第九話 食事、からの相談
「今日はまた一段と....エグい見た目の料理だな」
「ですよねぇ....」
「ははは、サナの料理はいつも予想の斜め上を行くなぁ」
カイルとフーゴは苦笑いをしながら、テーブルに並べられた海鮮丼に目をやる。
その様子を見て、マスターは顔を伏せて笑っている。
とても新鮮に見えるそれはサナからすれば宝石箱だが、彼らからすれば一体何に見えているのだろうか。
「い・い・か・ら!早く座って?ね?」
「「はい....」」
ぶつくさ言い放つ二人を黙らせ、全員がテーブルに座らせる。
まるで処刑台に立たされたような表情を浮かべるのは勘弁してほしい。
「それじゃあ」
「いただきます」
全員で合唱する。この世界でも変わらない命への感謝の食前の儀式。
懐かしの海鮮尽くしでテンションが爆上がりな彼女、ウニ、イクラ、マグロ、ホタテ、エビ...どんどん口に運んでいく。
「んー!美味しい!」
約束された美味に抗えず、思わず美味しいと声を漏らしてしまう。
口の中で旨味という旨味が溢れ、サナの顔が幸福感に満たされた。
彼女の様子をみて、他の3人も恐る恐る口に運ぶ。
........!!!!!!
直後、全員目が大きく開かれ、まさに雷に打たれたような表情をしていた。
「えっ....なんだこれは!うまい....」
「生の魚ってこんな美味いの....!?」
「流石だな....サナおかわりだ」
「マスターおかわり速くないですか!?」
全員が感嘆の声を漏らす。
悶絶するほどの美味さに誰もが抗えない。
「まだおかわりあるか?」
「うん、まだ沢山あるよ。」
「幸せだわ、もう死ねる」
「いや、大袈裟すぎだよ」
「サナ、おかわりだ」
「マスター、ブラックホールか何かですか?」
結局サナ以外4杯以上はおかわりしていた。恐るべき食欲である。(マスターに至っては7杯食べてたんじゃないかな)
日本では高級品でなかなか手が出せない海鮮も、この世界では安価で手に入る。おそらく需要がないせいか、比較的安価で買えることもあり、大食らいの多い赤風では、夜のメインメニューとして今後も作るのも悪くないと思えた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
「サナってさ、料亭開けるんじゃないのか」
「いっそのことギルド内で始めるとかいいんじゃないですか?」
「おっいいなーそれ」
「多分無理だよ。美味しい美味しくないの前に見た目がどうも受け付けないみたいだし。家でも刺身.....あぁ、あの生魚の切り身を出したんだけどさ、カイルとフーゴの反応と同じだったんだよね。味は好評だったけど」
「まぁ見た目はなぁ....確かに」
「サナってたまに珍妙な料理作るけど、全部美味いんだよな....どこでそんな調理法をマスターしたんだよ」
「秘密ー」
「秘密かよ....」
カイルに問い詰められるが、彼女は笑顔ではぐらかす。
少し不服そうではあるが、納得してくれた様子だ。
彼女は内心ホッと胸を撫で下ろした。
........これは異世界の料理で、私は異世界人です、なんて言えるわけがない。
知られたら最後、モルモットにされるか、精神病人扱いされるか、はたまた一生監禁されたりするのかもしれない。他にも想像はできるがどれも地獄だ。
「ジンとイリアのやつ、居なくて残念だったな」
「居たらもっと賑やかな食卓になってましたよね」
ギルドメンバーは私含め全員で6人だ。
現在ジンとイリアは南端の大草原の先にあるワルツ公国へ出向いている。
詳しくは内容を聞いていないが、ワルツ公国でも有名なギルド【五月雨】の援護要請が来たとか。
ジンもイリアもギルド界隈では有名人で、時折他ギルドへ手伝いに行くことがあるようで、赤風メンバーではあるが、今回みたいに居なくなることも珍しいことではない。
「帰ってきたらその時はもう一度作るよ」
「よっしゃ!!--その時の反応が楽しみだな!!」
「先輩達ってあまり慌てたりしないから、反応がすごい楽しみだね」
「....ふふ、確かに」
不敵な笑みを浮かべるカイルとフーゴ、それに対し苦笑するサナ(けれども実際はちょっと楽しみだったり)、マスターもほどほどにしとけと言いながらどこか楽しそうである。
二人が帰ってきたときの楽しみが増えた。
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食事の片付けがひと段落し、各々が部屋に戻るタイミングで、静かに目を少し地に落としつつ、サナはマスターへ静かに声をかける
「マスター。この後お時間いただけないでしょうか」
「ん?どうしたんだ?」
「少し....お伝えしたいことがあって」
彼女の不安な表情を感じとり、ローゼンも声のトーンを落としつつ、安心させる声で答えた。
「....あぁ、構わないぞ?応接室に行こうか」
「はい」
彼女を安心させるように、寄り添いながら応接室に向かった。
「確かにそいつはそう言ったんだな?」
サナは不審者の件をマスターへ報告した。聞くや否やマスターは私に再確認する。何かマスターに思いあたる節でもあったのだろうか。
「はい、」
少し下に目を落とし、何かを考えているローゼン。
間をおいてから、サナに優しい目を向けて言葉を紡いだ
「情報ありがとう、サナ。知っているだろうが今ローズベルでは誘拐事件が度々起きている。もしかしたら黒幕の尻尾を掴めるかもしれない」
「だがな....」
と切り返した後はローゼンからの説教が待っていた。
裏路地付近に女一人で立ち寄ったこと、盗み聴き自体が倫理的に問題な事、危険な行為をしないと約束した事。
「サナは無防備が過ぎるんだ。いいか?仮に罠だったら----」
いつもより長めに感じる説教タイム、ごもっともなお叱りに、体を竦めて相槌を打つだけしかできなかった。
「という事だ。」
ひとしきり言い終えたローゼンは、ふぅっと息を漏らす。
「.....少しは反省したか?」
「はい....」
「ならば良し。」
目を細めて、彼女の頭を撫でる。
彼の事だ、本気で心配してくれていたのであろう。
「少し向かいたい場所ができた、カインも一緒に連れていくつもりだ。ギルドは明日から1週間休みにする。フーゴと一緒に留守番できるか?」
「....はい、大丈夫です。」
「良い子だ。」
再度頭を撫でられる。
完全に子供扱いされているような扱いに、サナも微妙な顔を示している。でも満更でもなさそうな表情を浮かべていた。