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第52話

「それで、俺の状況は今話した通りだ。二人のことも聞かせてくれ」


 目と目で合図してお兄ちゃんに先を譲る。


「じゃあまずは俺からだな。シズキ、お前のことも話していいか?」

「別にいいよ。私は隠すようなことでもないと思ってるし」


 さっきは話せなかったシズキちゃんの事情を聞けるのかと思うと前のめりになってしまう。


 二人の今のやり取りを見るに、お兄ちゃんが隠したくてさっきは話さなかったようだ。しかしシズキちゃんはまったくお兄ちゃんに動じていない。それだけお兄ちゃんとも親睦を深められているのだろう。


「俺がこっちの世界に来た時、チンピラに絡まれてたのをマエリファーナの軍人に助けてもらったんだ」


 これ自体はなにも驚くことではない。お兄ちゃんにとっては日常茶飯事。それがこの世界でも変わらなかっただけ。

 やはりお兄ちゃんの目つきは世界共通で鋭いようだ。


「言っておくと、俺は謝ったからな?」

「知ってるよ」

「お兄ちゃん、意外とヘタレだもんね」

「うるさいな」


 咳払いを一つして、


「その軍人が所属していたのが魔法研究局って場所で、このガントレットもそこで開発していた物なんだ。コレの実験に……一ヶ月くらいかな。協力してその間、衣食住の世話をしてもらった。それと一緒に、俺の世界の話をしてそのお礼にお金も貰ってたな……」

「話をするだけでお金を貰えるの?」

「異世界について調べるためだってさ。こっちの世界との違いとか、どういう道具があったとか、そんな感じ」

「なるほど……」


 正直に言えば、お金を稼ぐためにしごかれていた私からすると羨ましい話。


 強化週間と言われて色々なことをさせられたし、今日はマンドレイクを一人で採取させられた。

 それが船長達の愛情で、お兄ちゃんが特別だとは理解している。それでも、ただ話すだけでお金がもらえたお兄ちゃんが羨ましくて仕方がない。


 いつかお兄ちゃんにもマンドレイク採取をやってもらわなければ。

 お兄ちゃんなら一睨みで泣き叫ぶマンドレイクを黙らせられそうだ。


「シズキちゃんとの出会いは?」

「これから話すよ。言っておくけど、そんな楽しい話じゃないからな?」


 奏汰さんが聞き、お兄ちゃんが聞き返し、私達がうなずいたので話を進めた。


「実験が終わって、元の世界に戻る方法を探すためにも冒険者になったんだ。ずっと世話になるわけにもいかないからな。それで最初に受けた護衛依頼で別の町に行ったら誘拐されそうになっていたシズキが逃げてたんだ」

「へー……え?」


 聞き捨てならない単語が。


「誘拐ってどういうことだ?」


 違和感を覚えたのは奏汰さんも同じなようだ。

 揃ってシズキちゃんを見るが、当の本人はまったく気にしていない様子でコップを傾けている。


 こんな簡単に話すようなことでもないと思うのだが、シズキちゃん本人は気にしていないのか。気にしていないからこそ、お兄ちゃんがこうして話しているのだろうか。

 なんと言うべきか言葉が見つからず、お兄ちゃんの説明を待つ。


「俺も事情はわからないし、シズキも記憶喪失になってるから誘拐された理由は――」

「ちょっとちょっと! 記憶喪失ってどういうこと?」


 続いて現れた聞き捨てならない単語その二を前にしてもう黙っては居られなかった。


 どうしてこうもサラッと話してしまうのか。一瞬、私の聞き間違いじゃないかと疑ってしまったくらいだ。


 説明を求めてもお兄ちゃんは、


「どういうこともなにも……逃げていたシズキを助けた時に誘拐犯に襲われて、そいつらと戦っている時にシズキが無理して、多分それが原因じゃないかって話」


 と、スラスラ話しシズキちゃんも、


「魔力を使い過ぎたのが理由かもしれないって病院の先生は言ってたよ」


 それを補足して、


「そんなこんなで、シズキの記憶を取り戻すために、シズキを故郷に連れ戻してやるために、一緒に冒険者をやってるってわけだ」


 説明するのが面倒だから早く話を終わらせてしまおうと、そういう魂胆が見えてくる。


 二人をよく見るが、どちらも嘘を言っている様子はない。


 シズキちゃんは誘拐されかけ、それをお兄ちゃんが助ける。その戦いの最中でシズキちゃんは魔力を使い過ぎてしまい、記憶を失ってしまった。その記憶を取り戻すためにお兄ちゃんとシズキちゃんは冒険者をやっている、と。

 どんな主人公だよ、とツッコんでしまいたいがグッと堪える。そんなことを言ってもお兄ちゃんに笑われるだけだからだ。


 とにかく、お兄ちゃんにはそのままシズキちゃんの世話を頑張ってもらいたい。


「ま、まぁ……有樹の事情はわかった。凜々花ちゃんはなにをしてたんだ?」


 戸惑いつつもうなずいた奏汰さんが仕切り直したが、


「なにをしてたってことも無いですけど……」


 二人に比べて私には大したことが起こっていない。


 どちらかと言えば大きな事件の無い私は幸せなのだろうが、こうも二人がドタバタしていたと思うと、私だけが楽していたようで申し訳ない。


「ダンジョン……はわかりますよね? 私が最初に気がついた場所がどこかのダンジョンだったんですけど、たまたま探索をしていたパーティに助けられて一緒に行動するようになった、てな感じですね。

