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第69話

「――じゃあ結構な人が挑戦してるんですね」

「そうだなぁ……。俺がここに来てからだけでも十組くらいは挑戦してるぞ」

「なら我々も急がないといけませんね」


 宿を決め、さて腹ごしらえだ、と凜々花とベイタが向かったのはやはり冒険者ギルド。

 ボスティオでダイガント達が食事と情報を求めて冒険者ギルドを選んだように、二人もまた食事と情報を求めてこの場所に来ていた。


 冒険者相手であれば酒の一杯でも奢れば大抵のことは教えてくれる。

 これが、情報都市ストローファとの違いである。


 尤も、情報に対して金銭等の対価を要求されるストローファが特別なのであって、殊冒険者同士に限っては頻繁に情報のやり取りがされている。

 冒険者の求める情報には命に関わる物も多いので、自分が教えて、また、自分が教えられる。そういう持ちつ持たれつの関係が自然とできあがっているのだ。


 今回、私達が話しかけた冒険者はダンジョンに興味は無いようなので、ペラペラと色々な情報を教えてくれた。


「お二人さんはダンジョン巡りがメインなのか?」

「そうですね。ダンジョンに潜るための資金稼ぎに冒険者をやっている、そんな感じでしょうか」

「なら言うまでも無いと思うが気をつけろよ。これまで何人も挑戦している話は聞くが、踏破したって話はまったく聞かないからな」


 曰く、中には二桁を超える人数で挑んだパーティもあるらしい。そのパーティもダンジョンに潜って以降、音沙汰は無し。

 まだ探索を続けているのか、それとも全滅しているのか。

 探索が続いているのだとすればそれだけ厄介なダンジョンの証明であり、全滅していたとしたらそれだけ危険なダンジョンの証明である。


 ここまで来ておいてやる気が削がれるような情報に、思わずため息も吐いてしまう。


 ダンジョンと聞いて最初に思い浮かべるのがホウシァ・ネネの所にあったダンジョンだが、道中、魔物が一体も出て来なかったあのダンジョンは異例中の異例らしい。

 今回潜るダンジョンが私の初ダンジョンと言えなくもない。どうせならもう少し簡単な場所から試したかったのが本心である。


「他にはなにか知ってる話、ありません?」

「あー……俺は興味無いからなぁ……」


 と、前置きしつつ、冒険者は内緒話をするように身を乗り出した。

 思わず私とベイタもテーブルの上に身を乗り出す。


「あそこな、お化けが出るって噂なんだ」

「お化け……ゴーストとかですか?」

「それはお化けじゃねえよ魔物だろ。お化けって言ったらコレだコレ」


 冒険者は顔の前に両手を下げる、いわゆる幽霊のポーズを取る。

 怪訝そうな表情を浮かべるベイタに対して冒険者は「噂だよ噂」と笑い飛ばしている。

 一方私はと言うと、お化けと魔物のゴーストはなにが違うのだろう、だとか、こっちの世界でもお化けのジェスチャーはアレなんだ、なんて関係の無いことを考えていた。


「ま、とにかくだ。潜るなら気をつけろって話だよ」

「情報、ありがとうございました」

「気にすんな。ダンジョンから戻って来たら話を聞かせてくれよ」


 なんのことは無い挨拶にも思えるが、私達が生還するのを祈っているようにも聞こえる。意図していたとすれば憎い心遣いだ。


 一先ず食事の終わった皿を片付けてもらって新しい飲み物を注文する。


「さて、今得られた情報を整理しましょう」


 まず聞いたのはダンジョンがある詳しい場所。

 これはストローファで得られた情報通り、タルーティア王国とダムニスモ連邦、二つの領土の中間辺り。どちらかと言えばダムニスモ連邦側にあるらしい。

 そこまでの道も多少は整備されていて、ダンジョン周辺は中立地帯としてどちらの国の軍隊も近付かないようにしているらしい。


「でも意外だよね。戦争中だしもっと制限とかあるのかと思ってた」


 船長達が一攫千金を夢見て潜るくらいなので、ダンジョンの奥まで行った時のリターンは大きいのだろう。道中も軍隊を使えばハイリスクとも思えない。

 例え危険度が高かったとしても相手国に攻略されることを考えると、自分達の物にしてしまいたいのが本心だと思っていたが、話を聞いた限りではどちらの国も不干渉を貫いているらしかった。


「中立地帯と言ってもそこに至るまでに軍の目は絶対にありますよ。まぁ、観光資源にでもしたいんじゃないでしょうか」

「ふむ。確かに、こんな国じゃあまり人が来るとも思えないしね」


 この台詞は声を落として言う。


 首都の中央に首が吊されているような国だ。同じ亜人排斥主義の人間やそういう趣味の者しか集まらないだろう。

 加えてこの国の亜人排斥主義も問題だ。これのお陰で観光に来る人間はヒト種に限定される。

 結果として、国内に入って来る人間が少なくなって経済も回り辛くなっているのがタルーティア王国の現状らしい。


 この問題はダムニスモ連邦でも同じらしく、ダンジョンをパンダにして人を集めようということだ。特に話し合いが持たれたわけでもなく、自然とそういう流れになった辺り、両国の限界が見て取れる。


