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第60話

「ただいま」

「ユ、ユウキ!? 早かったね……」


 いつの間にかシズキちゃんの後ろにはお兄ちゃんが立っていた。


 それに気づいて取り乱すシズキちゃんは見ていて面白く、お兄ちゃんはなにがなにやら、と言った表情だ。

 当然、シズキちゃんの名誉のために話すことはない。

 それはそれとして後でお兄ちゃんには、シズキちゃんが不安がっていたことを伝えなければならない。


 さておき、町までひとっ走りおつかいに行っていたお兄ちゃんは帰りも相当急いだのか、肩で息をしているくらいだった。

 水を飲ませ、晩ご飯を食べたら疲れているのかすぐに横になって眠ってしまった。


 今夜の見張りの順番も決めなきゃいけないのに勝手なものだが、隣ですやすや寝息を立てているシズキちゃんを見ると叩き起こすのも忍びなかった。


「凜々花ちゃんはどうする? 先に寝てもいいけど」

「うーん……あまり眠くないんで奏汰さんが良ければ先に見張りたいです」


 それほど動き回ったわけではないので体の疲れはそれほどでも無い。むしろ魔法を使ったせいで今なお目が冴えているくらいだ。


「了解。じゃあ先に寝るね。おやすみ」

「おやすみなさい」


 奏汰さんも毛布に包まってすぐに眠る。

 少し目をやれば、盗賊達も静かに眠っているようだ。手足を縛られているのによく寝られるものだと感心する。


「さて……緊張しますな……」


 ここからは責任重大。

 魔物の接近にいち早く気づいて三人を起こさなければ危険だ。盗賊が逃げようとした素振りを見せたら捕まえなくては。


 今までの夜の見張りは二人組でやっていた。二人同時に交代したり、一人ずつ交代して隙間を無くしたり。たった一人で見張りをするのは実は初めての経験で緊張する。それもあってすぐに眠れそうに無かったのだ。