 我ながら大した事件も無くて申し訳ないですけど……」

「いや、そんなことはないよ」

「凜々花は凜々花で大変だったんだろうしな」


 奏汰さんもお兄ちゃんも優しく声をかけてくれる。これが高校生の余裕なのか。あれだけの苦労があったなんてまったく想像もできない。


「そうだ! 聞こうと思ってたんだがお前、魔法が使えるのか?」

「うん。使えるよ?」


 せめて私も遊んでばっかりいたわけではないと証明しよう。


 テーブルの上に手の平を上にして置く。オーガに襲われた時に魔力はほとんど使い切ってしまったが、パフォーマンス用にちょっとした氷を生むくらいの魔力は回復している。

 綺麗な形の六角形をイメージし、氷の結晶を作り出す。


「……よし!」


 小さくガッツポーズをする。隣の奏汰さんから歓声が上がった。


 しかしお兄ちゃんはと言うと、


「そうか……やっぱり使えるのか……」


 どこか寂しそうである。そう言えばオーガから助けてもらった時も、どこかショックを受けているような表情であった。

 アレは最後のトドメを私がもらっちゃったからだと思っていたがもしかして、


「お兄ちゃんは使えない――んだね……」

「なんだその顔は」

「べっつにー」


 ちょっと優越感。


 これならミニッツにしごかれた甲斐も、デミサハギンやシーサーペント、触手、メガジキを相手にした甲斐もあるというもの。


 私、魚介類ばっかと戦ってないか?


「か、奏汰はどうなんだ……?」

「安心しろ。俺もこういう魔法は使えないよ」


 藁にも縋る思いのお兄ちゃんとそれをわかっていて笑っている奏汰さん。我が兄ながら情けなくて申し訳ない。

 そして、奏汰さんも魔法は使えないとわかって更に優越感。


 異世界人だと女だけしか使えないのか、それとも私が特別なのか。もしかしたらお兄ちゃん達が特別なのか。


「俺の場合はランダムードがあるから、身体強化の魔法しか使えなくてもなんとか戦えるよ。流石に素手のままじゃ……有樹お前、もしかして素手で魔物と戦ってるのか?」


 ある意味では魔剣を持っている奏汰さんも特別か。シズキちゃんの話を聞く限りだと魔法が使えるよりもよっぽど優れたステータスだ。


 そう言えば、私は魔法を使っているので考えていなかったがお兄ちゃんはどうやって魔物と戦っているのか。

 奏汰さんの言う通り素手のまま戦っているのか、船長やヒストリアのように武器を使って戦っているのか。見る限りそれらしい武器はない。そして、ブスーっと膨れているお兄ちゃんを見れば答えは明らかだ。


「そうですけど? このガントレットは少ない魔力を増幅してくれる装置で、コレがないと身体強化の魔法すら発動できないほど魔力の少ない俺ですがそれがなにか? ガントレットのお陰で魔物とも喧嘩できてますが問題でも?」


 途端、そっぽを向いたまま早口でまくし立てる。


「わかったって。悪かったよ」

「お兄ちゃん、ホントそういう所だよ?」

「……子供みたい」

「…………すまん」


 奏汰さんや私はまだしも、シズキちゃんにまで言われてしまうとは。本当に情けない兄である。


「奏汰はランダムードがなくても身体強化の魔法は使えるんだろ? 羨ましいよ」

「その魔力ってのもよくわからないけどな」

「少なくとも、ユウキくらい魔力が少ない人もめずらしいと思うよ? キャロも言ってたし」

「やったねお兄ちゃん! 選ばれし人類だよ」


 変に仏頂面で面倒な感じなった仕返しに笑ってあげる。

 するとお兄ちゃんはそれこそ「うぎぎ……!」とでも言いたげな表情を浮かべる。


 そんなに魔法が使いたかったのか。お兄ちゃんも大概オタクなので私よりもその気持ちは強いのだろう。

 私自身、魔法が使えるとわかった時はワクワクしたのでその気持ちも慮れる。今でもたまに、箒で空を飛べないか夢想するくらいだ。多分、お兄ちゃんが想像しているのはそういう類いの魔法ではないのだろうが。


「俺の魔力の話はやめにしよう。惨めになるだけだ」

「お兄ちゃんがね」


 文句を言いたげにこちらを睨んでくるが、もう十何年見てきた目つきだ。睨まれたくらいじゃ動じない。


「……。奏汰は携帯持ってるか? 俺達同士で連絡を取るのはこっちの世界でもできるみたいだぞ」

「マジか!?」


 こちらの世界で携帯が使えなかったのは奏汰さんも同じようで、仕舞い込んでいた携帯を急いで取り出した。そして電源を入れる。


 やはり私とお兄ちゃんだけでなく、奏汰さんの携帯も使えるようになっていた。


「これからはこれで連絡が取れるな。定期的に互いの無事は確かめよう」

「そうですね。それが安心です」


 奏汰さんの提案にお兄ちゃんもうなずく。


 特にお兄ちゃんは変なことに巻き込まれやすいだろうし、小さな女の子も居るので注意しておかなければならない。


 一先ず互いの状況も報告し合って改めて、この会議も終わった。

 気づけば日もすっかり沈んでいて、誰かのお腹が鳴る。私もお腹ペコペコである。

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