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とんがり帽子の薬屋見習い少女

 大橋の大河へ合流するはずだった枯れた小川に阻まれ、桜と菜の花が対岸の相手へと手を伸ばすかのようにお互いに川に向かって伸びている。


 水の代わりに薄桃色の花弁を湛えた小川から見上げれば、花弁は少しの風でも雨のように降ってきた。


 森を抜ける獣道から少し逸れたこの場所は、水がない時期に限って使う王草の家から町への近道だ。


 お昼はここら辺で楽しみたいところであったが、本日は町との往復だけでも四時間近く時間がかかる為断念した。


 そんなメリッサは、食材屋に頼まれた忌避剤につかう素材を作りながら昼食を簡単に済ませ、再び町へ向かっていた。


 空間魔法でも使えたら手ぶらで行き来も出来たのだろうが生憎そんな伝説的で勇者が持ってるような便利魔法は使えないので籠の中に大きな壺と様々な植物を持ってきた。


 帰りは朝買えなかった重たい物も買って帰ろうと決意する。


 水やお茶に果物のジュースは作れるが、買わないと手に入らないミルクは特に欲しい。


 豆乳は作れるが好みの味は植物乳より酪農乳だ。


 チーズやヨーグルトも欲しいが坂道を思うと割合はどうしようなどと考えるのも重さを思えば憂鬱だが、帰ってからの食事を思えば楽しくもあった。


(これを納品したらロイヤルミルクティーを紅茶で淹れよう。夕飯はクリームパスタがいい。)


 クリームパスタにベーコンと菜の花を入れようか、いや、薬剤調合しながら食べた昼食のサンドイッチと具材が丸かぶりだからキノコでも…などと考えているうちに町の広場についていたので、隅で準備を始める。


 この広場は町の催し物が無いときは、ちゃんと後片付けをするなら何に使ってもいいことになっている。


 今もかかし相手に剣技の練習に勤しむ冒険者見習いだろう少年や、錬金術使いなのか回復薬(ポーション)を作ろうとしてるらしいとんがり帽子の少女の黄緑色の煙を吐く鍋が、成功の緑の煙ではなく薬草を入れた途端に毒々しい紫色の煙を上げだして慌てていた。


 露天商や青空市場の開催されていることもあるが、少年の木刀があらぬ方向へ飛び、紫色の異臭のする煙が渦巻く本日はやらないらしい。

 

 否、やらないから少年たちがいるのか、少年たちがいるから逃げたのかは定かではないが。


 メリッサも仕上げ作業は臭いが出るので都合がよかった。


 壺を地面に下ろして中にある薬草などを包んだ風呂敷のうちのいくつか取り除き、魔法で壺の中を満たしてから魔法の火で煮込み出す。


 ちなみにメリッサは火と水の魔法のみが使えるが、威力は最弱の魔物(スライム)すら倒せない程度の一般人(アナログ)であり、魔法のみで魔物を傷つけ倒せる者や仕事を成り立たせられるものが魔法使い(ウィザード)を名乗る事が出来る。


「良い香り」


 温度が上がるごとに植物の香りが周囲に立ちこめていく。

 

 木の皮や乾燥した蕾など、固い素材の入った風呂敷入りの水が沸騰してから蓋をすること五分。


 火を止めて今度は取り出していた草本類の詰まった風呂敷を追加し、蓋をすること三分。


 蕾や木の皮などのかたいものは五分以上、草花など柔らかいものは三分蒸らし、長くても十分以上はやらないという、ハーブティーと同じ要領で煮だした液体が出来た。


 風呂敷を取り出して吸い込んだ浸剤を搾り出し、そこに蜂の巣とにシアの木実油(バター)を加え、溶けのこらないように再加熱。


 材料が混ざりきったところでブレンドした植物蒸留油(エッセンシャルオイル)を加えてクリーム状になるまで冷ましながら混ぜれば完成だ。


「作り方が思いっきり大きなハンドクリームなのよね…」


 保湿効果抜群の人間に使える材料ではあるが、精製してない蜂の巣を投入してるので魔除け効果はあっても、使う気は虫が入ってそうでなんとなく失せる。と言うか混ぜてるときに少し死骸が見えて萎えた。


