わたくし、悪役令嬢なのですけれど!?
悪役令嬢もの(?)書きました! よろしくお願いします。
わたくしの名はエリザベス。
漆黒の髪は肩まで伸びていて、緩やかにウェーブがかかっており、ルビーの瞳を持っています。
顔立ちは自分で言うのもなんですが……美人な部類に入るでしょう。
可愛らしい、というよりは、綺麗という感じですわね。
……あら。勘違いしないでくださいませ。
わたくしは自分の容姿を褒め称えいるのではなくわかりやすく事実を述べているだけであって、ナルシストというものではありません。
それに、顔立ちが整っていないと絵面的に問題があるでしょう?
わたくしの役目のために、わたくしは美しくなければいけませんの。
……なぜならわたくしはゲームの住人。悪役令嬢ですから。
わたくしには生まれた時から役目がありました。
いつ、誰から言われたとかではなく、夢で見たのです。
そして……わたくしの役目は、悪役令嬢を演じることだと知ったのです。
何故かわからないけれど、すんなりと受け入れることが出来ましたわ。
これがわたくしの天命……もしくは運命のようなものなのでしょう。
ですから、何度もループする世界で、わたくしは王子……アレクシス様の婚約者として、ゲームをプレイされる方……つまりはヒロインさんですわね。
ヒロインさんの恋のために、悪役令嬢を演じていますの。
ほら、恋というものは障害があるほど燃え上がるというものでしょう?
わたくしはその障害……そう!壁!
壁なのです!
……いや、壁は嫌ですけれど。
ごほん、つまり何が言いたいかというと。
わたくしは何度も何度も悪役令嬢をしているうちに、悪役令嬢がすっかり片についたのです。
最初の頃はぎこちなかった所もありましたけれど、今は完璧と言えるでしょう。
ヒロインさんを虐めなければいけないのは、毎度気が引いてしまいますがね。
……そう。わたくしにもプライドがあるのですわ。悪役令嬢としての。
ですから、今の状況には戸惑いを感じますし、苛立ちが募るのです。
ちなみに今の状況というのは───。
「リジー! やっと見つけた……探したんだよ?」
その声を聞いて顔がひきつりそうになるのを堪えながら……わたくしはその方に笑顔を向けました。
「アレクシス様……わたくしに何か?」
……そう、アレクシス様に。
「昼食を共にしたいと思ってね。
嫌……かい?」
子犬のような顔でそんなことを言うアレクシス様。
いつもは凛々しいのですが、最近はこのようにわたしくに甘えてくれるのです。
微笑ましい限りですわ。
……いえ、おかしいでしょう!!!???
微笑ましくなんてありませんわよ!!!
何を考えていらっしゃるのこの方は!??
……そう。今の状況というのは、明らかにアレクシス様がわたくしに好意を持って接しておられるという状況のことです。
何故?
理由なんてわたくしが聞きたいですわよっ!!
……はあ。ため息がでそう。心の中でつくことくらいは許してくださいな……。
だって、おかしいでしょう?
そもそも、わたくしは何十回もループをしておりますし、そのたびに状況は変わりましたが……このようなことはありませんでした。
だって、悪役令嬢に惚れる王子って変ですよ。
悪役令嬢は悪役令嬢なのですもの。
今回だっていつも通りベタベタしたりヒロインを陰で虐めたりするうざくて陰険で悪質な令嬢を演じきるつもりでしたのに……っ!!
あ、わたくし決してやりたくてやっているわけではありませんからね?
……そう。
わたくしの悪役令嬢のプライドが、この状況を許せないだけなのです。
……ちょっとそこ。悪役令嬢のプライドって何だよとかは言わないでください。うるさい。
あっ……ごほん。
つ、つまりですね?
今の状況では、悪役令嬢らしくベタベタしたりとかくっついたりとか出来ないでしょう。
今わたくしがそれをすればこの王子喜びそうですもの。
くっ……悪役令嬢らしいことが出来ないのが歯がゆいっ!!
