第二話 アイリア大聖堂
市場で買った果物を片手に、彼女は目的地である大聖堂へと向かっていく。
大聖堂まではそこまで近くというわけではないが、通りかかるロケーションは美しく、
何度通っても見惚れてしまう。まるで文化遺産のようである、彼女はこの情景が大好きであった。
しかし、いつもと違う違和感。悪意のようなものであろうか、
ひそひそと誰かが何かを呟いているのを聞き取る。
「.....はい.....できました」
裏路地に続く場所。見落としやすい場所に身を潜めて誰かと会話しているようである。
怪しく思った彼女は、身を潜めて聞き耳を立てる。
「..........いえ、そのようなことは」
....
「見せしめにしました」
!?
「はい........バレてはいません.........分かりました、ではこれで」
サナは咄嗟にその場を離れた。恐らく気づかれてはいないようではあったが、
先ほどの聞いた話し声が頭から離れない。断片的に聞いた言葉だけでも想像ができる。
元々、平和の象徴といえる国であったはずだが、最近は黒い噂が絶えない。
「この件は、ローゼンさんへ報告しよう」
ローゼンはギルド【赤風】のギルドマスターである。
人格者でこういった治安保持問題では彼に頼るのが一番といえる人物である。
実はサナも戦いはしないが赤風のギルドメンバーである為、報告といった意味でも伝える義務がある。
「一旦、忘れよう。今は大聖堂に向かうんだ。」
そう気持ちを切り替えて再び目的地であるアイリア大聖堂に歩を進める。
道中にあるアーチが美しい大橋を渡りきり、目的地へ到着した。
巨大なステンドグラスが大聖堂の奥に広がる湖面の光を集め、聖堂内部を優しく光で包み込む。それはまるで神様が私たち人々を暖かい包容で迎え入れてくれているように。
「相変わらず...綺麗だな....」
この光景を見ると何故か泣いてしまいそうになる。
なぜ?と聞かれると答えられない....けど、人間は壮観な風景を見ると涙を流すことがある...らしいから、それと同じ類のものではないだろうか。
大聖堂の奥に鎮座する、聖書台に神父様がいた。
今は特に忙しそうでもなさそうだ。
「神父様、おはようございます。仕事に参りました。」
「おお、サナか。待っていたよ、ん...まだ時間はあるね、ゆっくり準備しているといいよ。」
「はい、ありがとうございます。...それと、いつもの果物です。ルーツさん今日は奮発してくれたんですよ」
「はっはっはっ、彼は君に対してデレデレだね。いつもありがとう、子供たちも喜ぶよ。」
「デレデレっていう言い方はやめてください!多く貰えたのは大聖堂の孤児を思ってですからね?」
「そういうことにしておこう」
「むー!」
サナはアイリア大聖堂内の神父と談笑する。
アイリア大聖堂には身寄りのない子供を匿う施設がある。
建物こそ立派だが、金銭目的の施設では無い為、収入が少ない。
食べ物などは参拝者やサナなどの善意ある民から頂いている状態である。
それでも苦悩の表情をみせないどころか、笑顔を崩さないで迷える子羊を導いているこの人が、アイリア大聖堂の管理者で良かったと思える。
....時折からかってくるのをやめてくれればだけど。