 蜂の巣を多く加えるほど固めの軟膏になるが、今回は刷毛などで外壁に塗布して使う予定なので、木実油(バター)まで配合してゆるめにしてある。


 夕方に一塗りすれば、その面は明け方まで大抵の魔物は近寄らない塗布剤の完成だ。


「何か良い匂いがするんですけどそれはなんですか?」


 先ほど紫色の煙に翻弄されていたとんがり帽子の少女がメリッサに声をかけてきた。


「魔物の忌避剤…魔物が嫌がる匂いの練り香水みたいなものね。建物用だけど。」


「おうちの香水!おしゃれですね!お姉さんは香水屋さんですか?」


 きらきらと瞳を輝かせて居る少女に、メリッサは飴でもあげたい衝動にかられた。しかし生憎とそんな手持ちはない。


「ふふ、違うけど香水も取り扱ってるわね。 町外れに住む非魔法(アナログ)の植物使いなの。」


 生活魔導具代(こうねつひ)が浮く程度の魔法しか使えない魔法力に少し自嘲気味になってしまい、メリッサ作った笑顔の眉根は下がっていたが、少女は非魔法(いっぱんじん)なのを馬鹿にすることなく元気に口を開いてくれた。


「私はね、魔法使い(ウィザード)の薬屋見習いなの!」



「じゃあ、錬金術師の卵ちゃんかしら?」


 魔法薬を作る者なら基本的には錬金術師だ。


 植物使いも今日メリッサが忌避剤を作っているように植物の効能と組み合わせから薬を作る事もあるが、植物以外も知識を伸ばした錬金術師ほど安定して安価には作れない。


 ゲテモノを使わず常識的に口に入れられるもののみで作り、効き目も優しい植物師の薬の方が好きだという人も居るが少数派だろう。


 錬金術師は植物のみや金属のみなどに縛られない為、専門分野に関わる事は幅広く扱うが、専門分野外は全く役にたたないので他職の上位互換かといわれるとそうでもなかったりする。


「うん!そうだよ!お薬特化なの!」


 小さいのに錬金術師志望とは感心した。


 魔法は世界の理を理解して組み替える魔方陣(プログラム)を用いて望みの現象を起こす魔術系、世界の理を理解しなくても契約による補助や自力のみで望みの現象を引き起こす超能力系に別れ、一般的に魔法使い(ウィザード)と言えば後者だ。前者は勉強した分だけ誇りをもち、殆ど錬金術師か魔術師を名乗る。


 魔方陣はだれでも起動に必要な魔力を注げば魔法が使えるとともに、書くのも覚えるのも作るのも勉強がものすごく面倒なので作品に魔方陣を刻む必要のある錬金術師くらいしか覚えないからである。


 メリッサは面倒な勉強したとしてそもそも魔法使い(ウィザード)を名乗れる威力の魔法の発動に至る魔力もないし、生活に必要な(発動できる)レベルのものはもう魔法具(きせいひん)もあるので覚えようとも思わない。


 つまり魔術師ではなく魔法使いを名乗った少女は、何らかの強い魔法の才能に恵まれているのに、ものすごく勉強していく道を選んでいる。


「錬金術師って魔法だけで製品作って保存の為の魔方陣刻む物かと思ってたわ」


 魔法は魔力があればそれを引きは換えに何もないところからここにないものでも作り出せるので、簡単な回復薬なら魔法使い(ウィザード)を名乗れるレベルの人なら材料を必要としない。


「魔力だけで自ら薬まで作れちゃう人も居るけど、燃費が悪いから非魔法(アナログ)作業した方が効率よくたくさん作れるんだよ。冒険者なら大量生産あまりしなくて良いけど私は薬屋さんしたいからたくさん作る練習するんだー」


