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第34話

 大きな音を立てて地面が沈んでいく。その様子を私は離れた場所から眺めていた。

 最後の方は今立っている場所も引っ張られて焦ったがすぐに止まり、地面に埋まる、なんてことはなくて一安心。


 ダンジョンがあった場所はそのまま埋め立てられ、すり鉢状に土のめくれ上がったエリアができあがっていた。


 ミルロルの依頼通り、ダンジョンを潰すことに成功した。


「あんまり焦んなくてもよかったね」

「まぁ、結果論ね」


 なんて言うヒストリアも心底疲れている様子で、急いでダンジョンから脱出したのを少し後悔しているようにも見えた。


 ダンジョンが崩れ始めたのは私達が脱出してから三十分は経ってから。魔物もいなかったので、歩いてだって脱出できただろう。

 しかしそれは結果論。


「そのペンダントが核だったのは間違いなかったようね」

「うん。でもダンジョンから持ち出してないのに崩れ始めたからね……。なんだったんだろ」

「ダンジョンにも色々ありますから、そういうこともありますよ」


 それを言われてしまうと、これ以上ダンジョンについて話すことがなくなってしまう。


 そもそも、この場の誰もダンジョンの専門家というわけでもないので、結論が出せないのは仕方のない話だろう。


 とにかく疲れた。答えの出せないダンジョンの話よりも、目下の課題は今日の晩ご飯である。

 これだけ動いてお腹を減らしたのだから晩ご飯にはなにを出されても美味しく食べられる自信がある。


 シーサーペントの肉が残っていただろうか。ホウシァ・ネネが普段食べているご飯もどんな物か気になる。


 まるで私が食いしん坊キャラで、この異世界において食にしか楽しみを見出していないように見えるが、ほとんどそうなのだから仕方がない。

 魔法が上達していくのも楽しいが、美味しい食事には劣る。携帯も使えなくて、娯楽らしい娯楽はカードゲームとかボードゲームくらい。それも毎日の心の糧になるには少し物足りない。


 自分達の船に着く。


 カバンを下ろして荷物を整理し、なにをどれだけ使ったのか確認をする。私達がそれをしている間に船長は、ミルロルへダンジョンが崩れたことの報告。


 私達のダンジョン探索の後始末がすべて終わり、ホウシァ・ネネの人達がちゃんとダンジョンがなくなっているのを確認すると、そこからはもう宴だった。

 ホウシァ・ネネの集落に招かれ、中心にキャンプファイヤーのような巨大な焚き火があり、その周りを踊り回って歌って楽器を鳴らしている。

 想像の数倍は賑やかな宴だ。


 あのダンジョンが現れ、先遣隊もろくに調査ができずに逃げ帰り、ホウシァ・ネネの人達は不安だったのだろう。宴の最中も次から次へと誰かが訪れ、お礼を言われて飲み物も注がれる。

 場所が変わってもやはりお酌はするものなのだろうか。


 もちろん私はノンアルコール。ヒストリアも同じジュースで、男衆だけが酒を飲んでいた。


「見てなさい。船長、すぐに寝ちゃうから」

「うるせぇ!」


 ヒストリアの声を聞いて叫んだ船長だったが、どこか舌っ足らずであった。

 ミニッツやベイタの様子を見る限りまだそれほど飲んでいないようだが、すでに酔っ払っている。それでも構わず杯をあおるのだから相当酒が好きなのだろう。普段飲まない分、こういう時にガバガバ飲んでいるのかもしれない。