「そういうことなら案外、楽に行けるかもしれないね。道すがらの魔物くらいならなんとかなるでしょ」

「ですね。少しは余裕を見てもいいでしょう」


 ダンジョンの内部については残念ながらあまり情報は得られなかった。

 低層階で戻った冒険者の話によればゴブリンやコボルトなんかの雑魚が多く、地下三階程度までは楽に行けるらしかった。

 そこから先はグリボアという巨大猪が闊歩していたり、トラップが配置されていたり危険も増すようだ。


 誰がダンジョンを作っているかわからないがずいぶんとゲームらしい。

 こういう話を聞いていると私は『ダンジョンは神様の悪戯説』を推したくなってくる。

 突如として現れたダンジョン。侵入者を阻むように配置された罠。しかしRPGのように段々と強くなる魔物。隠されているお宝。半分ほどはこういうゲームのようなわかりやすいダンジョンで、人為的な物を感じてしまう。

 ホウシァ・ネネのダンジョンがどれだけ異質だったのかは話を聞く度に思う。


 閑話休題。


 ダンジョン自体へのアクセスがそれほど悪くないとわかっても、人里からは離れた場所にあるので出たり入ったりを繰り返したくはない。

 望ましいのは一回の挑戦で最深部まで踏破。若しくは相応の発掘品が得られること。ベイタ曰く船長も同じようなことを考えているらしい。


「なら荷物は持てるだけ持って行く感じかな。ダンジョンができてからもう一ヶ月以上は経つんでしょ? それくらいかかるにしても、流石に一ヶ月分の食料は持ち運べないよね」

「最悪、食料は現地調達という手もありますけどね」

「……あんまり考えたくないなぁ」


 今でも鮮明に思い出せるのはコボルトの肉の不味さ。異世界生活もそれなりに経っているが、あれよりも不味い物を未だに食べたことがない。しかも食べたら腹を下してしまうのだ。積極的に食べたい魔物ではない。

 しかし携帯食料ばかり持って行くわけにはいかない。いくら小さくされているといっても数が揃えば嵩張るし、なにより飽きる。


 幸い、ウチのパーティには火属性の魔法を使えるヒストリアと水属性の魔法を使えるミニッツが居る。離れ離れにならない限りは調理の心配をしなくてもいいだろう。


「……ダンジョンの地図もあるんだっけ?」

「恐らくは。町中に出回ってはいないようですが、ダンジョンの周りは中立地帯ですし、小金を稼ごうとする冒険者が居てもおかしくありません。彼らからも話は聞けるでしょう」

「ふむふむ……」


 攻略を諦めた冒険者達が小銭を稼ぐために中の情報を売る。そういうことがあるのは度々聞いていた。

 ホウシァ・ネネの所のダンジョンは一般に知られていないのでそういう奴らが居ないのは当然だったが、今回のダンジョンは国を超えて知られるまでになっている。誰かしらは待ち構えていてもおかしくない。

 ただ、中立地帯とは言え戦場の真ん中。居座ろうとは正直思わないがどうなのだろうか。


「冒険者ですよ? そんなの気にしない人達も居ます」

「確かに」


 船長やミニッツなんかは気にしないだろう。

 自分の腕に絶対の自信があるからこそ、なにかが起こっても無事に生還できると考えているのだ。私にはできない考え方で正直羨ましい。


 一先ず、長く潜るであろうことからいつもよりも少しだけ多く準備をすることになった。

 食料。飲み水。ポーション。その他応急処置の道具。魔法石のランタン。ロープ。

 この中のいくつかは船に置いてあって、私達を近海で降ろしてから船で進んだ船長達が持って来てくれるだろう。

 そこに加えて、外でキャンプをするための道具をいくつか。


 私やお兄ちゃんのように携帯電話があれば到着時間も合わせることができるが、こちらの世界でそういった通信機は一般的ではない。今も船長が無事に入国できたのかもわからないのだ。

 なのでダンジョンの前で船長達を何日も待つ可能性もあり、そのための準備も必要であった。


「荷物も増えましたし、せっかくなのでポーターを雇いましょうか」


 ポーターとはいわゆる荷運び人で、もっと簡単に言うなら荷物運びの依頼を受けた冒険者である。


 どうせダンジョンの中に持って行かないのなら、とキャンプ用の食料は少し嵩張る物を選んだ結果、二人では持てない量になってしまった。そうでなくとも、荷物をいくらか持ってもらえば道中の体力温存にもなるし、戦闘もしやすい。


 思い出すのは戦闘に参加するようになってからのこと。

 当時から今でも私の役割はポーターとマッピングの二つくらいのものだが、荷物を持ちながら戦うのに慣れていなかった当初の私は、カバンの中でポーションの瓶を割ってしまったことがある。

 カバンの中はビショビショ。荷物はポーションまみれ。しばらくカバンから薬品臭さが抜けなかったのを思い出す。


 ポーターは荷運び専門なので戦闘は私達が担う。ポーションの瓶を割らずに済むと考えるだけで、ポーターを雇うのには賛成だった。

 これはギルドに依頼を張り出すまでもないのでそこら辺で暇そうにしていた冒険者に声をかける。そして報酬の交渉を経て無事に話はまとまり、明朝、ダンジョンまで出発することになった。


 ここまでは予定通り。後は船長達と何事も無く合流するのを祈るだけである。

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