 お兄ちゃんはぐっすり眠ったまま、明け方まで起きないだろう。ならば奏汰さんとの交代は深夜十二時くらいが目安か。


「確かこっちの世界だと……陽土の刻に入ったところ、かな?」


 時間を見つけてこちらの世界の情報も教えてもらってはいるが、学校の勉強のようで中々覚えられない。

 それよりも魔法の練習の方が成果が出てわかりやすい。


 シズキちゃんに教わった通り、氷の人形を動かす練習。そしてミニッツに教わっている、魔力量を底上げするためのメニューとイメージ力を強化する訓練。


 それをしている内に時間は過ぎていくもので、いよいよ疲れも溜まって私の眠気が顔をもたげた。薪も減っていて交代の頃合いだろう。


 お兄ちゃん達から少し離れた場所で寝ていた奏汰さんの下に静かに近寄る。


「あっ、これから起こすから別に気にしなくてもいいのか」


 やはり眠くて頭が回っていないのか。

 誰かの足音で起こされるよりも揺り起こされる方が寝起きはいいはず、と言い聞かせて奏汰さんの肩を揺する。


「奏汰さーん、起きてください。奏汰さーん」


 するとすぐに奏汰さんは目を開けた。

 多少ボーッとはしているがこの寝起きの良さは羨ましい。


「すいません。そろそろ限界なんで交代してくださいぃ……」


 意図したわけではないが、思わず漏れ出た欠伸は限界が近いことを示している。

 奏汰さんもちゃんと起きたので、私もすぐに毛布に包まって横になる。途端、意識は眠りの淵に落ちていった。




 目が覚めた。体も頭もまだ眠っていたいと主張しているのに、体のどこが目覚めたがっているのか二度寝しようにもできない。こんな感覚は久しぶりだった。

 睡魔と戦うために寝返りを打てば、ゴツゴツとした刺激が全身を打ち、そう言えば地面の上に寝転んでたな、と思い出す。


 こうなったらもう起きるしかない。

 体を起こすと、ボンヤリした視界の向こうにお兄ちゃんが見えた。


「おはよー……」

「もうちょっと寝ててもいいんだぞ?」

「……いや、起きてる」


 すぐに状況は思い出した。

 ここで二度寝をしたらまたお兄ちゃんが一人で見張りをすることになる。

 頬を叩き、ひねり、ちょっと歩いて目を覚ます。


「顔でも洗えたらいいんだけどね……」

「川の近くとかならな。まぁ、アジトにでも行けば水源なりあるんじゃないか?」

「その頃にはシャッキリ目覚めてますよ」


 呆れたお兄ちゃんから朝食のパンを受け取る。


 そこまでして目を覚ます気も無いし、パンに口の中の水分をすべて持っていかれては眠気も覚めると言うものだ。ジュースの酸味も目覚ましの役割を果たしてくれている。


「お前、いっつもこんなに早いのか?」

「いんや。いつもはもうちょいグッスリ。船の上ならもう慣れたんだけど、地面の上じゃねぇ……。よく眠れないや」


 船上は揺れるが、地面は平ら。どちらがいいかと聞かれれば即答で船と答えるだろう。


「船って……」

「ウチのパーティ、なんでか船持ってるの。理由は忘れたけど昔買ったんだって」


 ボソボソのパンだと食べながら話すのも一苦労だ。そんな行儀の悪いことをしなければいいのだが、お兄ちゃんはこれくらい気にしないだろう。いつも注意してくるお母さんも今は居ない。


「お母さん達、どうしてるかなぁ……」


 朝練のある私に合わせてお母さんも早起きだった。むしろ私よりも早いくらい。

 起きるといつも朝ご飯が用意してあって、今は無性にそれが恋しくなっていた。


「そうか。いつも朝練に行く時間か」

「なんの話?」


 なんでも無かったようで、咳払いをして誤魔化す。


「母さんも父さんも元気にしてるさ」


 根拠は無いが、私もなぜだかそう思えた。

 いつも笑っていて、怒ったところもたまにしか見なかったので泣いている姿が想像できないのだ。

 だから安心というわけでもないが、元の世界に戻す術はゆっくり確実に探せばいい。


 そう思っていると、頭に固くて重い感触が。

 慰めるために撫でてくれているのはなんとなくわかるが、ガントレットをしたままか。ゴリゴリ頭皮が削られていくようだ。


「……話は変わるけどお兄ちゃんさぁ」

「どうした?」

「シズキちゃんを撫でる時もガントレットしたままなの? ゴリゴリ痛いんだけど?」

「……悪かったな」


 ようやく解放された。


 気遣いは嬉しいがせめて素手で撫でて欲しい。お兄ちゃんにそんな気遣いを求めるのも酷な話だろうか。


「気をつけてよ。あの子もまだ子供なんだから」

「わかってる。俺にもっと頼り甲斐があればいいんだがな……」

「ん、まぁ、そうだね。そういうこと」


 自分を変えるのではなくシズキちゃんへの接し方を考えて欲しいのだが、当たらずも遠からずか。私が一から十まで説明するのも違う気がするし、シズキちゃんもお兄ちゃんのことはわかっていそうだ。

 私と奏汰さんに不安を溢したことだし、いずれお兄ちゃんについても安心できるだろう。


 タイミングが良いか悪いかシズキちゃんが起き出したので、話はここまでとなった。

 と、思いきや、寝ぼけ眼のままお兄ちゃんを見つけたシズキちゃんはそのまま膝の上に収まると再び寝息を立て始めた。


「愛されてるね」

「そうか? なら嬉しいんだけどな」


 自覚無し。これは厄介だ。


 それはさておき、適当に話していると日も昇り、シズキちゃんもちゃんと目を覚ました。それでもしばらくお兄ちゃんの膝の上で微睡んでおり、まだまだ目覚めには遠そうだ。


 その間に盗賊を見回る。

 人数に変わりなし。逃げ出した者は居ないようで、全員眠っている。内二人――足を切り落とされた盗賊は意識を失っている、と言うのが正しいだろうか。

 傷口は血が固まっている部分と固まっていない部分があり、ぐじゅぐじゅと見ているだけで吐きそうになる。


 私達でこれをやったのだが、盗賊という稼業に身を落としていたのだから因果応報か。船長の言う通り、ここは割り切るしかない。


 お兄ちゃん達の下に戻ると奏汰さんも起きていて、朝ご飯を食べている。

 私は水をもらって気持ちを落ち着ける。


「じゃあ行くか」


 奏汰さんがご飯を食べ終え、いよいよ出発だ。

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