「そういえば、ペンダントはどうしたの?」

「ああ! ずっとポケットの中だった……」


 取り出してみると、炎の明かりを受けてきらめいた。それでもやはり、黒く濁っていた。


「これじゃああんまり高くはなさそうだね」


 アクセサリーとしての質は下の方だろう。

 宝石の善し悪しがわかるわけではないが、くすんだ石よりもルビーのように赤く光る石の方がいいに決まっている。


 ただ、どこか引き込まれるような魅力があった。


「それ。不思議な感じ」

「不思議な感じ?」


 いつの間にか後ろに立っていたミルロルが呟いた。


 ヒストリアに驚いた様子はまったくないが、これがミルロルの普通なのか。私なんかは浮いたと思うほどにビクッとしてしまったのだが。


「うまく言えない。でも。不思議」


 それだけ言い残してミルロルは再び宴に戻った。


 私にしてみればペンダントよりもミルロルの方が不思議である。


 しかし、私が感じているような妙に引き込まれるようなこの感じを、ミルロルもまた感じているのだろうか。

 それならば私の勘違いではなく、このペンダントには実際に、なにか不思議な力が宿っているのかもしれない。


「ビックリしたわ……」

「やっぱりそうなんだね」

「彼は気配を隠すのが上手なの。何度かやられてるけど未だに慣れないわ」


 ミルロルの姿を見つけようと宴の中を探すが、まったく見つからない。ヒストリアの言葉も嘘ではないようだ。


 まさか後ろに、と思ったがそこに立っていたのはミニッツだった。


「驚かせないでよ……」

「なにもしてないけど?」


 ミニッツの手には料理の盛られた皿があった。


 今晩のメニューは私が想像していた通り、シーサーペントの肉を使った料理とホウシァ・ネネに伝わる料理。どれもが美味しいから困る。


「どうしたの? ここにはお酒はないよ」

「ベイタくんが船長を寝かせに行ったから暇になったの」

「船長……」


 酔い潰れて眠り、船まで運んでもらう。

 二人の様子を見るにめずらしいことでもないのだろうか。いい大人がそんなことでよいはずもなく、少し恥を知って欲しい。


 ミニッツが持ってきてくれた野菜の煮込みを食べつつ、ペンダントを渡す。


「なんかミルロルが不思議な感じがするって。私もただのペンダントじゃないとは思うんだけど、ミニッツはなにか感じる?」

「んー……」


 色々な角度から見たり、明かりに透かしたりして、私に返してきた。


「感じるっちゃあ感じるけど、なにも感じないと言えば感じないね。勘違いとかじゃないの?」

「ミルロルはそういうタイプだしね……」


 次にペンダントを眺めていたヒストリアも同じようなことを言う。


 結局ヒストリアもなにも感じなかったのか、すぐにペンダントを返してくれた。


「ダンジョンの核になってたくらいだからなにもないってことはあり得ないけど、ちゃんと調べないとわからないよね」

「調べられるの?」

「鑑定士がいるのよ。呪いのかけられた道具を見たり、魔道具にどんな力があるのか調べたりね」


 鑑定士。

 パッと想像するのは虫眼鏡を片手に骨董品を調べる人だ。しかしここはファンタジーの世界。そんなものではないだろう。

 なにか魔法を使って調べるのだろうか。それとも意外とゴリゴリの最先端機械を使って科学的に調べるのだろうか。

 それを想像するだけでちょっとおもしろい。


「どちらにしろ、それはリリカの戦利品だよ」

「え、もらってもいいの?」

「もちろん。それを手に入れたのはあなたなんだから」

「売ってお金にするのもいいし、持っててもいいし。好きにしなよ」

「へー……ほー……」


 私の戦利品と聞くと途端に素晴らしい代物に見えてくる。


 なにかすごい能力が秘められているのか。そうだとしても初めてのダンジョンの記念として取っておこうか。それでも金貨を何枚も積まれたら売ってしまうかもしれない。そしたら私はまさかの億万長者。


 夢は無限大に広がり、ヒストリアとミニッツが呆れていたのにも気づかなかった。


「今日はもう寝たら? 疲れているでしょ」

「そうだね。先に船に戻ってようかな」

「ゆっくり休んでね」


 今ならすごくいい夢が見られそうだ。


 賑やかな宴の席も、少し離れたら喧噪はずいぶん遠くに聞こえる。船を止めてある浜に着いた頃にはほとんど聞こえていない。


「えへへ……。私の戦利品か……」


 月の光を浴びてもやはり黒く濁っている。それでも、さっきまでよりは輝いているように見えた。なんだかそれが嬉しくて首にかける。


 欠伸も出たので早く寝よう。ダンジョンは私が想像していたよりも疲れた。ただ、先に船で休んでいた船長のいびきがうるさくて休むどころではなかった。

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