あ、わたくし決してやりたくて以下略。
「あ、あの……アレクシス様。
その……セシリアさんはどうされたのですか?」
セシリアとは、ヒロインさんのお名前です。
そうですよ~。あなたが好きになるべきなのもあなたが側にいるべきなのもセシリアさんなのですよ~。ヒロインさんなのですよ~。
という念を込めてそう尋ねました。
「……? えっと、何故そこで彼女の名前が出てくるんだい?」
あなたがっ!! ヒロインと結ばれるべき王子様でっ!!! ヒロインといるべきだからに決まっているでしょうがぁぁぁああ!!??
叫びたい衝動を必死におさえます。
……お、落ち着きますのよわたくし。
この程度のことで動揺しては悪役令嬢の名が廃りますわ。
「……よくわからないけれど、セシリアさんは食堂に向かって行ったよ。
君は……その。
僕と二人きりでは嫌かな……?」
少し照れた様子で言うアレクシス様につられて、わたくしの顔も赤くなってしまいました。
な、な、な、な、なんでこの人は躊躇いも無くそのようなことを言えますのっ!???
「い、嫌では……ありません、わ」
たどたどしくそう言うと、アレクシス様はパア……と効果音が入るくらいの笑顔を浮かべました。
「そっか! すっごい嬉しいよ!!」
「っ……」
……この人は、本当どうしちゃったんですの……?
アレクシス様が座られたベンチの横に座ると、ふと声をかけられました。
「あの、エリザベス様。
私もご一緒して宜しいですか……?」
小鳥のように可愛らしい声に。
……この声は……!!
「セシリア様……」
セシリア様。ヒロインの登場です。
ですが……この場合はどう答えるのが適切かしら?
悪役令嬢としては、断って一人でヒロインさんが食事されているところを見て嘲笑うか同情に見せかけた嫌みを言うのが定番ですが……。
……なんというかこの二人、全然恋仲にならないのですよね。
今まででは何もしなくても勝手に進んでいられたのですけれど、今回に限っては全くと言っていいほど交流がありません。
わたくしに二人が話しかけている時に鉢合わせして二人が挨拶を交わす程度ですわね。
……ここは、二人の仲を進展させることを最優先にすべきですわ。
そう考えたわたくしは、笑顔で返事をしました。
「もちろんですわ」
「……!! ありがとうございます!!」
さあさあ。
アレクシス様の隣に座りますの?
それとも、アレクシス様とわたくしの間に座るのでしょうか!?
期待を向けた目で見ると、セシリアさんはベンチに座りました。
……わたくしの横に。
………………。
何故?
「あ、あのセシリアさん……そこ、座りにくくありませんの?」
「いえ別に……も、もしかして、私が横に座るなんておこがましいことしては駄目でしたかね……?
そうですよね。気づきませんでした……私の落ち度です。
エリザベス様はとても素敵な方で不器用でも優しい方で……」
え、あの、わたくしはただアレクシス様の隣に座ってほしかっただけなのですけど……。
セシリアさんはぶつぶつと何かを唱えています。
すると、パッと顔を上げ、わたくしに笑顔を向けます。
……??
「わかりました! 私、エリザベス様の椅子になりますっ!!」
「何をおっしゃっていますの!?」
ひきました。
普通にひきました。ヤバイ奴じゃないですか!!
アレクシス様もそうなのでしょう。
冷たい笑顔でセシリアさんを見ていました。
……ですがアレクシス様。将来の妻となる方にその顔を向けるのは如何なものかと……。
「セシリアさん。僕の婚約者を困らせるのはやめてくれないかい?
驚いているだろう」
「……ああ、アレクシス様。居たのですね。
私は私の愛をエリザベス様に注いでいるだけですので、ご心配無く」
悲報です。ヒロインも変になりました。
というか、椅子になるのが愛ってあなたは変態ですの?
「その必要は無いよ。
リジーは僕が誰よりも何よりも愛して、幸せにするから」
あなたも何さらっとおっしゃっているのですか?
ヒロインさんの前ですよ??
「ですが、エリザベス様はアレクシス様を受け入れていませんよねぇ。
だからエリザベス様はお逃げになられるのでしょう?」
わたくしが受け入れていない人にあなたも入っているのですけれど。
「っ……だが、僕とリジーは婚約者だ。
婚約者との二人の時間なのだから、部外者にはお引き取り願おうか?」
「ご冗談を。
エリザベス様は私の名前を呼んでくださったのですよ?
二人きりの時間を望まれていないではありませんか」
ところで、さっきから何故この二人は笑顔で言いあいをしているのでしょうか?
