表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

食材屋タイムズマート

 草原の丘を降りて水仙や菜の花の咲き乱れる小川の小さな石橋を渡り、草本専門のメリッサにはどれが何か見分けのつかない薔薇と椿、梅や桜に桃といった花を咲かせた木々を侍らす小川付の屋敷跡地(はいおく)がある森を抜け、漸くついたヴェファーナの町の商店はちょうどシャッターを開けているところだった。


「おはようございます。まだ早かったかしら?」


 森を背後にした食材屋の店主に声をかけると、彼は作業を中断して人好きのする笑顔でこちらを向いてくれた。


「ああ、メリー。いや、今日は皆開けるのが遅れてね。今日は何が入り用かな?」


 気さくな店主がシャッターの開けきらない店内へ先に通してくれる。 


 品物を見ているうちに残りのシャッターを開けるのだろぇと思っていたが、もう一つのシャッターをガタガタと鳴らすだけ鳴らして店主も中へと入ってきた。


「すまん、今日はあれ以上開かないみたいだ。後でジョーンズに修理を頼まないとなぁ…薄暗くて悪いねメリー。今照明をつけるから」


 森の屋敷から管理人が居なくなって年月がたち、森に魔物が出るようになって以降、町は森に面した辺りは当然防御には気を使っている。


「あら?このお店、この前リニューアルオープンの為のリフォームしたばかりではなかったかしら?」


 元々奥さんの雑貨屋だった店舗を、奥さんの引退を期に食材屋一本に改装したばかりの筈だ。


 このあたりでは一番強固な筈の店の主は肩を落として話し出した。


「それが朝助けた冒険者に聞いた話なんだが、最近いつもこの辺に出ないような奴が出るようになったんだとか。どうにもそいつが凶暴らしくてな…。」


 メリッサはそう言えばこの店主(オレゴンさん)、早朝から王草をもらいに来ていたなと思い出す。


 冒険者はよく落ちてるものだし、元気に店を開けてるくらいなのでまぁ助かったんだろうな程度に思っていると、店主は何かひらめいた様子で話しかけてくる。


「そうだ! メリー、魔物除け(ポマンダー)はまだあるかい? あるなら今度売って欲しい!」


「あるにはあるけれど…私のは濡れたら効力を無くすし、匂いで魔物を寄せ付けなくするものだから屋外の魔物除けには向かないわ。晴れの日は良いけど、雨の日には壊れて効力も無くすもの。」


 メリッサの魔物除け(ポマンダー)は乾燥期に魔除けの木の花の蕾を乾燥させたをものを柑橘の実にびっしりと刺して、魔物の嫌う王草をはじめとした様々な薬草の乾燥粉(パウダー)をまぶしながら数ヶ月乾燥させたものだ。


 作れる期間と場所、それに個数も限られている。


 それに乾燥物なので水に弱く、雨で匂いや魔除けの粉も落ちてしまうし、最悪丸ごとカビたり腐ってしまって使い物にならない。


「ええ!? あれはいつも数年保つだろう?」


 魔物除け(ポマンダー)は町の人は誰もが買ったことがあり、匂いのする間数年は守ってくれるので、町を出るときのお守りや屋内侵入してくる小物対策に皆重宝していた。


 しかし、雨の日は泥濘(ぬかるみ)の酷い土地柄、魔物に襲われると逃げづらい為、町を出るのは自殺行為として外に出るものが居ないと言う特性で、渡すときに説明した注意事項を忘れている人が大半である。


「屋内への小物の侵入防止や晴れの日に持ち歩く分には数年保つけれど…屋外に取り付けないと家の外の魔物には効かないの。それに、生産時期も終えてるのよね…。」


 この時期の気候は瑞々しい果物の乾燥物にあまり向かない。


 作っても腐ってしまって害虫や黴毒(びょうき)を呼びそうだ。


「吊してから次の雨までの効力でいいならば、売れる在庫は三回分ってところね。春は雨も多いからおすすめしないけれど」


「そっか…そうだよなぁ…」


 店主ががっくり肩を落とすも、メリッサが作れるのは他のものも匂いによる忌避剤なので、雨には弱い。


 魔物除け(ポマンダー)では店主の力になれそうになかった。


「ギルドに依頼を出して、冒険者さんにたのむしかなさそうね」


「来るまで店がもてばいいがな…」


 汽車で年に向かい依頼をだしてから、数多くの依頼の中から冒険者が受理し、準備をしてから討伐…となると時間がかかる。


 かといって流れの冒険者に頼むのは詐欺が多くてリスクが高い。と言うよりそういったトラブルを防ぐのがギルドの存在意義の一面だ。


「一応晴れの間だけでも守れるような忌避剤が他にあるから、夕方までにはもってくるわ。家から近いお店がなくなるのは私も嫌だもの。」


 この食材屋がなくなれば次の食材屋はかなり歩かねばならず、重い嗜好品(ミルク)を買う気にはとてもなれない。


 自宅までは徒歩しか移動手段がメリッサにはないので、心の死活問題だ。


「ああ、助かるよ…後は雨が来ないよう祈ってくれ」


「ええ。で、注文なんだけど…」


 世間話は終わりとばかりに食材を注文すれば、食材屋も油ではなく食材を売り始める。


 魔物の出現事態はさして珍しくなく、シャッターの歪みも遠目にはわからないすぐ直る程度だろう。


 いつもより少しだけ大きい猛獣が出てきた程度の、日常とさして変わらない日だと、町の誰もがそう思っていた。

オレゴン・グレープ

食材屋タイムズマート店主

奥さんの旧姓がタイムズ

元は奥さんのクリーピーさんが始めた

奥さんの作った小物を売る雑貨屋だった

老眼により物作りを断念した妻の店を

旦那がなんとか出来る仕事で残した結果今に至る

主に肉類か美味しい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