 無から有を産み出すには相応に疲れる。まあ、実際は魔力が無くなってるのだから当然だ。ある意味献血した分物を産み出してるのに近い。


 非魔法(いっぱんじん)になんでもできると誤解されがちだが、魔法使い(ウィザード)だって魔力量もスライムを全力で一匹怪我させる程度からドラゴンを余裕で手懐ける者も居るし触媒(ざいりょう)を必要とするのは結局の所当然である。


「なるほど…ちなみに、最期に入れた植物はなに?」


 非魔法(アナログ)の薬草分野に通ずるなら、植物使い(せんもんか)のメリッサも力になれるかもしれない。


 「指燃草(さしもぐさ)だよ」


 そう言って差し出されたのは指燃草さしもぐさ特有の香りも毛もない別の植物だった。


「これは…アコニツムね?」


「え?ちがうの?」


「うん、良く似た毒草ね…」


 ちなみに誤食すると下手したら死ねるレベルだ。


「ひゃっ!?」


 毒草ときいて少女は草を取り落とした。


「自分で採取したの?」


「う、うん…」


指燃草さしもぐさは群生して生えるのと、毛が生えてて、葉の裏が白くて、良い匂いがするから…困ったら匂いを嗅いでみると良いわよ。似てる毒草は良くあるけど匂いは違うから。」 


「解った!おねーちゃんありがとう!」


「どういたしまして」


 話してる間にほどよく忌避剤も冷め切った。


 壺一杯の忌避剤はなかなかの重さなので後で森近隣の人には取りに来て貰うことにする。家で作らなかったのも重さ故だ。


 壺に蓋をして、油性インクで蓋に『魔物除け剤 byメリー』と記入した。


「じゃあ、頑張ってね」


「おねーちゃんこれおいてくの?」


「重くて運べないから依頼人に取りに来て貰おうと思って」


「そっか!じゃあ手伝ってあげる!」


「え?」


 笑顔で少女が壺に触れれば、壺は跡形もなく消えてしまった。


「ーー空間魔法!? 初めて見た!!」


「えへへー、すごいでしょ!入れた物は別々に封印されるから破棄に困った失敗作は薬草採取の時魔物にぶっかけるまで隠し放題なんだ!」


「そうなんだ…」


 先ほどの劇薬もその内被害に遭う魔物がいると思うと少し可哀想なきもするし、森が環境汚染されないよう祈るしかない。


「どこに行くの?」


「えっと、食材屋さん…タイムズマートまで」


「解った!」


「ありがとうね」


「えへへー、有益情報のお礼だからお互い様!」


 すっかり軽くなった籠を背負うと、メリッサは少女を連れて食材屋へと向かった。

非魔法

魔力量がひくいので仕事は現実世界のようなやり方しかできない技術者


魔術師

魔力量がたりていて理解力があればなれるけど勉強が難しくかんじて大体の人はなろうと思わない

魔力を電力にして、魔法陣を回路やプログラムにして機械を作動させたり奇跡を起こす人。

科学者、手品師、プログラマーに近い。

魔法陣で魔法を再現するタイプが魔術師、魔法具などものづくりするものは錬金術師を名乗る


超能力者はチート

魔術師が火をつけたい場合は周囲のチリをまさつして静電気を起こし、周囲のチリに着火させ、周りの酸素をこのくらい引き寄せて、このくらいの火をつける!とか考えてプログラムして発動させるのに対し

超能力者はこんな火をつけたいと妄想して魔力をその辺りにまき散らすと魔力が燃えました!ぐらいのことしてる。

大体想像力が物を言う。


使える魔法の多い超能力者タイプは才能がないから小難しい事考えて魔法陣がかけないと何も出来ない魔術師を馬鹿にするし(勉強が苦手故に尊敬する人も居る)

魔術師は勉強しない超能力者タイプを馬鹿にするといったぐあいに喧嘩に発展することもある。

非魔法も同じように馬鹿にされがち(努力と技術を認める魔法使いもいる)

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