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第61話

 食事の間に私達も出発の準備は調えていた。焚き火の始末をし、スープの鍋を片付け、それぞれの毛布をしまい、盗賊の拘束を確認。


「あいつらはそのままにしていていいんだよな?」

「ああ。朝一番に確保しに来るって言ってたからな。アジトの方も今日中に着くように出るから終わってなければ手伝ってくれるってさ」

「それは頼もしい」


 盗賊の確保が冒険者に依頼されたからと言って、軍が頼りないわけではない。


 お兄ちゃんの話を聞く限りこの国の軍人は相当強いらしい。たった一人を相手にシズキちゃんとの二人掛かりでも倒せなかったとは恐ろしい。

 ストローファに居る隊がそれだけ強いかはさておき、援軍があるとわかれば気持ちも変わる。


「……盗賊のアジトっていうのは、どういう感じの場所なんですか?」


 道中の暇潰しに尋ねる。

 ベイタが説明していた気もするがすっかり忘れてしまった。


「昔の砦をそのまま使っているみたいだよ」

「砦?」

「確か……前回の大戦時に、増員した兵士を町に住ませるわけにはいかなくて急造した砦らしい。戦争が終わるのと同時に放棄されたけどわざわざ壊すのも面倒だから、とそのまま残っていたらしい」

「なんでそんなに詳しいんだよ……」

「面白かったから詳しく聞いちゃってさ」


 私なんかはベイタの説明すらも忘れるくらいなのに、奏汰さんは更に一歩二歩進んだ情報を集めていた。

 真面目と言うかなんと言うか、尊敬できる人だ。


 そんなこんなで世間話をしつつ歩いていると、遠くに建物らしき物が見えた。


「あれか?」

「みたいだな」


 お兄ちゃん達が立ち止まり、手を使って遠くを見るようにする。それに倣って私も身体強化の魔法まで駆使してその建物を見る。


 元砦の名に恥じぬドッシリとした構えだ。しかし魔物の侵入を阻むべき塁壁はボロボロでいくつも隙間があり、中に見える小さな塔の屋根は形も無くなっていた。今の状態ではとても砦と呼ぶことはできない。


 しかしそこで誰かが生活していると示すように煙が数本立ち上っている。

 そして砦の周囲をグルグルと二組の見張りが回って警戒していた。


「奏汰、作戦はどうする?」

「俺か……」

「もちろん。俺に作戦立てられると思うか?」

「「思えない」」


 私も奏汰さんが作戦を立てるのに賛成。シズキちゃんも同じ気持ち。

 もしもお兄ちゃんに作戦を任せた場合、真正面から突撃、しか言わなさそうだ。


 一応、見張りに見つからないように四人で寝転がり、中心に奏汰さんが地図を広げた。


「凜々花ちゃんとシズキちゃんはどれくらいの魔法が使える?」

「どれくらいって……どれくらいですか?」


 聞き返した後、我ながらなにを聞いているんだ、と思ったが想定している魔法がどんな物かもわからないので答えようがない。


「どれくらいってどれくらい? なんて聞くとかお前は馬鹿か? 奏汰、どれくらいだ?」


 間抜けなお兄ちゃんの足を蹴っておく。


「……砦をそのままぶっ潰せるくらいの魔法が使えれば楽だと思ったんだがな……」

「いやいやいや、流石にそんなのは無理ですって!」


 大きな声を出しかけて瞬時に抑える。しかし状況を忘れてしまうほどの衝撃だった。


 練習しているとは言え私はまだ魔法を覚えたばかり。そして砦も結構な広さがありそうで、あそこ全体を凍らせるとなるとどれだけの魔力が必要か想像もできない。ミニッツにだって不可能じゃないか。

 しかし隣のシズキちゃんは、


「時間をくれればできるよ」


 あっけらかんと言い放った。


「お前……マジか?」

「シズキちゃん、本当なの?」

「いや、無理しなくて、いいんだよ?」


 思わず顔を見たが、とても嘘を吐いているようには見えなかった。


 私達の反応に大きくため息を吐いたシズキちゃんは、


「そんなに無理ってことでも……。魔力はまだ残ってるから大きいの二回くらいでできるんじゃないかなぁ……」


 かっこいい。シズキちゃんなら本当にできそうだ。

 まさかすぐに問題解決かとも思ったが、お兄ちゃんが頭を抱えていた。


「記憶喪失の原因はなんだった?」

「……魔力の使い過ぎ」

「シズキの魔法で砦を潰す作戦は却下だ」


 そう言えばそんなことをこの前聞いた。


 それならばシズキちゃんに無理をさせるわけにはいかず、奏汰さんも力強くうなずいた。


 お兄ちゃんがちゃんとシズキちゃんの体調を考えていられているようで安心する。しかしシズキちゃん本人はどことなく不服そうであり、子供扱いされたようで拗ねている、のではなくお兄ちゃんの力になりたいのに、みたいな気持ちが読み取れた。

 昨日の夜の話からしても本当に思っていそうだが、半分くらいは私の願望が込められている。


 それはさておき。


「とは言え……たった四人で盗賊を逃がさないように、って言うのも厳しいよな」


 一つの案が消えて頭を悩ませるのは立案担当の奏汰さんだ。


 その様子を見かねたのかお兄ちゃんは体を起こし、


「ちょっと見てくるよ」


 と、言い残してスタコラ砦の方に向かって行った。


 こちらの意見を聞こうともしない行動にあんぐりするが、その間にお兄ちゃんは戻って来た。

 どうやら砦の広さを確認してきたようで、村一つ分くらいあるそうだ。これは広い。


「ますます、四人で逃がさないようにするってのが難しいな……」

「壁、かぁ……」


 お兄ちゃんが呟く。


 壁が作れればそりゃあ盗賊を逃がさないこともできるだろう。

 私の思考はそこで止まっていたが奏汰さんはなにかを思いついたようだ。


「有樹、それだよ!」

「んあ?」

「ゴメン、二人とも。少し無理してもらうかもしれない」

「いいよ。砦全部を壊すような魔法じゃないんでしょ?」

「それはもちろん」

「シズキちゃんがやるなら……私が断るわけにはいきませんよね……」


 この依頼は私も当事者。多少の無茶も引き受けなければならない。


 そして、奏汰さんの口から作戦が伝えられた。

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