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第67話

「ついに来ましたタルーティア王国!」

「元気ですね、リリカ」


 私の隣に立つベイタは若干呆れたような、それでいて微笑ましげな笑みを浮かべている。

 いつもからかってくる船長やミニッツ、庇ってくれるヒストリアは居ない。


 今回私とベイタが降り立ったのは、小さなゴルダラ大陸――小さいのに大陸とはこれ如何に――を治める二つの国の一つ、タルーティア王国である。

 右を見ても左を見ても人、人、人。着ている服がファンタジーっぽい物でなければ日本に帰って来たのか、と勘違いしてしまいそうな光景である。

 とは言え、高いビルもチカチカ眩しい電光掲示板も無いので日本とは似ても似つかないのだが。


 ゴルダラ大陸はタルーティア王国とダムニスモ連邦国の二つの国がある大陸である。

 簡単に言うならばタルーティア王国はヒト種の町。ダムニスモ連邦国は獣人種の国。


 かつて亜人排斥主義に侵され、国のトップから下々の隅から隅に至るまで亜人排斥に傾倒したタルーティア王国と、それに対抗する亜人諸派がまとまってできたダムニスモ連邦国との戦いは何十年何百年と続いていると言われ、この戦争は「百年戦争」とも呼ばれている。


 私達が目指すダンジョンは奇なることに大陸の真ん中、両者が睨み合っている場所に現れたとの話で、今回はヒト種組と獣人種組とで分かれて目指すことになったのだ。


「確かにこれじゃ……船長達と一緒に行動はできないね……」


 タルーティア王国に入国したのは一週間も前である。道中、いくつかの町や村に滞在し、亜人排斥主義がどういう物か見てきたつもりだった。

 そこで暮らす人々は通りすがりの冒険者である私達にも親切にしてくれて、とても差別をするような人達には見えなかった。

 しかし首都であるメンシュシュにあった光景はこの一週間を容易く打ち砕いた。


 まず目を惹くのが、町の中央広場に作られた巨大なステージだった。その上にはいくつかの獣の生首が吊り下げられていて、新しい物なのか血が滴っている物もある。

 それがただの獣の生首でなく、獣人の生首であるのは疑いようも無い。

 通り過ぎる人達は侮蔑の目を向けたり、石を投げたり。その中には大人だけで無く子供も交じっているのが、この国の亜人排斥主義の根深さを物語っている。


「ちなみに、ちょっと裏に行けば亜人の奴隷オークションもやっているはずですよ」

「その情報、聞きたくなかったなぁ……」

「社会勉強です。向こうの国に行ったら私達が同じようにされていると考えてください。どうか気を引き締めるように」

「了解です」


 二つの国は戦争中。戦争中だからとなにをしてもいいわけではないが、それが許されてしまうのが今のこの国である。


 目的はダンジョン。ここは通り過ぎるだけ。

 そう言い聞かせても気分は悪くなる。


「とりあえず今日は宿を取って、少し休んだら旅の準備をして明日の朝に出ましょう」

「そうだね」

「さっきまでの元気はどうしたんですか?」

「そんなこと言ったってねぇ……」


 この前、私がこちらの世界に来ていたように、こちらの世界に来ていたお兄ちゃんとその友人である奏汰さんと再会した。その時に一緒に盗賊を捕まえる依頼を受けた。

 無事に依頼は完了。しかし私は大したことができなかったと思う。


 二人とも当たり前だが私より年上で、喧嘩もたくさんしているのは知っている。依頼だって、私はサポート役として十分役割は果たしたと言えるだろう。

 最初はそう思っていたのだが日が経つにつれて、私ももっと戦えるようにならなければ、と気負うようになったのだ。覚悟した、とも言える。

 タイミング良くベイタと二人の行動で、「いつも以上に頑張るぞ! 三人の抜けた穴を埋めるのはこの私だ!」と意気込んでいたのがさっきまでの私である。

 そんな私にこの町はいささかショッキング過ぎた。


 現実逃避なのか、ベイタに付いて宿を決めて買い出しを済ませる間、私はお兄ちゃんの連れていた少女シズキちゃんのことを考えていた。断じて私がロリコンというわけではない。


 一介の高校生であるお兄ちゃんがいきなり女の子を保護して旅をしている。その状況を知れば妹として、その女の子のことを心配するのが当然ではないか。

 シズキちゃんの話を聞く限り変な扱いもされておらず、大事に扱われているのはわかる。

 頼りない所もあるみたいだがそれは目を瞑っていただいて。


 それでもどこか素直じゃない部分のあるシズキちゃんと、女心のわからなさそうなお兄ちゃんのコンビは、心配するに十分である。

 ただでさえこちらの世界のことは右も左もわからないのにその上に子供まで預かる。

 鋭い目つきで恐れられているくせにお人好しなのだから呆れてしまう。


 しかし他人の心配をしている暇は無く、私は私で努力しなければならない。


 今回、ベイタと一緒に無事にダンジョンへ辿り着くことももちろん。これから先、船長達の仲間として立派な戦力になることももちろん。私のために元の世界に戻るための手段を探してくれているのだから、私も探さなければならない。


「三人とも……大丈夫かな……」


 向こうは亜人の国。獣人である船長達がなにかされるとは思わないが、それでも心配になってしまう。

ようやく第三章開始です。

これからも毎週更新の予定ですがゆるゆるいくので遅れても勘弁してください。

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