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第51話

 さっき使った部屋に戻る。

 今度は私とお兄ちゃんとシズキちゃん。そして奏汰さんの四人だ。


 長時間も居座ること自体は特に問題ないが、私達がそこでなにも怪しいことをしていない保証がないために最初は追い出された。


 次は事情を話し、人数を制限することでようやく許可が出た。

 使う側の私からしても、ずっと個室に籠もっているのは怪しいのでギルドに文句は言えない。


「本当に……有樹と凜々花ちゃんなんだよな?」

「お前も本当に奏汰か? なんて思うけど、本物なんだろうな」

「ここで疑ってたらまたお兄ちゃんも疑わなきゃならないからね」


 奏汰さんは信じられない、とでも言いたげだが、すでに私とお兄ちゃんが本物なのは互いに確認している。奏汰さんが偽物でもない限り、ここには本物しか居ない。

 信じられない気持ちもわかるがそこは半ば無理矢理納得してもらった。


 私と奏汰さんはしょっちゅう会っていた間柄ではないが、お兄ちゃんが本物だと言うのなら本物なのだろう。


「いや、本当に……。なにが起きてるんだよ……」

「まったくだ。なんで俺達がこの世界に来たのか、さっぱりわからん」


 お兄ちゃんの言う通り、どうして私達はこちらの世界に飛ばされたのか。


 漫画とかなら世界が危機に瀕しているとか、私達が死んだからとか、そういう理由があるのもだが生憎と心当たりはない。

 船長達の様子を見る限り世界に異変が起こっているわけでもなさそうだ。


 それぞれに推測を話すがそれらしい答えは出てこない。


 驚くべきは、私達がこちらの世界に来たのはほとんど同じ時期らしい。ただの偶然かもしれないし、誰かの意図があってのことかもしれない。

 だとしてもその意図はわからないのだが。


「なんか……。作為的なものを感じるな」


 意外な所から意見が。


「有樹でもそんなことを考えるんだな」

「馬鹿にするな。凜々花じゃあるまいし」

「いや、馬鹿にしないでよ……」


 それらしいことは私も考えていた。明確に答えは出せていないがそれはお兄ちゃんも同じ。馬鹿にされる謂われはないし、年がら年中喧嘩していたお兄ちゃんよりもソフトボール部で汗を流していた私の方がなんかこう……上だ。


 こんなくだらない話は置いておいて、


「奏汰はこっちに来てからなにをしてたんだ?」


 とりあえずは奏汰さんのことを聞くことに。

 まずは、あの二人の美女の正体について聞きたいところだ。


 しかしお兄ちゃんが尋ねると奏汰さんは暗い表情を浮かべて黙ってしまった。もしかしたら聞いてはいけないことだったかもしれないと、お兄ちゃんと顔を見合わせる。


 少し経って奏汰さんは、ネックレスを外すと静かに話し始めた。


「俺がこっちの世界に来てからある人に拾われてな、しばらくはその人が経営している孤児院で世話になってた。後で紹介するけど一緒にいたあの二人も孤児院で暮らしてた。で、なんやかんや事情があって孤児院が襲われてな、その助けてくれた人が殺されたんだよ。

 今はその犯人を追っている、って感じかな。それも脅されて嫌々なんだが……。まぁ色々あったってことだ」

「脅されてって……お前……」

「奏汰さん、大丈夫?」


 まさか。そんな。と言葉が出てこない。

 大丈夫なはずはないだろうが、他に言葉が思いつかず、そんなありきたりなことを言ってしまう。


「心配しないでくれ。気持ちの折り合いはつけてる」


 対する奏汰さんは笑っているが、そんな簡単に折り合いはつけられないだろう。

 話し始めるまでの間がその証拠だ。


 少し迷っていたようだがお兄ちゃんは、脅されている理由を尋ねた。


「なんで脅されてるかって……。俺の恩人ってのが軍の、ヴェイン公国でも偉い人でな。その家の家宝だった魔剣ランダムードが失くなったんだよ。

 そんで脅してきてるのも軍人なんだが、軍のために魔剣ランダムードを見つけたいんだと。孤児院を襲った犯人が一人消えてるからそいつが持ってるかもしれないって話でな」


 いったいなにがなにやら、というのが私の本心。


 いくら助けてくれた人が軍人だからってどうして奏汰さんが巻き込まれているのか。まさか恩人が殺されてその恨みを、とも思ったがそんな様子ではなさそうだ。


「魔剣ランダムードを探してくれって頼まれたんだけど一度断ったんだ。俺に拘る理由はよくわからないが、言うこと聞かすために孤児院の子供達が人質に使われてるんだよ」

「でも、その犯人なんて見つかるのか? その魔剣、とやらがないとずっと脅されるんだろ?」

「それが問題なんだよな。なにせ魔剣ランダムードは俺の手元にある」


 と、奏汰さんは腰にあった黒い剣をテーブルに置いた。


「なっ!?」

「ちょっと!?」

「嘘でしょ!?」


 私とお兄ちゃんとシズキちゃんのリアクションが見事に重なる。奏汰さんをそれを見て笑っているだけだった。


 この人はこんなにお茶目な性格だったのか。

 心配して真面目に頭を悩ませていただけに、こんな悪戯をされるとものすごく心臓に悪い。


 なによりシズキちゃんが、


「魔剣って……そんな簡単に……」


 文字通り愕然としていて、剣と奏汰さんとを視線が行ったり来たりしていた。


「シズキ、そんなにすごい物なのか?」


 お兄ちゃんが聞くと、シズキちゃんはゴクリと唾を飲み込んだ。

 それだけでどんな代物か想像できる。


「魔剣は世界に数本しかなくて、それ一本で国を滅ぼせるとか魔王も倒せるとか……。とにかく、そんな簡単に見られるような物じゃないんだよ!」

「なんでそんなに詳しいんだよ……」


 世界に数本だなんてお宝中のお宝。それこそ難解なダンジョンの奥深く。ドラゴンが守っているような宝箱に入っているレベルのお宝じゃないか。


 最初に奏汰さんの話を聞いた時はいくら家宝でも、なんて思ったが、これ一本で国をも滅ぼせるとなったらそりゃ欲しいだろう。

 むしろどうして奏汰さんはそんな物を何気なく持ち歩けているのか。


 テーブルの上の剣が途端に恐ろしい物に思える。


 しばしの間シズキちゃんとお兄ちゃんはコソコソ話していたが


「……で、魔剣を持ってる奏汰さんは脅されているのをどうするつもりだ?」


 一段落したのかこちらに戻ってきた。


「この町に来たのは、俺らを脅してきた奴の弱味を握るためだ。逆に脅し返して孤児院から手を引かせる。それが俺達の作戦だな」


 軽く言うが、決してそんなに軽い話ではない。


 詳しく事情を聞いていないお兄ちゃんはわからないが、私がちゃらんぽらんと過ごしていた間に奏汰さんは壮絶なことになっていたのか。


 こちらの世界に来た時期が同じでも片や恩人が殺されて更に脅され、その状況を打破するために行動している。片やただ、シーサーペントやメガジキに舌鼓を打っていただけ。経験の密度が違う。なんだか情けなくなってきた。


「なにかあったら遠慮なく言ってくれよ」

「そうですよ。せっかくこの世界で再会できたんですからね」


 大したことのできない私だが、こんな状況で黙っていられるはずがない。

 いざという時に力になれるように、ミニッツにもっと魔法を教わらなければ。


「そうだな。冒険者の二人も頼らせてもらうよ」


 その笑顔はイケメン以外の何者でもない。眩し過ぎる。お兄ちゃんも少しは見習った方がいい。

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