第66話
そしてすべての料理が運ばれてきた。
サラダ。炒め物。スープ等々。いくつもの皿の中心に据えられるのは本日のメインディッシュ、子豚の丸焼きである。
他のテーブルの冒険者達からもどよめきが起こるほどの光景だ。
宴会の度に思うが、頼む料理はとても五人前には見えない。それでもしっかり全員のお腹の中に消えていくのだから不思議である。
船長はまだしもベイタもヒストリアも、そしてミニッツなんかはあまり、量を食べられるように見えない。
宴会が終わった後にはいつもお腹が張り裂けそうになっているがもしや。
その先には恐ろしい事実しか待っていないような気がするので頭から追い出して忘れる。
しばしは無言で食事が進み――もしかしたら空腹で食べるのに夢中だった私が聞いていなかっただけかもしれないが――皿の上の料理がほとんど無くなってから、真面目な表情になって真面目な話が始まった。
「リリカは、今回の依頼はどうだった?」
「大変だったよ。特に最初のアジトは――」
と、氷壁を二つも作ったことを話す。
これに一番驚いていたのはミニッツで「いつの間に!?」なんて驚いていた。でもあれはペンダントに蓄えられていた魔力があってこその魔法で、私一人ではまだまだそこには及ばない。
つくづくあのペンダントがどんな代物なのかを思い知らされるようだった。
もしかして出す所に出したら、なんて考えてしまい、急いでそれを振り払う。
そんなことをしたら私は役立たず一直線だ。
「それを含めてもリリカの実力だよ」
「……そうかな?」
「そうだよ」
「……なんかミニッツがミニッツじゃないみたい」
「なっ!?」
実際、ミニッツの言う通りなのだが、小馬鹿にしてこないのが不可思議でたまらない。
依頼の最中に頭でも打ったのだろうか。
そんなことはともかくとして船長達の方はどうだったのか聞くと、こちらはなんてこともなく、ただただ個々人が自分の力を振るっていただけらしい。
連携だとか戦術だとかそういうのも関係無し、アジトに踏み込んで盗賊を千切っては投げ千切っては投げと繰り返していたらしい。
想像するだけで盗賊達に同情してしまうが船長曰く、マイナールの恐ろしさは船長ですら若干引くくらいらしい。どこまでも冷徹で、依頼を終わらせるためだけのゴーレム――つまりロボット――のように見えたと言う。
「そんなこと言ったらダメだよ。美人なんだから……」
「いくら美人でもなぁ……。あの少年も尻に敷かれてそうだ」
それには同意。
マイナールどころか優しそうなミイナールにだって強く出られない奏汰さんの姿が容易に想像できる。
さて、ここまでが前置きで、いよいよ話は本題に入る。
「次の目的地が決まったぞ」
船長が言うが、どうやら私以外の四人では決まっていたようで、驚いた様子は無い。そして私も、なんとなくどこへ向かうかは予想ができていた。
「俺らが次に目指すのはゴルダラ大陸にできたらしい新しいダンジョンだ」
「情報も集められる限りは集めてあります」
「後は出発のための準備だけ、ってわけね」
「どんなお宝が眠っているのか、楽しみだよ」
四人はさもワクワクしている様子だ。同じようにどこか気持ちが高ぶっている私。
私がダンジョンに踏み込んだのは一回きりで、そこで手に入ったのはペンダントだけ。ダンジョン自体になにか楽しみを見出しているわけではない。
しかし四人がウキウキしているなら釣られて私もウキウキする。すっかりそういう間柄になってしまった。
「じゃあ目的地が決まったことを祝して……カンパーイ!」
私のかけ声でそれぞれのグラスを打ち合わせる。
アルコールの匂いだけで少し、酔ってしまったかもしれない。
これにて第二章完結です。次章からはまた凜々花側のお話に戻ります。
次章開始までいましばらくお待ちください。




