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第6話

「俺達はリリカのことを甘く見ていたのかもしれない……」


 船長、ミニッツ、ベイタ、ヒストリアの四人は小さな机を囲んで顔を突き合わせている。


「そうだね。予想以上だったよ」


 カーテンは閉め切られ、小さなランプの灯りだけが部屋を薄暗く照らしていた。


「考えを改めなければいけません」


 全員が全員、真剣な表情で、あたかも、悪の幹部が集会をしているような様子であった。


「リリカがあんなに……手がかかるなんて」

「それ、本人がいる前でやる必要ないよね!?」


 カーテンを一気に開けて光を取り込む。真っ昼間からなにをしているのか。

 眩しいやら雰囲気を壊すなやらそんな抗議の声は受け付けない。


 大事な話がある、なんて言って来させられたと思えば、示し合わせたように準備を始めた四人。私がダメな子だと言われるためにわざわざ待っていた私が馬鹿みたいだ。

 こんなことならさっさと話をしろと言うべきであった。


「手がかかる……自覚はあるから申し訳ないけど! ちょっと馬鹿にし過ぎじゃないの?」


 コボルトの肉を食べて小一時間トイレに籠もったのは記憶に新しい。


 それ以外にも、買い物で金額を間違える――通貨がが円じゃないのだから仕方ないと思うが。


 高いポーションを間違って使う――色によって効果が変わるらしい。ちょっとした怪我に高い物を使ってしまった。


 魔法の練習がミニッツの想定よりも進んでいない――これも個人差だと思うが。


 ギルドに行くと冒険者に囲まれて一騒ぎになる――私みたいな子供が冒険者をするのはやっぱりめずらしいようで、みんな近所のおじちゃんおばちゃんみたいになる。


 最後のだけは私にどうしようもないと思うのだが、それでも迷惑をかけているのだからあまり強くは言い返せなかった。


「……一応、努力はしているので長い目で見ていただけるとありがたいのですが」


 異世界のことを調べに図書館へ行くミニッツとベイタに付いて行って、私なりに本を読んでこちらの世界のことを勉強したりしている。

 依頼を受けていない時に体が鈍る、と言う船長とヒストリアに付いて行って剣の練習をしたりしている。


 なので少しくらい評価に手心を加えてもらいたい。


「あなたの努力は本当に認めているわ」

「冒険者を志していたわけでもない一般人にしてはよくやってくれている」

「でもいつまでもリリカのレベルに合わせてはいられない、っていうのもわかるよね?」

「実は今日はリリカに重大な発表があるのです」


 重大な……まさかクビの宣告か。


「お願いします! もっと勉強頑張ります! 剣の練習もします!」


 異世界に関する情報を集めるために私が必要。しかしそれは絶対の話ではなく、船長達が持っていなかった別の視点が欲しかったから。いるかいらないかで言えばいらない可能性の方が高いかもしれない。

 それを足手まといであることと天秤にかけてどっちがいいか。答えはほぼ決まっている。


 私はある程度こちらの世界のことも学んできている。魔法も教えてもらったし最悪、一人でもなんとか生きていけるだろう。

 しかしこの五人のパーティがなんだかんだで気に入っているのだ。ここに来て私一人で頑張れ、なんて寂しいことは言わないで欲しい。


「だぁら……いああらおうりだあないえ……」

「ああもう! うるさいしなに言ってるかわからん!」

「別にあなたのことを放り出そうとかそういう話じゃないのよ?」

「……へ?」


 急いで顔に溢れる汁を拭う。


「本日より!」

「リリカの!」

「強化週間を始める!」


 船長、ミニッツ、ヒストリアがそれぞれ叫び、一人残ったベイタは手を叩いていた。


 強化週間。パーティから放り出されるわけではなさそうで一安心だが、その響きにはどことなく不穏な空気が籠もっている。四人が私を見る目も何だか怪しい。

 今度は別の汁が額を伝う。


「そ、その強化週間とはいったい……」


 いかにも聞いて欲しそうな顔をしていたので尋ねてみるが、本当ならなにも聞かなかったことにしてなに食わぬ顔でいたい。

 しかしそれは許されないことだった。


「私達とペアになって簡単な依頼をどんどん経験しよう、って話よ」

「とりあえず一人一回と考えて最低四回。なにかしら受けてもらうことにしたの」

「習うより慣れろってことだ」

「ちなみに我々はあまり手を出しません」


 確かに、私がこちらの世界に慣れる為にはこれくらいの荒療治が必要なのかもしれない。

 しかしどうにも嫌な予感は拭いきれなかった。

 ニヤニヤと笑いながらこちらを見ている四人を見てると「まぁ、なんとかなるよね」なんて笑いながら脳天気に過ごしていた異世界生活を後悔してしまう。


「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

「そうそう。ちょっとキツいだけだから」


 なんて言って笑うミニッツとヒストリアが恨めしかった。

短いですがキリの良い場所で

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