「盗み聞きとは、どうかと思うよ。
君の性格が伺えるね」
「あら、アレクシス様の方こそ、どういうつもりなのですか?
私、食堂ではなく購買に向かっていたはずですけれど」
「……ああ、そうなんだ? 見間違えたのかもね」
「っ……この腹黒王子が」
「聞こえてるんだよお邪魔虫が」
お二人の言い合いの内容は不可解なものばかりでした。
ですが、険悪な雰囲気ということはわかります。
悪役令嬢としての役目を果たさないといけませんのに、これでは上手くいかなさそうではないですか!
……ああ。どうして、このようなことに……。
▼
あのお邪魔虫が……いつも僕とリジーの邪魔しやがって。
昼食のことを思い出してイライラしながら、階段を上がって行く。
……けど、ゲームの内容とは違うよな? これ。
まぁ、俺のせいでもあるんだろうけど。
……そう。俺は転生者である。
転生前。俺は姉から飽きたからやると言って貰った乙女ゲーというものを暇潰しにやっていた。
その中で、悪役令嬢のエリザベスというキャラクターを好きになったのだ。
きっかけは、ゲームの裏話という小冊子を読んだこと。
何でも初回限定版だったらしい。
その内容はこうだった。
いつも強気だったエリザベスが本当は好きな人を目にして冷静を保てなくなっていたとか、攻めるくせに攻められると照れて狼狽えるとか、結局はエリザベスも可愛らしい女の子だった、というもの。
いわばギャップ萌え。
ということで、一瞬にして俺の推しになったのだ。
あと黒髪ロングは強い。
だから、アレクシスに転生した時はものすごい喜んだ。
飛び上がった。
これで……エリザベスを幸せに出来るのだ。
そして、エリザベスはゲーム……いや、ゲーム以上に可愛らしい女の子だった。
落ち着いているのに、俺が愛情表現をすると照れて真っ赤になるところが本当に可愛い。
これからも、エリザベスと一緒にいたい。
誰よりも近くにいたい。
なのに……なのに!
「あのお邪魔虫……」
忌々しいお邪魔虫……セシリアのことを思い出す。
あの女、ことあるごとにリジーにまとわりつきやがって。
……けど、ゲームのヒロインでは無いのだろうと薄々感づいてはいる。
だって、明らかにエリザベス狙いだし。
あげないけど。
……とりあえず、今度こそは二人きりで昼食を食べよう。
あの女をどう足止めするか考えないとな。
そう決意して、俺はまた一歩階段を登っていった。
▷
「あっっの腹黒王子……いつも私の邪魔をしてっ」
あの王子……エリザベスたんの前では子犬のように無害な感じを出してるけど、実際は腹黒だ。
今日だって、私が会話を聞いていなかったら二人きりにさせるところだった。
危ない危ない……。
「でも、何か変なんだよね……」
そう呟きながら、廊下を歩く。
キャラ設定が、どこか変だ。
私がヒロインの行動をしてないからだと思っていた時期もあったけど、きっとそれだけじゃない。
あの王子も転生者だろうし……。
も、ということはどういうことか。
そう! 私も転生者なのだ!
あの王子もだろうけど、エリザベスたん推しである。
だって切ないし、可愛いし、支えて上げたくなるっていうか……やっぱり椅子になりたいっ!
……だから私は、ヒロインに転生した時絶望したけど、よくよく考えるとエリザベスたんを救えるかもしれないと思い、そのために行動している。
けどなあ……あの王子だけは駄目だよエリザベスたん。
だって絶対同担拒否勢だし、束縛強そうだし、腹黒だし。
私の方が絶対エリザベスたんのこと幸せに出来るのに……!!
ああ……どうして男の人に生まれなかったんだろう……。
けれど、そんな叶わない願いを抱くよりも、私はしなければいけないことがあるのだ。
「とりあえずは、王子とエリザベスたんの婚約破棄かな……ふふふふ」
そう決意して、私はまた一歩廊下を歩いていった。
△
「わたくし……これからどうすれば良いのかしら……」
そう言って溜め息をつく彼女にアドバイスするとするならば。
……君は、周りの心配よりも自分の心配をするべきである。
お読み頂きありがとうございました!
(*- -)(*_ _)ペコリ