第57話
「どうかしたの?」
「いや……ここが本当に盗賊の見張り場所かが怪しくてな……」
「ちょっと! 無関係のやつだったらどうするの!?」
思わず吹き出してしまいそうになった。
燃やし尽くしてしまった後に間違えましたなんて冗談にしても笑えない。
それだと言うのにお兄ちゃんは、
「どうしようなぁ……」
曖昧に笑うだけ。
「そ、そんな悠長な……!」
笑って済む問題でも無いので、三人で手分けして燃えカスの跡を探す。ここは盗賊が使ってました、とわかるような手掛かりが残っていたら万々歳だ。
しかし見つかったのは黒焦げた単眼鏡。黒焦げたナイフ。黒焦げた壺――蓋を開けたら酸っぱい臭いが飛び出て来た。
こんな物では盗賊が使っていた証拠にもならない。
一先ず集まって奏汰さんに報告する。
どうやらお兄ちゃん達が始末した藪の中には扉があったようで、これはこれで怪しさ満点である。
しかし今の議題は怪しい扉よりも燃やしてしまった小屋。
「間違ってたらどうする? 急に人の家燃やしちゃったんだけど」
燃やしたのは私とシズキちゃんだけど責任押しつけたりしないよね? と念じる。
そんな中、
「町の外だし問題無いと思うよ」
シズキちゃんが何気なく言った。口振りからすると、なにをそんなに慌てているのか、とでも言いたげな感じだ。
曰く、町の外に法律は及ばない。軍の管轄が町の中なので、町の外に関することは殺人や強盗が頻発でもしない限り放っておかれるようだ。
考えてみれば人が死ぬ度に捜査したとしても、そのほとんどは魔物の仕業だろう。そしてこうして小屋を燃やしてしまっても魔物の仕業と思われるようで、自首したとしても大した罪には問われないそうだ。
「それでも……気が引けるよね」
「日本人の性か……」
「それとも単純に常識が合わないかだな」
こればっかりは異世界と日本とで常識の差なので、どうしても気になってしまう。
ただ、罪にならないのであればそこは一安心。
そして視線は足下へ向く。
「小屋のことを知っている人が居るとしたら扉の中か?」
「ここしかないもんな」
ベイタの調査では見張り場のある場所は見つからなかった。しかし町から離れた盗賊のアジトに向かう途中にあった小屋と扉だ。十中八九、ここが盗賊の見張り場だろう。
扉の大きさから考えると一人通るのが精一杯。中で鉢合ったらどちらかが下りるか上るかしないといけなさそうである。
中に居るのが盗賊だとすれば戦闘は避けられない。
誰が代表して行くか。
「俺しかいないだろ」
流石はお兄ちゃんだ。
まだ子供のシズキちゃんを向かわせるわけにはいかない。戦闘の可能性があるなら、剣を持つ奏汰さんは戦いにくそうなのでやっぱり除外。
そして残った私とお兄ちゃんだが、まさか妹に行かせるはずはあるまい。
そう思っていたが、お兄ちゃんも同じ事を考えていたようだ。
「じゃあ行ってくる」
どこか諦めが混じっているような声音だったが、お兄ちゃん自身、地下へ潜るのが嫌なわけじゃなさそうだ。
「気をつけてね」
「お兄ちゃんはこういう所で失敗するタイプなんだから、本当に気をつけてね」
気負えば気負うほど気合いが空回りして失敗するタイプの人間は居て、お兄ちゃんはそのタイプの人間だ。
高校受験の時も当日の朝、お腹を壊してトイレに籠もりきりだった。遅刻しないように早起きしたのにそれが台無しになるだなんて今では笑い話だが、当時は無関係の私の方がハラハラしたくらい。
今回も気負い過ぎて殺される、なんてことは止めて欲しい。
笑ってくれたので緊張は解れたと信じたいがどうだろうか。
深呼吸をしつつ扉を開け、なにも起こらないのを確認してからお兄ちゃんは慎重に足を踏み入れた。
「盗賊が逃げて来たら頼んだぞ」
「任せとけ」
奏汰さんと言葉を交わし、いよいよお兄ちゃんの姿も地下に消えていく。
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