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第4話

「ほう……。中々似合ってるじゃないか」

「そうだね。かわいいよ」

「お似合いです」


 近くにあった服屋にヒストリアと共に入って約一時間。

 少し露出多めのヒストリアが見立ててくれるということで一抹の不安はあったものの、何だかんだかわいらしくまとまっている自負はある。


 フリルがちょっと多めのワンピース。丈が短くてスースーしたのは厚手のタイツでカバー。左腕には細い輪がいくつも連なったブレスレット。そして腰にはヒストリアがプレゼントしてくれたナイフが差してある。

 ナイフ以外には魔法がかかっているらしく、ちょっとやそっとでは破れたり汚れたりしない。見た目に反して実用性も考えられているらしい。


 魔法がかけられた品はやはりそれなりの値段がするらしいが、今回は古着屋で揃えたので安く済んだ。しかし魔法にも期限はあるみたいなので、ちゃんと自分でお金を稼いで買い換えた方がいいだろう。

 冒険者の服装は鎧等の元々丈夫な物を除いて、魔法がかかっている素材や魔物の丈夫な素材を使うのが当たり前らしい。


 それに比べたらただの制服がボロボロになるのは仕方のないことである。どうやらアレはスライム食われて空いた穴らしい。

 ちなみにその制服は大きめのポシェットに畳んで入れてある。


 この場にいる四人ともそうだが、荷物を持つ時は基本的にウエストポーチだとかの、あまり邪魔にならないカバンを使っている。戦闘ではまだまだ役に立たない私だからこそ、せめて荷物持ちくらいは、と持たせてもらった。


 船長とミニッツの二人からもらったお金は、これだけ揃えてもまだお釣りがあった。残金で財布を買ったお陰でそこに入れる分はなくなってしまったが。

 それだけ二人とも気に病んでいたのだろう。結構な金額だった。


「さてと……これからどうするか……」

「リリカの暮らしていた世界について調べないといけませんね」


 私が服を買っている間に、ベイタにも説明がされていたようだ。

 この世界についてまだ右も左もわからない私はなにも言うことはない。このパーティのリーダー的存在である船長は頭を悩ませていた。


「色々調べつつ、リリカの魔法の練習もできればいいんだがな……」

「これまでみんなはなにか目的があって冒険者やってたの?」


 調べ物も魔法の練習も今日明日に成果が出るものではない。目処がつくまでは船長達の元の生活を続けるのが良いと思う。


「普段はお金を貯めるために適当な依頼を受けていますね」

「それと平行していい感じのダンジョン探し」

「下調べが終わったら貯めたお金で準備をして、そのダンジョンに潜るのよ」


 言うことがなくなってしまったのか船長はうなずいているだけだった。


 しかし船長達がこれまでやっていたことと、私のいた世界へ行く方法を探すことも、あまり違いはないように感じられた。ダンジョンの情報を集める代わりに私の世界の情報を集めるのだ。

 これならみんなの今までの生活を変える必要はないように思える。


「リリカの言うことも最もだな。すぐにどうにかできるもんでもないし、しばらくはリリカが戦えるようにいくつか依頼を受けるか」

「そうね。それから今回のダンジョンのことは考えましょう」


 ダンジョンというのは、私が想像していた通りの、宝物が眠っている場所のことらしい。魔物が多く、誰がなんの目的のために作ったのかもわからない。その奥には強力な魔物がいて、その素材や眠る宝等々、ロマンの地であるとのことだった。

 話を聞けば聞くほどゲームのような内容で、私の気持ちは余計に沸き立つ。


「今回の収穫はリリカだけだったしね」

「どれだけの価値があるかはまだ不明ですね」

「値千金に決まってるでしょ」


 本当に私がお荷物になるのだと思っているなら、失礼な話である。戦えないしこの世界の常識も知らないしで、今のところはお荷物以外の何者でもないのは確かだが。

 そこは追々、どうにかしていくしかないだろう。


 しかし当面の方針として、私が最初に目覚めたダンジョンを目指すことになるのか。

 あそこにはスライムやらゾンビやら、あまりいい印象はない。


「しばらくは簡単な依頼を受けることになりそうだね」


 ダンジョンに潜ることに対して及び腰な私にとって、ミニッツの提案はなんとも嬉しいものだった。

 依頼の内容にもよるが、戦闘の訓練にもなるだろう。そして私が役に立つと四人に知らしめるチャンスでもある。


「そうね。その間に魔法も使えるようになってもらいましょう」

「五人で活動するのは久々だからな。俺らも感覚を取り戻さないと」

「二年前のことですかね。本当に久しぶりです」

「へー。元々、五人のパーティだったんだ」


 なにが理由でその人は抜けたのだろうか。

 仲違い? 怪我をして冒険者を続けられなくなった? それとも寿退社的な?


「その一人はどうして辞めちゃったの?」

 なんとなく嫌な予感がしつつも好奇心は抑えられなかった。

 しかし顔を見合わせた四人を見て、この予感は間違っていなかったのだと悟る。


「元々は五人のパーティじゃなくて八人だったんだよ」

「え……今の倍じゃん……」


 元々八人で始まったパーティが今では半分。南総里見八犬伝もビックリである。


 いくら冒険者の仕事が危険だと言っても、これはなにかあるのではないかと勘繰ってしまう。なにかあったとしても私はこの四人を頼るしかないのだが、それを正直に言ってくれた方が心証はよくなる。

 その意味も込めて四人をじぃっと見つめる。それが伝わったかどうかはわからないが、船長が大きくため息を吐いた。


「最初の一人はダンジョン探索の時にトラップに引っかかったんだ」

「二人目は大蛇に丸呑みにされたんだよね」

「三人目の方は足を滑らせて船から真っ逆さまです」

「そして最後の四人目はアタシ達には付いて行けない、ってパーティを抜けたのよ」


 四人はそれぞれ事もなげに言う。

 一人間抜けがいたが、これだけあっけらかんと言い放つ四人だ。最後に辞めていった人の心労も推し量れる。


「まあ……危険なのは最初に聞いたし今更私も辞めるなんて言い出せないよね……」

「そうか! いやリリカがいなくなったら異世界なんて夢のまた夢だからな」


 嬉しそうに船長は笑っているが、私は諦めの気持ちが強いというのを察して欲しい。


 しかし自分の身は自分で守らなければいけない。わかっていたつもりだが、この四人を見ていると改めてそう思わされる。

 これは魔法の練習も真面目にやらないといけない。

 ファンタジーの世界だヤッターなんて浮かれていられないのはよくわかった。


 私が小さく吐いたため息を四人は気づいていないようだった。

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