化しないのは馬の優秀さ故である。


 鉄道は何者も跳ね飛ばしてしまうが馬は飛び出した子供をよけようとしたり、自分が荷台にバックステップで突進してもとまるので試験運用の鉄の馬車より圧倒的に安全(それでもひいてしまうと馬の方がトラウマになって町を走れなくなる)。

 見た目の優美さで魔物車より人気であり、馬車があることでボロ取りゴミ拾いをしてる貧民街の子供が職を得ているところもある。景観維持のためにまじめに一日拾えば三日はごはんを食べられる程の稼ぎにはなる。


 魔物車なら空さえ飛べることもあり、乗り物の機械化がすすまない。

 維持費も魔物の胃袋は人間より強いため、叩き売りされた飲食店などの食べ残しや売れ残り等が主。

 食品ロス改善にもなり、トイレもしつけられるので馬より重宝されがち。

 ただ轢き殺したときに人の血の味を覚えてしまった場合、最悪殺処分とかになるので御者の魔物ロス問題などがちまたで話題。まだ地の味を覚えてないから殺さないで欲しいと魔物可愛さに凶暴化したのを隠す魔物使いや、長年可愛がってたこの豹変に耐えきれなくなる物が跡を絶たない。

 魔物使いは冒険者より御者に多い。

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