第四話 からかい上手の神父様
観客に手を振り、私は大聖堂に戻った。
聖堂内は人は少しだけ減ったであろうか、先ほどより少し空間が広く感じる。
神父様は偶像に祈りを捧げていた。
神職が祈祷している最中に話しかけるわけにはいかない。
先に楽器の片づけを済ませようと別室へ向かった。
使用したフルートを軽く掃除し、ケースへ戻す。
適度に掃除しないと唾が溜まったりして衛生面でも良くない為、結構気を配っている。
好きなものだからか、面倒だとは思わない。
しかも自作した楽器とあらば愛着は沸くというものである。
片付けが終わり、再度神父の元へ向かう。
どうやらお祈りが終わっているようである、神父もこちらへ気づき少し微笑む。
今なら話しかけても大丈夫であろうことを確認して、邪魔にならないように、会釈をしながら話しかける。
「神父様、お仕事終わりました。」
「はい、聴こえておりましたよ。....本日も実に美しい音色でした。アイリア様もお喜びになられています。」
「お褒め預かり光栄の極みです。ふふっ、なんちゃって。」
スカートを両手で持ち、足を交差させ、少し屈む。貴族のご令嬢がするような立ち振る舞いを真似してみせた。
「また貴方という人は....似合わない真似はおよしなさい。馬鹿丸出しですよ。」
「なっ....!」
予想以上の辛辣な返しに、絶句した。恐らく私の今の顔は鳩が豆鉄砲を食らったような感じになっているであろう。
口をパクパクさせてはいるが、言葉が出てこない。
こっこのっ悪魔神官!等と心の中で叫ぶ。
「ふふっ、なんてね。...つい、からかってみたくなりました。可愛かったのでね。」
「あーもういいです!仕事終わったので帰りますよ。神父様の意地悪!いつか倍で返してやるんだから!」
「では、楽しみに待っておりましょうかね。」
これが、大人の余裕というやつであろうか。神父は結構実年齢より若く見え、顔も美形である。まさに非の打ちどころがないという言葉がしっくりくる。
まだ20歳に満たない女の子(本当は35歳だけども)が果たして一矢報いる日がくるのであろうか。
ふうっ、一旦心を落ち着かせてから彼女は神父に帰宅する事を伝える。
「では、失礼いたしますね。また明日参ります。」
「はい、お疲れ様です。これからギルドへ向かうのですよね?道中気を付けて。アイリア様のご加護があらんことを」
「.....ありがとうございます。」
挨拶を終え、彼女はアイリア大聖堂を後にした。