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第38話

 出港して二日が経った。実に平和である。


 周囲に島影や他の船は見つからないが、船長は羅針盤を頼りに迷いなく進んで行く。

 一度、双眼鏡を貸してもらって指された方向を見たらちゃんと大地らしき影があったので、迷ったということはないのだろう。


 ちなみに、いつも船長が操舵では大変ということで、今日はベイタが船室に立っている。


「リリカ、空を見て下さい」


 そんなベイタから声がかかる。


 見上げると、鳥の群れが飛んでいた。進行方向は同じようで、いつまでも私達の船の上を連れ立って飛んでいる。

 一緒に旅をしているようで、少しほのぼのする。


 距離がわからないので大きさもわからないが、それほど小さな鳥でもないだろう。


「今夜はアレを食べるとしましょう」


 今日のご飯当番はベイタである。

 そして、今日のお昼ご飯でようやく、外に放り出されて保存ができなかった生鮮食品の処理も終わった。他に食べたのは釣り上げた魚であり、肉は久しぶりだ。


 さっきご飯を食べたというのに久しぶりの肉の味を思い出してヨダレが出て来る。ほのぼのタイム終了。


 しかし、


「どうやって獲るの?」


 使うのは弓矢か銃か。どちらにしろこの船には積んでいないし、私も使えない。

 そう思っていると、階下に降りて行ったベイタは長いヒモを持って戻って来た。一緒にミニッツも付いて来ている。


「ではリリカ、このヒモの先にそれぞれ氷を付けて下さい。同じくらいの大きさになるように」

「おーけー」


 今は敵に追われているわけでもないし、時間がかかったところで問題もない。そんな状況であれば誰だってこれくらいは朝飯前である。

 しかし修行を積んだ私であれば、ゾンビに追われていたってこの程度はちょちょいのちょい。


 見事、拳大の氷をヒモの先に一つずつ作り上げたのだが、ベイタからは「ありがとうございます」の一言だけで魔法の先生であるミニッツからもなにもない。

 朝飯前で褒められるようなことでもないのだが、やはり成長を感じてちょっとは褒めて欲しいのが弟子心。褒めて伸ばすのが正しい師匠のあり方ではないか。


 そんな気持ちをミニッツはもちろん、先生でもないベイタが感じられるはずもなく、私が氷を付けたヒモをベイタは振り回している。ヒュンヒュンと空気を裂きながら回り、そのスピードはもうヒモを見られないくらい速い。


 なにをしているのか、とも尋ねる暇もなく、そのヒモは空へ向けて放たれた。

 回されている時と同じように空気を切り裂きながら飛んで行く。その姿を私達三人は見守っている。


 そして、船の遙か上を飛んでいた鳥の群れの一匹にぶつかったように見えた。

 身体強化の魔法を発動していたわけじゃないのでその瞬間を見ていたわけではないのだが、結果として、ヒモは鳥に絡みついていたのだ。


 群れが一気に散り、一匹の鳥が落ちて来る。


「――うわっ!?」


 ベイタとミニッツは一歩二歩と後ずさり、その理由を理解して急いでその場を離れたその瞬間に、甲板に鳥が落ちて来た。


 翼を広げて一メートルくらいの大きなカモメが甲板で伸びている。ぷーんと血生臭い臭いが漂う。


 今夜はこの鳥を食べるのか。

 それが嫌なわけではないのだが、こうも目の前で死ぬのを見るとなんとも言えない気持ちになる。


 しかしベイタはそんなことはお構いなしにカモメからヒモを取った。


「では次はリリカもやってみてください」

「あぁ……やっぱりそうなのね……」


 その間にミニッツが魔法で出した水でカモメを洗っていた。


 コボルトの肉も食べたくらいだから今更なにも言うまい。

 単純に、料理の前に食材の姿を見せられるのと同じような心地になっただけだ。ジビエ料理を食べる時もこんな感じなのかな、なんて思いながらヒモを回す。

 私なら直接投げた方が早いのでは、なんて思いながらも、恐らく投球では届かないし避けられるのだろう、と気にせずヒモを回す。

 空気を切り裂く音が段々と甲高くなっていくのが心地よくて、なおもヒモを回す。


 鳥の群れは再び船上に戻っていた。


「外しても大丈夫だからね。海に落ちてもボクが拾うから」


 ミニッツの声援を受けながら、狙いをつけて――どうやってつけるのかはよくわからないが――ヒモを放つ。

 十分に加速していたヒモは、ベイタが投げた時と同じように一瞬で鳥の群れへ飛来し、その中の一匹に絡みついた。


「よし!」


 まさか一発で成功するとは思ってもいなかった。

 ミニッツの信じられない、と言いたげな表情には腹が立つが、爽快感がそれを上書きしている。


 二匹では足りないのでもう一匹捕まえ――これも一発で成功した――食材の確保は完了。ミニッツは「ボクの出番なかったじゃん」と言いながら船室に戻った。


「さて、下拵えは済ませてしまいましょう。このままだと不味いですから」

「不味いんだね……」


 コボルトの肉もあまり美味しくはなかったが、サバイバル精神溢れる彼らはそういう食材でも構わず食べる。

 この船ももしかしたら漂流なんて事態になるのかもしれないのだから、食材の節約をするに越したことはないだろう。

 下拵えすれば多少は美味しくなる、とわかっただけ救いがある。


 いくつかの道具を、台所から取って来たミニッツから受け取り、ベイタの手本に倣って、カモメの頭を落とす。そして羽根をむしり取っていく。それが終わればもう鶏肉みたいな物であった。そこから腹を割き、内臓を取り出していったのだが、


「リリカはあまり器用じゃないですね」


 なんてベイタに言われてしまった。


 鳥を捌くのが初めてなのもあるだろうが、ベイタが二匹分を捌き終えるまでに、私は半分も終わっていないとなればそう言われるのも仕方ない。


 血生臭い臭いに若干、気持ち悪くなる。

 取り出した内臓はそのまま海に捨ててしまった。すぐにバシャバシャと水面が騒がしくなり、肉食の魚が普通にいることが少し恐ろしくなる。


 そこからの処理は簡単であった。

 台所へ移動し、カモメ肉へ塩を塗りたくり、スパイスやら野菜やらと一緒に鍋に詰めて終わりだ。小鍋いっぱいになったカモメ肉と野菜達である。


 夜になってそれを煮込んだが、味はそこそこ。食べられなくもないが別段美味しくもない。

 しかしこんな物でも抵抗なく食べられるようになるとは。私もいつのまにか船長達のサバイバル精神に染められているのかもしれない。


探索記はこんな感じの一話完結が多いですね。

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