第七話 ギルド「赤風」
大聖堂での仕事以外に、もう一つ請け負っている仕事がある。
所属しているギルドのお手伝いをする....野球部でいえばマネージャーのような立場の仕事である。
まさに、今、私はスーパーでギルド全員の胃袋を満足させるべく、食材を調達している。
「今日は、おっ!海鮮コーナーが特化セールなのかー、よしっ買いだね!他には....」
配属されてから大体半年程度過ぎている、仕事も慣れてきて、料理の腕前も上達したし、家事は一通り卒なくこなせるようになった。
最近は料理のレパートリーが増えてきて、調理中の楽しさ、というものが理解できるようになってきていた。
今日は海鮮丼を振舞おうではないか!
いいね私、女子力上がってきてるよ!
一通り買い物を済ませて、スーパーを後にする。
スーパーからほど近い場所、2階建ての少し小さめの洋館の前に到着した。
黒曜石に似た材質で作られた看板には「ギルド 赤風」と刻まれている、サナの所属しているギルドだ。
少し嵩張った食材を抱えながら敷地へ立ち入る所で、後ろから声をかけられた。
「おいおい、大丈夫かよサナー、ほら、持つから全部貸しなよ」
振り向くとギルドのメンバーである、カイルが居た。
いつも周りに気を配れる好青年で、笑顔が素敵な人。
体は毎日鍛えてるのであろう、引き締まった無駄のない体系をしている。
腕を組みながら、ニコニコと無邪気な様相のまま、私に手を差し伸べてくれた。
「おっカイルありがとー!じゃあお願いしようかな....今日も依頼来てないんだ。」
「ああ、まったく平和なもんだぜ!こうも仕事がないと、いい加減体が訛ってくるっての」
「あはは、元気だね!平和って良いことじゃない......」
平和の単語をトリガーに今日の出来事を思い出す
少し不安な表情をしてしまったかもしれない
「そうだけどよー......ん?」
溜息を漏らすカイルに対し、苦笑しながら諭すサナ。
平和なのは良いことっていうのは本音ではある。
けど、それだと成り立たない仕事もあるというのはわかっている。
ギルドも、全部とまではいかないが、魔物討伐や用心棒、防衛戦線の協力等、戦闘全般の仕事が結構な割合に含まれている。収入という意味では今は厳しい状況なのは間違いない。
「お前、今日何かあったか?」
「顔に出ちゃってた?」
「声色、あとは顔だな」
「さすがカイルだね。ちょっとね....今は言わないでおくよ。後でマスターに報告するつもりだから」
「ああ、なるほど。」
苦笑する私に対し、少し心躍っているように見えるカイル。私が聞いたあの言葉....
もしかしたら重要な事件と結びついている可能性がある。
私の言葉から察したのか、そこまで深入りはしてこなかった。
カイルと談笑しながら、館内へ向かっていく。
先ほどまでの荷物がない分、楽になった足取りでギルド赤風の本拠地、洋館前に着く。扉を開けた先、館内入口近くに設けられた憩いスペースに、ギルドマスターのローゼンさんが待機していた。
マスターも私に気づきこちらへ目を運ぶ、眼が合ったタイミングで軽く会釈をして、挨拶をした。
「ローゼンさん、お疲れ様です。今から食事、準備しますね」
「ああ、宜しく頼むよサナ。」
威風堂々な外見とは裏腹に、人に優しく、周りに気を遣ってくれる第二のお父さん的な人。
かなりの実力者で、巷ではローゼンさんの剣撃で海が真っ二つに割れたとか、天候を操った所を目撃した人がいるとか、根も葉もない噂が飛び交っている....噂だよね?本当だったら人間やめていると思う。
「それと、今日も演奏お疲れ様。心に響く良い音だった。」
「ふふ、ありがとうございます。今日はここ数週間の中でも一番調子が良かったですからね。この子の機嫌が良かったのかも。」
そう言いながらフルートを取り出す。
あくまで厨二病ではない、ということだけ伝えておく。
楽器を見せながら「こいつは俺の相棒だ」とか言っちゃうタイプの厨二タイプは私もNGである。
実際に楽器にコンディション、つまり調子があり、調整を怠ると音色が変わってしまうので、毎度気を遣っているのだ。
そんな私を見るや、ローゼンさんは苦笑しながら私の頭を撫でてくる。
「....全く、お前というやつは」
撫でてくれる手も、顔も、声も優しい。
でも、なんか呆れられてる感じがすごい。
.....私、何か変な事言ったかな?
「まあ、いいさ。今日の料理、楽しみにしてるぞ。」
「あ...はい!任せてください!」
マスターと話し終え、軽快な足取りで調理場へ向かった。